仕掛島 東川篤哉

●仕掛島 東川篤哉

 出版社の社長が亡くなり、その遺書公開のために瀬戸内海にある別荘へ遺族関係者が集められる。公開の条件として、社長の甥鶴岡を連れてくるため、探偵小早川が雇われる。遺書公開は弁護士沙耶香が父親の代わりに行うことに。

 社長遺書が公開された夜、鶴岡が死体となって発見される。台風の接近により警察が島へ来ることができないことが判明。小早川と沙耶香は殺人事件について調べる中、一族が隠す秘密について調べ始め、医師により23年前の先代社長の謎の死について知ることになる。そんな中、法要のために来ていた和尚が襲われ、23年前と同じ状況が発生。襲った人間が島の絶壁から海に落ちたものと思われた。

 小早川は島と別荘との秘密を探り出し、23年前と鶴岡殺しに関して真相に辿り着くが、さらなる秘密が明らかになってくる。

 

 東川篤哉のシリーズものは「謎解きはディナーの後で」など3つほど読んでいる。その著者がいわゆるクローズドサークルものを書いているのを知り本作を読んだ。

 クローズドサークル、嵐の孤島そのものという状況の中で殺人が起きる。これまでも多くの推理小説作家がクローズドサークルものは書いてきているし、私も数多く読んでいる。推理小説の中でも王道と言えるこれらは、次々と起きる殺人、絞り込まれていく容疑者、その場にいる者たちの恐怖、緊張感、など読む側も本当にワクワクするのが良い。

 

 しかし本作はいわゆる王道ものとは少し異なる。いや、大いに異なる(笑 殺人は1件だけ、その後一人が襲われるが命に別条はない。何より、探偵とワトソン役の弁護士による会話により、緊張感が感じられない。この緊張感が嵐の孤島モノの真骨頂だというのに。でもこれが東川篤哉。他のシリーズものでもそのコメディタッチがウリであるから仕方ないだろうし、これこそが著者の持ち味だから仕方なしか。

 展開は、クローズドサークルでありながら、普通のミステリといった感じになってしまっている。それでも23年前の事件、殺人には至らない事件も発生、謎の赤鬼も出てきて、ミステリとしては十分か。ラストは、島と別荘の謎解き後にも、さらなる展開が2度3度あり、話としては面白かった。

 大小いろいろとあった伏線も全て回収できているので良いのだが、読了後一つだけ疑問が。そもそも23年前の殺人事件、犯人の動機は結局なんだったの?現場状況(すぐに犯行が見つかっている)からは衝動的な殺人に思えたが、その前に犯人が準備万端で臨んでいることが明らかにされているし。ここだけがよく分からない。

 

 読了後に知ったが、話中に出てくる探偵の両親が扱ったと思われる事件を書いた、本作の前編とも言える作品があることを知った。ネットでの評判はそちらの方が高いようだ。

 久しぶりに、しばらくの間、東川篤哉の作品にハマるかもしれない。