新 謎解きはディナーのあとで 東川篤哉

●新 謎解きはディナーのあとで 東川篤哉

 国立署のお嬢様刑事宝生麗子と執事影山、麗子の上司である風祭警部の3人に、新たな新人刑事若宮愛里が加わり、いつものように事件を解決していく。

 以下の5編からなる短編集。

 

風祭警部の帰還

 富豪の屋敷で、家の長男が首吊りした状態で発見される。次男の友人の証言から屋敷の全員にアリバイがあるとわかったが、風祭警部は、次男が部屋すり替えのトリックを使ったと推理する。しかし該当する次男の部屋には、長男の部屋と異なり、窓が1つしかなかった。

 

血文字は密室の中

 元農家の老人が家の密室となっていた土蔵で死体となって発見される。死体のそばには犯人の名前を示すダイイングメッセージがあった。メッセージの男を調べた警部は内出血密室だと推理するが、話を聞いた影山は別の真相を語り始める。

 

墜落死体はどこから

 雑居ビルに囲まれた駐車場で男の死体が発見される。ビルの屋上からの転落死と思われたが、該当のビルの屋上にいた男の証言から、そのビルからの落下はありえない状況だった。聞き込みをしていた麗子は、駐車場を取り囲む別のビルで老人の死体を発見する。警部は、老人を殺したのが先に発見された男だと推理するが、それならばその男はどうやって殺害されたのか。

 

五つの目覚まし時計

 シェアハウスで暮らす若い女性が死体となって発見される。被害者の部屋には5つの目覚まし時計がありそれぞれ数分おきの時刻にセットされていた。シェアハウスの残りの住人3名が容疑者として浮かぶが、3人ともにアリバイはなかった。

 

煙草二本分のアリバイ

 アパートで若い男の死体が発見される。偶然アパートの外にいた人間が、犯行時刻と思われる時間に、アパートを出入りした腹の出た男を目撃していた。体型から容疑者が絞り込まれ、アリバイとの関連から警部は一人の男を犯人だと断定するが、影山は被害者が殺害される直前の行動から真相を見抜く。

 

 約10年前に前シリーズ3作が刊行され、ドラマ化映画化された作品。本作は新シリーズと銘打ってあるが、内容は前シリーズとほぼ変わらない。変わったのは、麗子に新人後輩刑事ができたことぐらいか。一応前シリーズの最終話で栄転したはずの風祭警部がまたもや国立署に戻ってくるところから話はスタートする。

 と書いたが、このシリーズの醍醐味は、麗子と影山の会話、麗子と風祭警部との会話にある。10年ぶりの新作だが、脳内ではしっかりと北川景子櫻井翔椎名桔平がそれぞれのセリフを話してくれていた(笑

 ここ最近、東川篤哉氏の作品を何冊か読んだが、やはりこのシリーズには思い入れがあるのだろうか、他の作品よりもトリックがしっかりしている感じがする。「風祭警部の帰還」はラストの解決が冒頭にあった伏線回収となっており見事だし、「血文字は密室の中」は作者お得意?の密室トリックだが、他の作品のものに比べダイイングメッセージを取り入れたちょっと変わった密室もの。「墜落死体はどこから」は、ドラマで映像化されるのを前提にしたような派手なトリックだった。

 ラスト2話はいずれもアリバイトリックだが、「五つの目覚まし時計」は犯行の手口を明かすトリックではなく、犯人の嘘を見抜くトリック。「煙草二本分のアリバイ」は非常に短い中でのアリバイだが、これまた冒頭の会話が伏線となっており、影山の推理が冴えている印象。

 

 新シリーズとなって変わった点がもう一つ。風祭警部がなかなか鋭い推理をし始めたことか。前シリーズでは、ホームズ物でいうできない刑事の推理しかしなかった風祭だったが、本作では当たらずとも遠からず、といった推理に格上げされている(笑

 wikiを読んで嬉しかったのは、新シリーズは本作以降も書き続けられているということ。北川景子は結婚してしまったが、新シリーズもそのうちドラマ化されるのかしら。何も考えずに楽しく観ることができるドラマとして好きだったから、ドラマ化も期待したい。