秋刀魚の味

●609 秋刀魚の味 1962

 平山の会社に同級生である河合がやって来る。河合は平山の娘路子を嫁にやれと話すが、平山はまだ早いと答える。平山はその日同じく同級生の堀江と同窓会の打ち合わせをすることになっており、河合を誘う。プロ野球の試合を見に行く予定だという河合だったが、平山と一緒に行くことに。

 小料理屋で3人は落ち合い、同窓会のことを話す。恩師である佐久間のことが話題となり、同窓会に呼ぶことに。河合は若い嫁をもらった堀江のことをからかう。その堀江の妻が店にやって来て堀江は一足先に帰ることに。同窓会当日、佐久間もやって来るが、平山たちに丁寧な言葉で対応するものの、勧められるお酒にすっかり酔っ払ってしまう。平山と河合はタクシーで佐久間を家まで送ることに。佐久間の家は場末の中華料理屋で、佐久間の娘で未だ独身の伴子が出迎える。佐久間は平山たちをもてなそうとするが、彼らはそれを辞し帰ることに。

 後日平山たちは3人はまた酒を飲む。その場で佐久間のことが話題となり、同級生たちで義援金を集め佐久間に渡すことにするが、渡す役目は平山が受け持つことに。平山は中華料理屋に行く。そこで軍隊時代の後輩坂本と出会い、店を後にし、バーへ行くことに。坂本は戦争のことを話題としながら、軍艦マーチをマダムにかけさせる。

 平山の家に長男幸一がやって来て金を貸してくれと頼む。幸一は知り合いからゴルフクラブを譲ってもらおうとしていたが金がなかったためだった。しかし幸一の妻秋子は贅沢だと言って反対する。休みの日、路子が幸一の家に金を持ってやって来る。その時幸一の同僚三浦がゴルフクラブを持って家へ。妻秋子に反対されていた幸一はクラブはいらないと話すが、秋子はクラブを買うことを許す。

 平山の会社へ佐久間が義援金の礼を言いに来る。平山は河合を誘い、佐久間と飲むことに。酒に酔った佐久間は娘を死んだ妻の代わりに便利に使ってしまい、婚期を逃してしまったことを悔やんでいた。

 家に帰った平山は娘路子に結婚をするように話すが、路子は自分が家からいなくなったらお父さんはどうするのと話す。平山は幸一の家へ行き彼を連れ出しバーへ。そこで路子の結婚について話す。平山は幸一に縁談相手のことを話すが、路子は三浦のことを好きらしいと話し、幸一に三浦の気持ちを確認するように頼む。

 幸一は三浦を食事に誘い路子のことを話すが、三浦には既に決まった女性がいることがわかる。三浦も路子のことが好きだったが、幸一に路子を嫁にやるのはまだ早いと言われ諦めたことを話す。事情を知った平山は路子にそのことを伝える。路子はそれを聞いて涙を流す。平山は改めて河合が紹介する縁談相手との話を進める。

 無事結婚が決まり、路子の結婚式当日となる。式を終えた平山は河合たちと3人で酒を飲むが一人先に帰り、バーに寄って酒を飲む。遅く家に帰った平山は、一人寂しく水を飲むのだった。

 

 先日「キネマの神様」を観て、小津安二郎がモデルであろう監督の名前が出て来ていて、偶然TVで本作を放送していたので観ることに。

 前に観たことがある一本だったが、印象に残っていたのは、恩師役の東野英治郎の卑屈とまで言える酒の場での態度だけだった。再見して改めて東野英治郎の演技の上手さに驚いた。

 ストーリーは小津作品の定番と言える「父親と娘」。行き遅れそうになっている娘を結婚させる父親の決断とその後に来る寂しさを描いたもの。ラスト娘の結婚はあるが、大きな出来事が起きるわけでもないこのストーリーを見入ってしまうのはなぜなんだろう。昭和40年の風景や世相が興味深いことはあるが、定番のカメラ構図、淡々と喋るセリフなどあまりに平凡なのに。「キネマの神様」の中で語られた、ラッシュで観ると面白くもないのに、それが繋がって一本の映画となると俄然面白くなる、というそのままの作品のよう。

 序盤に交わさせる若い嫁をもらった堀江の死んだというジョーク、終盤に語られる路子の縁談相手が既に相手が決まってしまったというジョーク。どちらも画面の中の登場人物たちが大笑いすることはないが、ニヤリとさせられてしまうのも面白いところ。

 

 名作と言われる本作だが、確かに小津作品をもっと観たくなる一本だった。