恋するハンバーグ 食堂のおばちゃん2 山口恵以子

●恋するハンバーグ 食堂のおばちゃん2 山口恵以子

 佃にある「はじめ食堂」は、昼は定食屋、夜は居酒屋を兼ねており、姑の一子と嫁の二三が、仲良く店を切り盛りしている。店の二人と客たちの中で起きる様々な出来事を描いた短編集。以下の5編からなる。

 

覚悟のビフテキ

 1951年、高校生で18歳だった一子と24歳の孝蔵が結婚。1965年、はじめ食堂を開店して半年ほど経った頃。松方英次と日室真也が従業員として働いていた。月に2、3回ビフテキを注文する若い女性客。孝蔵の父、68歳の貞蔵は寿司屋を営んでいたが、脳梗塞で倒れ半身不随となったため、千葉の施設へ妻小春とともに入居。孝蔵が洋食店として店を引き継ぐ。

 孝蔵は帝都ホテルの料理人だったため、安価で同じ料理が食べられる店に客が来ると思っていた。開店当初は客が来たがそのうち客は来なくなる。一子は店に来る客はご飯が食べたいのだと気づき、孝蔵にご飯のおかずとなるメニューを出すようにアドバイス、客が戻って来る。

 ある時店に少年、西亮介がやって来て無銭飲食をする。彼は集団就職で勤めた工場が倒産、財産も持ち逃げされていた。孝蔵は亮介に金を貸し実家に帰らせ、年が明けたら戻って来てこの店で働くように話す。

 店の客が心筋梗塞で倒れる。ビフテキ食べる女性が対応する。女性は聖路加の医者で佐伯直。手術がある時にビフテキを食べるのだった。

 

ウルトラのもんじゃ

 亮介が約束通りはじめ食堂で働くことに。一子夫婦の息子高の父親参観日の予定の日、一子たちはいつも構ってやれない高のために学校へ行くつもりだったが、常連の酒屋の主人辰波銀平が同級生のために午餐会を開きたいと言って来る。孝蔵は参観日を諦め午餐会を開くことに。高は悔しがるが、亮介が高をなだめる。亮介は本に書かれていたことを読み、田舎出身の自分が洋食屋の料理人になどなれないと不安がっていたが、孝蔵は帝都ホテルの料理長、涌井のことを話し亮介を安心させる。高が行方不明になるが、亮介がいつかの空き地で高を見つける。


愛はグラタンのように

 一子の実家の隣の喫茶店ランバンが主人の高齢を理由に店を閉めることに。ランバンは一子と孝蔵が出会った思い出の場所だった。その頃、一子はランバンの常連で慶応の学生だった時任恒巳に声をかけられたが、一子は孝蔵に好意を持っていた。

 英次の恋人風間紗栄子は結婚を焦っており、英次に独立して店を持つように話をするが、英次はまだ自身がなかった。紗栄子は知り合いの不動産屋が勧める物件を見に行こうと英次を誘う。その不動産屋は時任恒巳だった。時任の悪い噂を知った一子は英次と紗栄子にそのことを話し、二人は店を持つことを断念する。


変身!ハンバーグ

 帝都ホテル時代、孝蔵の後輩だった涌井が世界的なフランス料理の大会で3位入賞をする。涌井はマスコミに騒がれるようになる。近所の居酒屋おたふくに泥棒が入る。一子たちはおたふくの主人永井夫婦の息子に家に戻るように話すが彼は仕事を理由にそれを断る。永井夫婦は息子と喧嘩になり、従業員長谷部富雄に店を譲ると言い出し、それを聞いた息子は裁判を起こすと言い出す。一子たちは永井家の皆を諭す。自信を失った涌井が店に来る。孝蔵は涌井にアドバイスをし、涌井は自信を取り戻す。

 

さすらいのコンソメスープ

 1969年、店に赤目将大という老人がやって来る。彼はビールとスープを頼むが、金を持っていなかった。事情を聞くと若い女性に金を騙し取られていたことがわかる。その後も赤目は連れとともに店にやって来るようになる。亮介はアパートで赤目を見かけ声をかける。しばらくして赤目が将棋の名人だとわかり、雑誌編集者が赤目の代わりに金を置いて行くようになる。ある時赤目は店で倒れる。店にいた佐伯直のおかげで大事には至らなかったが、癌が見つかり余命いくばくもないことがわかる。一子たちは赤目の別れた妻に連絡をするように編集者に頼むが、妻は会わないと答える。それを聞いた亮介は自身で説得に行き、妻と子供は赤目を見舞う。


別れのラーメン

 英次が紗栄子と結婚、独立して店を持つことに。代わりにはじめ食堂に富永亘という若者が入って来る。亮介は亘の出来の良さに自信を失っていた。

 店のそばにベルという喫茶店がオープン、若い女主人が美人だと噂になり、一子たちも出かける。女主人樋口玲子を見た孝蔵は驚く。後日、玲子が音楽評論家として有名な有村とともに店へやって来る。半月後、有村が雑誌のコラムで英次の店を酷評する。それを知った孝蔵はベルへ。玲子は孝蔵の娘だと話し、母とともに捨てられたことを恨んでいた。家に戻った孝蔵は一子に事情を説明する。玲子の母は、孝蔵が軍隊で一緒だった友人の姉で、友人の死後も孝蔵はその姉と付き合いがあった。しかしある時突然その姉は姿を消していた。

 一子の兄が怪我をし、実家の中華料理店を開けなくなる。亮介はそれを聞いて自分が手伝いに行くと話す。

 一子は孝蔵と玲子のことを心配し、勝田の妻に相談する。勝田の妻の言葉を聞いた一子は自信を取り戻す。玲子と有村が店にやって来る。孝蔵は有村に玲子と別れてくれと頼み、玲子は自分の娘だと話す。玲子は有村と別れると話し店を出て行く。

 亮介は正式に一子の実家の中華料理屋で働くことに。

 

 前作に続くシリーズ2作目。前作が現代?を舞台にした話だったのに、本作は2作目にしていきなり舞台は昭和40年代前半に。はじめ食堂が開店した当初から数年の話となる。

 当時の世相や出来事、TVの流行りなどが話の中に取り入れられ、まるで「三丁目の夕日」シリーズを見ているよう。登場人物たちも、店の皆はもちろん、前作で語られた店の常連の親の世代が登場している。

 話は前作同様、よくある話が多い。1話目は、勘違いした洋食店の主人の話。2話目は、田舎出身の料理人を目指す男が悩む話。3話目は、結婚を焦る女性が不動産で騙されそうになる話。4話目は、マスコミに騒がれる料理人と親に構ってもらえなかった息子の話。5話目は、浮世離れした老人とその家族との話。6話目は、出生の秘密に悩む女性の話。どれもどこかで読んだような話だが、舞台が昭和40年代ということもあり、いかにもな話に思えて来るのが不思議。

 過去が舞台ということで、前作では登場しなかった従業員や店が多く出て来る。シリーズはまだまだ続くようだし、本作で登場したこれらの人々や店が今後話に絡んで来るのだろうか?ちょっと不思議な展開を見せた第2作。なかなか面白い展開になりそうだ。