愛は味噌汁 食堂のおばちゃん3 山口恵以子

●愛は味噌汁 食堂のおばちゃん3 山口恵以子

 佃にある「はじめ食堂」は、昼は定食屋、夜は居酒屋を兼ねており、姑の一子と嫁の二三が、仲良く店を切り盛りしている。店の二人と客たちの中で起きる様々な出来事を描いた短編集。以下の5編からなる。

 

歌と麻婆ナス

 はじめ食堂にタカラクリーニングの女性店員浜崎がやってくる。その浜崎がTVのカラオケ番組で優勝、さらにチャンピオン大会での優勝したいと話す。店の常連も知るところとなり、梓がクラブの客に浜崎を紹介したり、浜崎のドキュメント番組ではじめ食堂が取材されたりすることに。浜崎本人もチャンピオン大会に向けて食事などに異常に気を使うようになる。しかし浜崎の夫はそんな妻のことを心配する。店に来た浜崎に一子たちは声をかける。

 

寂しいスープ春雨

 店の常連客後藤の携帯が壊れ、山手の勧めでスマホを買うことに。後藤はその直後から明るくなり始め、出不精だった彼がいろいろと出かけていることがわかる。ある日、店にいた後藤の元へ娘の渚が怒鳴り込んでくる。後藤が信用金庫の定期を解約したことがわかったためだった。翌日真相が判明、後藤はスマホを使った詐欺にあっていた。

 

愛は味噌汁

 二三の娘、要が商店街の福引ではとバスツアーを当てる。一子、二三、要、万里の4人でニューハーフショーを見に行くことに。そこでショーの看板スター、メイが万里の同級生青木だと判明する。後日青木がはじめ食堂にやって来て通うようになる。山手と後藤がダンス教室の先生、中条を連れて店にやってくる。中条と青木が店で遭遇、中条は青木の祖父で、青木は大学卒業後の就職時にゲイであることを告白、それを知った中条は激怒し、青木は家を飛び出していた。一子は青木の生き方を肯定し、中条に青木の気持ちを伝える。

 

辛子レンコン危機一髪

 万里が新しいメニューとして辛子レンコンを作り、常連客たちに評判となり、メニューとして出すことに。ある日、ランチで辛子レンコンを食べた男性がボツリヌス菌中毒で入院、男性の妻が激怒し店に怒鳴り込んでくる。一緒に食事をした部下の女性水木も中毒になっていた。一子たちは冷静に対応、取り置いていた食材を保健所の検査に廻すことに。二三は二人を病院に見舞う。しかし辛子レンコンを食べた他の客は症状が出ていなかった。その後、中毒となった男性の会社の人間が同じ中毒となり、原因が判明、はじめ食堂が原因ではないとわかる。常連客たちが男性のことを調べ、それを聞いた二三は男性と水木が関係していたことを突き止める。後日、水木が店に来て真相を語る。

 

モツ煮込みよ、大志を抱け

 はじめ食堂がTVの居酒屋訪問の番組に出演することになる。喜ぶ皆だったが、一人万里だけは、同じ番組に出演する他の店の情報を仕入れ、はじめ食堂だけが格下であることを恥ずかしく思い始め、一子たちに店の格を上げるための方法を話す。二三は父の代の洋食から現在の定食屋に変わったことに負い目があり、何も言えなかったが、一子はそんな必要はないと答え、壮行会と称しプロ料理人に来てもらい美味しい食事をしようと提案する。

 後日店に帝都ホテル総料理長涌井がやって来て、料理を振る舞う。万里は圧倒されるが、涌井は店のあり方について話す。一子や招かれた常連客たちもはじめ食堂のあり方について話し、万里はそれを受け入れる。

 

 シリーズ3作目。前作は数十年前に舞台が戻っての話だったが、本作は通常運行、第1作の続きと言える物語。

 1話目は、TVのカラオケ番組で優勝した女性が、チャンピオン大会に向けて暴走をしてしまう。2話目は、定年後出不精と言われていた常連がスマホで詐欺にあってしまう。3話目は、ゲイとして生きる万里の同級生が育ての親である祖父と和解する。4話目は、店の辛子レンコンが中毒の原因と勘違いされる。5話目は、TV番組で店が取材されることとなり、万里が暴走してしまう。

 これまでのシリーズと同様、どこかで読んだような話ばかりだが、相変わらずなぜか読んでしまう。1作目でも書いたが、肩の力の抜け具合がちょうど良い。

 

 蛇足。このシリーズは微妙に現実世界のことを取り入れてくるが(前作である第2作では昭和時代の懐かしい風俗が多く描かれていた)、4話目に書かれていた1984年の辛子レンコン中毒事件のことは全く知らなかった。この事件以降、ボツリヌス菌での死亡事故はないらしいが。お土産品で死亡するとは怖い事件である。

 

 まだまだ続くシリーズ、次はどんな話を見せてくれるのか。