稲荷町グルメロード 行成薫

稲荷町グルメロード 行成薫

 就活のことを考え始めた大学3年生の御名掛幸菜は、両親の実家のある地方の街の商店街のアドバイザー募集の応募する。しかし選ばれたのは、クリスという青年だった。そのクリスからアドバイザーの協力を求められた幸菜は、大学生活と並行してアドバイザー業務に取り組み始める。

 以下の5編からなる短編集。

 

稲荷町ゾンビロード

 幸菜は就活を控え、自分の売りとなるものが何もないことに気づき、アドバイザー募集の応募する。父の実家のある街の商店街の復興計画を作り、審査に臨むが落選してしまう。審査の場で市長から言われた一言が気になった幸菜は、商店街を訪れる。そこにいたのは、審査に合格したクリスだった。彼と共に商店街の飲み屋を訪れた幸菜はクリスから、アドバイザー業務を手伝って欲しいと頼まれる。

 

空のカーテン

 クリスの仕事を手伝うことにした幸菜。彼らの事務所に最初に訪れたのは、商店街の老舗和菓子店のヒサシだった。彼は老舗店である実家が、近い将来立ち行かないことを懸念していた。クリス達のアドバイスでヒサシは新商品の開発をしようとするが、店の女将である母親は猛反対する。それでもヒサシは新商品を作り上げる。それを母親に見せるが反応は同じだった。しかし店の職人桜葉はそれがヒサシだけの力でできたとは思わなかった。ヒサシは死んだ父が食べさせてくれた和菓子のことを語り出す。

 

回る、回らない

 商店街の寿司店の女将真澄が相談に来て、店の改装を依頼する。それを引き受けたクリス達は店の大将である圭司に新しい店の目玉商品としてサーモンを出すことを提案するが、一流店で修行をした圭司はそれに反対する。幸菜たちが飲み屋でそのことを話すと店のママ美寿々は圭司が娘さくらが中学生の頃、友達と行った回転すしでサーモンを食べたことを圭司が怒ったことがあると聞かされる。クリスは娘さくらに会いに行き、その思いを聞くことに。その時撮った動画を圭司に見せ、試しで良いからとサーモンを握ってもらうことにする。

 

スリー・ハピネス

 事務所に相談に来たのは中国人の劉さんだった。彼女の夫陳さんが商店街のある店舗で新しい中華料理屋をやりたいという要望だった。その店は事務所の向かいの店、三幸菜館で、陳さんの恩人がその店がなくなったことを嘆いていたという話だった。店の古い写真を見せられた幸菜はそこに祖父と父が写っているのを見て驚く。三幸菜館は二人が昔やっていたお店で家主でもあった。父に話をした幸菜は店を陳さんに貸すことを受け入れてもらう。メニューとして陳さんの母の思い出の麻婆豆腐を出すことを提案するが、思っている豆腐が手に入らないのでできないと言われてしまう。クリスと幸菜は商店街の会長福田の豆腐店に出向き相談をする。福田は渋々ながら陳さんのために豆腐作りをする。

 

稲荷町グルメロード

 幸菜がアドバイザー業務の手助けを始めて1年近くが経過。商店街で20年ぶりとなるイベント、稲荷町グルメロードが開かれることに。

 

 新しいシリーズを探しており、グルメもので探していたが、そこに商店街復活のアドバイザーという職業が絡むと知り選んだ1冊。

 主人公が就活を目前に控えた大学3年になったばかりの女性。その視点が新鮮であり、主人公目線で語られる文章もイマドキの若者らしい言葉で読みやすかった。そんな素人が商店街復活を目指しプレゼンを行うという1話目が面白い。素人ながらもその視点でアドバイザーになるかと思いきや、あっさりと落選するという展開。しかし謎の言葉に惹かれ、その商店街を訪れたことから、物語はスタートする。

 商店街復活という名目ではあるが、取り上げられるのは、飲食店であり、グルメものの小説となっている。グルメで店の復活、となれば、「食堂のおばちゃん」でも書いたように「美味しんぼ」の二番煎じになりがちで、その気配はありつつも丁寧に描かれている分、「美味しんぼ」より面白く仕上がっていると思う。

 読み終えて気づいたのは、グルメや商店街復活を謳いながらも、描かれるのは「家族」の問題。5編あるが最終話はプラスαのエピソードなので、実質4話。うち3話が、家族が絡む話であり、ちょっとホロっとさせられたのも良かった。

 

 続編も出ているようで、ネットではその後を期待する声も高い。次作も楽しみである。