浮草

●618 浮草 1959

 町に旅一座である嵐駒十郎一座が12年ぶりやってくる。一座の皆は町を歩いてビラを配り客を集める。座長である駒十郎はお芳が営む飯屋へ行く。駒十郎とお芳の間には清という息子がいたが、駒十郎は清の叔父を名乗っていた。清は高校を出て、郵便局でアルバイトをし大学へ行くための資金を貯めていた。貯めていた。

 12年ぶりに清にあった駒十郎は二人で釣りに出かける。一座の看板女優であり、今は駒十郎の女であるすみ子はその話を聞いて不審に思う。すみ子は飯屋に出かけ、お芳に嫌味を言う。それを聞いた駒十郎は激怒し、すみ子を店から連れ出す。二人は口喧嘩をし、お互い思っていることをぶつけ合う。

 気が収まらないすみ子は、一座の若手女優である加代に金を渡し、郵便局にいる若い清をたぶらかすように頼む。最初は嫌がった加代だったが、仕方なく話を受け、郵便局に行き清と夜会う約束をする。清は加代に惹かれキスをする。

 一座の公演に客が入らなくなる。次の公演場所との連絡も取れず、座員の中に不安が高まってくる。一方、清と加代はデートを重ねるが、加代はきっかけがきっかけだっただけに清に対しすまなく思い始め、全てを告白するが、清はそんなことを気にしなかった。

 ある日、飯屋から帰った駒十郎は清と加代が密会しているのを目撃、加代を呼び出し叱責する。加代からすみ子から頼まれと聞いた駒十郎は再度激怒、すみ子にここから出て行くように話す。

 座員たちの中に不安は高まり、金を持って逃げようとする者が出てくるが、ベテランである吉之助がそれを諌める。しかしその吉之助が一座の金や座員たちの小遣いを持って逃げてしまう。駒十郎は小道具などを売り、一座を解散することに。最後にお芳の飯屋に行き、清に会おうとする駒十郎だったが、清はいなかった。お芳は旅一座を辞め、父親であることを清に告げ、一緒に暮らそうと駒十郎に話し、彼もそれを受け入れようとする。清は加代と一夜を共にし、翌朝帰ってくる。清は駒十郎に対し、父親などいらないと話し、彼を突き飛ばす。

 それを聞いた駒十郎は飯屋から去って行く。駅に着いた駒十郎はそこにいたすみ子と一緒にもう一旗上げるために桑名に行くことになる。

 

 「彼岸花」に続き小津作品を鑑賞。「彼岸花」が「秋刀魚の味」などの小津作品そのものだったのに対し、本作は、地方の港町に着いた旅一座のメンバーが主役という、全く異なる作品だった。

 昭和34年の作品だが、まだこの頃は旅一座が存在していたが、人気が落ち始めた頃なのだろう。客の入りが悪くなって行く一方で、座長である駒十郎は息子清のこともあり、それを全く気にしていないのがなるほどと思わせる。

 主人公駒十に妻?と息子がいることを知った看板女優すみ子との愛情物語かと思って見ていたが、後半座員による金の持ち逃げという事件が発生、話は急展開する。

 ラストの飯屋での父と息子の会話が見せ場なのだろう。ある意味好き勝手生きてきた主人公が、息子から強烈なダメ出しをされる。小津作品で定番の父親が一撃を食らうパターンの変形バージョンといったところか。監督自身によるリメイクらしいが、戦前でも戦後でも、通用するテーマなのだろう。

 

 ちょっと驚いたのは、冒頭で夏であることが示される本作で、酒を飲むシーンにおいて、常に燗をつけていたこと。昔は暑くても日本酒を飲む時には燗をつけていたのか。あまり上手くない日本酒を飲むときの知恵だったのかしら。