稲荷町グルメロード2 行成薫

稲荷町グルメロード2 行成薫

 前作から1年。幸菜は大学4年となり本格的に就活をするため、実家に戻る。商店街のアドバイザーとして2年目となるクリスは、新たな仲間とともに新規店舗などを迎え入れる活動を続けるが、幸菜の存在の大きさに気づき始める。

 以下の4編からなる短編集。

 

テイク・プライド・イン・サムシング

 商店街の新店舗として、ラーメン屋弓張月とうどん屋参六伍がオープンする。ラーメン屋の主人石垣はラーメンマニアだったが、自らラーメン屋を経営することになった。その自信からクリスのアドバイスは聞こうとしなかった。逆にうどん屋の主人釜田はクリスに相談を持ちかける。釜田のうどんが讃岐うどんだったのに対し、商店街の地元では柔らかいうどんが昔から好まれていた。釜田は地元民の愛する柔らかいうどんにし、クリスの助けで商店街会長の豆腐店の油揚げを使い新メニューを開発する。ラーメン屋は程なく店じまいすることに。


ザ・ウェイ・ウィー・ワー

 クリスの努力もあり商店街に外国や日本でも有名なカフェを誘致する話が決まる。そんな時事務所に商店街再開発に文句をつけるロックおじさんが現れる。おじさんの口利きの影響か、有名なカフェを誘致しようとしていた店が難色を示し始める。ロックおじさんのことを知るためにクリスは鄙びたスナック追憶で話を聞くことに。スナックのママ早矢香からロックおじさんが内田という男性であることを聞いたクリスは、スナックのママ早矢香と喫茶店カルペのマスターが昔結婚していたことを聞く。後日ママは店を閉めると言い出し、クリスは店にまつわる人々の話を聞くことに。結局カフェの誘致は白紙となるが、クリスはスナックのママが喫茶店を訪ねる様子を目撃する。


マンマ・ミーア!

 商店街に昨年オープンしたイラリアンバルの女主人赤城の元をイタリア人マリオが訪ねてくる。彼は赤城の元夫だった。マリオの願いは自分の母親が赤城に教えたティラミスを店で出してもらうことだった。クリスはその話を赤城に伝えに行くが、赤城から出た言葉は意外なものだった。クリスは一計を案じ、赤城に料理教室を開くことを提案、その場にマリオも呼び、教室でティラミスを作ってもらうことに。


ワン・サマー・ナイト

 商店街で夏祭りを開催することに。クリスは多忙を極めるが、必要経費が思うほど集まらなかった。そんな時商店街に幸菜がやってくる。商店街の皆は喜び、アヤは幸菜に夏祭りの準備を手伝うように話す。無事に夏祭りが開催される。幸菜はクリスから一緒に働かないかと誘われ、面接を受けることに。

 

 前作から1年後の世界を描いた本作。前作は大学3年生の幸菜が主人公であり、その目線で小説が語られていたが、就活をする幸菜は商店街から去り、アドバイザークリスが主人公となりその目線で話が進んで行く。

 しかし新規店舗が語られるのは1話目のみ。しかも1話目では1軒は存続のため奮闘するが、1軒は店主の思いが空回りしあえなく閉店してしまう。何でもかんでも成功して行く話ではないのが、このシリーズのリアルなところ。この結果を受けて、役所の課長からクリスが徹底的に非難されるのもリアルだった。

 さらに2話目は長いこと継続してきたスナックが閉店する話。スナックのママを中心とした人間ドラマが描かれると同時に、昔から商店街にいた人々の想いが語られる。これまた商店街のリアルだろう。

 3話目は1年前にオープンし上手くいっている店で起こる元夫婦間のエピソード。正直商店街の復興とは関係のない話になっているが、2話目と同様、人間ドラマが描かれヒューマンな話となっている。

 

 偶然だが、並行して読んでいる「食堂のおばちゃん」シリーズでも、長く続いている店について語られていた。頑なに伝統を守り閉店に追い込まれる店もあれば、時代に合わせ変化することで継続している店もある、という話。まさに本作でも描かれた店の継続に関するリアルな話で、普段客の立場としては気にすることもないリアルが語られており、考えさせられた。

 

 ラスト、前作の主人公だった幸菜が商店街に舞い戻ってきて、全体を通して暗い話が多かった本作に彩りを添えた。現時点で次の作品はないようだが、これは続きが読みたくなる。著者は本作が売れれば…と書いているようで、是非本作が売れることを期待したい(笑