本所おけら長屋 二十 畠山健二

●本所おけら長屋 二十 畠山健二

 

「おとこぎ」

 鉄斎と万造が聖庵堂へ老人を運び込む。老人三津五郎おけら長屋16「ねんりん」参照)は4人の男に襲われているところを鉄斎に助けられたのだった。その夜、聖庵堂をその男たちが襲うがお律の機転で難を逃れる。

 三津五郎は明神一家の元締だったが、彼が退いた今、一家を預かる岩六が阿漕な仕事をするようになり、三津五郎は岩六と刺し違えるつもりだったが逆に斬られてしまう。

 おけら長屋に久しぶりに勘吉(おけら長屋2「まよいご」参照)こと澤田新太郎が訪れる。彼は父が用心棒を務める紙問屋相馬屋の番頭米蔵が賭場で借金を背負ってしまいそのため店が奪われそうだとおけら長屋に助けを求めてきたのだった。米蔵は借金を苦に自殺していた。話を聞いた鉄斎は同心伊勢平五郎に事情を話し協力を求める。おけら長屋の皆も勘吉にために動く。

 松吉が金太の博才を見抜き賭場へ。金太の才能で賭場で勝ち勘吉を助けるつもりだった。勝ち続ける金太だったが女の壺振りが現れた瞬間金太は負け始めてしまう。翌日三津五郎が聖庵堂から逃げ出し明神一家へ乗り込んで行く。鉄斎は伊勢とともに一家へ行き、岩六たちを捕まえる。

 

「ひきだし」

 おけら長屋の万造の元へ柊長屋のおとき婆さんが訪ねてくる。柊長屋は25年前万造が捨てられ育てられた長屋だった。その柊長屋に25年前捨て子がいなかったかと尋ねる若い女が自分が留守の時に来たとおときは話す。その話を立ち聞きした松吉はおときにその女がまた訪ねてきたら知らせて欲しいと頼む。後日知らせを受けて松吉はおときを訪ね、その若い女が三橋長屋に住むお蓮だとわかる。松吉はお蓮に会いに行き事情を聞く。

 お蓮は同じ三橋長屋に住んでいた千尋が半月前に亡くなる前に彼女から聞いたという話をする。昔千尋が旗本屋敷に女中として奉公していた時、殿様が下女お悠を孕ませたが暇を出した。その後殿様がお悠に毎月金を送っていることを知った奥方がその子供を殺すように千尋に命じる。千尋は断ることができず子供をお悠の元から拐かしたが、殺すことができず柊長屋に捨てたとのこと。おけら長屋の皆は千尋の住んでいた家へ行く。遺品から千尋が奉公していた屋敷が判明するが改易されており、また千尋がどのように暮らしてきたかがわかるが、万造の母お悠に関することはわからなかった。

 三橋長屋にきて千尋の家によく出入りしていた屑屋安兵衛からお蓮は話を聞き、生前千尋が金をお悠の家へ届けていたことがわかる。お悠は小網町に住んでいた。お蓮は小網町にいき、お悠がさくら屋という店で働いていることを突き止める。

 万造はお蓮とともにさくら屋へ。二人が食事をしていると物乞いの母娘が店にやってくる。他の客が物乞いを追い出そうとしたところを万造が助ける。それを見ていた店の女主人もその客を追い出し物乞いの母娘に食事を与える。万造は主人お悠に親子であることも告げずに店を出るが、お蓮は店に戻りお悠が昔旗本屋敷に勤めていたことを聞きだし、物乞いの母娘がさくら屋で勤めることになったと話す。

 

「とこしえ」

 お満は長崎留学の件を迷っていた。実家木田屋に顔を出し父宗右衛門にも話すが、宗右衛門は好きにするがよいと話す。おけら長屋の皆はお満と万造のことを心配していた。鉄斎は万造も長崎に一緒に行けば良いと話すが、その金が問題だった。

 八五郎が三祐にやってきて剣術大会が開かれ優勝者に10両が与えられると話し、鉄斎に大会に出て優勝しその賞金を万造の長崎行きに使おうと提案する。

 鉄斎が務める誠剣塾に三沢という浪人がやってくる。彼も大会に出場するが、鉄斎の噂を聞きつけ本人に会いにきたと話す。大会の日、三祐で皆は鉄斎の帰りを待っていた。しかし帰ってきた鉄斎は決勝戦で負けたと話し皆に謝罪する。そこへ三沢がやってきて、10両を鉄斎に差し出す。大会前に三沢の友人川浪が鉄斎に会いにきて、妻をなくした三沢の娘が同じ病で伏せっているが、金がなく医者に見せることができなくて困っている、わざと負けて欲しいと頼んでいたが、鉄斎は断っていた。鉄斎は三沢に真剣勝負で負けたと答えるが、三沢も引けなかった。おけら長屋の皆は三沢の娘を治すのが先決だと話し、三沢の娘をおけら長屋で面倒を見ながら、聖庵堂に通わせることに。

 万造はお満を連れてさくら屋へ。そしてお悠にお満を紹介し結婚するつもりだと話す。三沢の娘美雪がおけら長屋へ。久蔵とお梅の息子亀吉と仲良くなる。美雪はお満とも親しくなり、いつかお満のように医者になりたいと話す。それでも長崎行きを迷うお満だったが、万造はいつまででも待つとお満に語る。美雪の症状が悪化し亡くなってしまう。お満は美雪のような患者を治すためにも長崎に行き勉強をすることを決意する。

 お満が長崎に旅立った後、万造の家にお悠がやってくる。何年か前、お殿様が家にやってきて今生の別れだと100両を置いていったと話し、万造の長崎行きのために25両を差し出す。おけら長屋の皆も万造の旅立ちのために贈り物をする。そして万造は長崎に向け旅立つ。

 

 シリーズ20作目。本文を読み始める前に、裏表紙の紹介文の最後に「大人気シリーズ、ついに完結か⁉︎」とあり、大いに焦った。前作を読んだ際に『そろそろシリーズも終わりに向けて動き出したのだろうか』と書いたが、本当にその通りになってしまったのかと驚いたのだ。

 

 本作はこれまでの定例の構成を破り、3話構成。どの話も人情噺である。

 

 「おとこぎ」は以前登場した三津五郎がゲストキャラ。悪漢たちに襲われていた三津五郎を鉄斎たちが助け、その理由を聞くのだが…。三津五郎の男気に惚れたおけら長屋の面々が三津五郎を手助けすると思いきや、そこにこれまた随分と前に登場した勘吉が現れる。万造の子供になるかもしれなかったこの少年が、父の勤める店の窮地を救って欲しいとおけら長屋に助けを求めてくる。で、この二つの話が見事にリンクしており、あとはおけら長屋の腕の見せ所。万事がうまく解決、本シリーズらしい胸のすく一編。

 

 「ひきだし」は拾い子だった万造の過去が明らかになる話。万造が拾われた長屋の婆さんが25年前の拾い子のことを聞きにきた若い女がいたことを告げるところからスタート。その女性、お蓮から千尋、安兵衛と繋がって行き、万造の本当の母親、お悠が判明。万造がお蓮とともにお悠を店さくら屋に訪ねて行くが…。ここでの万造とお悠の会話や行動が粋なこと。親子とのしての対面は果たさないが、お互いに相手がそうだとわかっているところがニクい。そして、この話がラストへつながる。

 

 「とこしえ」はお満の長崎留学をメインに、万造とお満の恋の結末を見せる。留学は3年かかるため、その間会えない二人を心配する長屋の皆。鉄斎の一言で、万造が長崎に一緒に行けば解決だとなるが、そのための金がない。鉄斎が剣術大会に出場し、その優勝賞金を万造の旅費に、という話が出てくるが…。ところが鉄斎がその大会で負けてしまう。しかしこの話には裏があった。しかもその件でお満が医者になることを再度強く願うことに。この辺りの話の展開の上手さは、本シリーズの真骨頂。

 結局金がなくお満が長崎へ立つことを見送るしかなかった万造だったが、そこへ万造の母、お悠が現れて…。

 

 読み終えて、これでシリーズ完結なのか、と感じてしまった。それぐらい良い結末だったし、本シリーズらしい大団円だと思ったが。読了後、ネットで本作のことを調べていたら、このページに「第1章完結」と紹介されていた。さらに、第2章について現在構想中、とも。あぁ良かった。まだまだおけら長屋の話が読むことができるんだ、と一安心。本シリーズも第1巻発刊からちょうど10年だそうで。私が第1巻を読んだのは2020年12月なのでまだ2年半しか経っていないが、この間随分と楽しませてもらった。第2章にいつ会えることができるかわからないが、楽しみに待っていたい。