甲の薬は乙の毒 薬剤師・毒島花織の名推理 塔山郁

●甲の薬は乙の毒　薬剤師・毒島花織の名推理　塔山郁

　ホテルマン水尾爽太は、薬をもらいに行ったどうめき薬局で薬剤師毒島と出会う。彼女の知識で医師の判断が間違っていたことを知った水尾は毒島に興味を持つ。彼女を食事に誘おうと毒島の元を訪れる水尾だったが、いくつかのトラブルに巻き込まれ、毒島の薬剤師としての知識を借りることになる。

　以下の4編からなる短編集。

知識と薬は使いよう

　奏太は馬場をはじめとするホテルマンの仲間たちと居酒屋へ。そこで笠井が馬場に健康診断結果をもとにした相談をする。馬場は健診前に少し我慢すれば数値は良くなるとごまかす方法を伝授する。その後奏太は昨年入社した原木くるみから毒島と仲が良いと勘違いされ、薬に関する相談を受ける。くるみの祖母が認知症と診断され薬を処方されているが、時々薬が1錠2錠と紛失するということだった。両親や弟など家族関係の話や薬局での手違いなどの可能性を話すがどれも適合しない。

　奏太は例の是沢クリニックの件で毒島たちと居酒屋へ。そこで馬場の糖尿病に関する話をし、毒島たちが馬場にアドバイスするが彼は聞く耳を持たなかった。奏太は毒島にくるみの祖母の話を相談する。その時居酒屋にいた他の客がアルハラで揉め事を起こす。毒島はアルコールを強要する上司にその危険性を説く。助けられた青年は影山と名乗り、礼を言い自分が働く雀荘の名刺を見せる。

　奏太はくるみの弟健介と個別に会う。そして毒島が推理した認知症の薬が紛失する理由を健介に話す。

薬は嘘をつかない

　ホテルの長期滞在者マイケル藤森が宿泊代を踏み倒し逃げてしまう。後日、奏太は学生時代の友人平山と酒を飲む。平山の体格が良くなっており驚いた奏太は理由を尋ねる。平山は同級生だった長谷川梨乃とアニメを通じて仲良くなり付き合っており、彼女の影響でジムに通っているとのことだった。幸せそうな平山だったが、奏太は彼の手の震えが気になる。後日、梨乃から連絡があり奏太は会うことに。梨乃は最近平山が会ってくれないと話し、自分と別れようとしているのではと心配していた。

　奏太は平山のことを毒島に相談、しかし彼女は最近言わなくて良いことを言いすぎているのではと、平山の手の震えの理由を奏太に教えてくれずヒントだけ話す。奏太は自分で手の震えの原因を調べ、平山に会い梨乃が心配していたこと、手の震えの理由を話す。

薬剤師は未病を治す

　是沢クリニックの件がTVでニュースとして扱われる。そのことで奏太と馬場は毒島たちと居酒屋に集まる。馬場の糖尿病のことが話題となり、診察を受けるように薬剤師の皆が言うが馬場は聞き入れない。そして麻雀をして負ければ病院へ行くと言い出す。すると毒島が受けて立つと言い出し、馬場、奏太、毒島に先日居酒屋で出会った影山の4人で麻雀をすることに。馬場は自分が勝ったら毒島とディズニーシーでデートがしたいと交換条件を出すが、毒島はそれも受け入れる。素人同然の毒島だったが、最後に役満を上がり馬場を負かすが、それは少牌というチョンボで馬場の勝ちだった。しかし馬場は病院へ行くと言い出し、ディズニーシーの件は奏太に譲ると話す。

毒をもって毒を制す

　奏太は約束通り毒島とデートすることに。しかしその前に影山が奏太に会いに来る。そして毒島と付き合いたいが、自分が出す問題を奏太が毒島の助けなしに解ければ毒島のことは諦めると言い出す。問題は、即効性の毒を飲んだ人間が毒を飲んだ2時間後に死亡したトリックは、だった。

　奏太は毒島と会うが、毒島に本当に行きたいところを聞くと、それは目黒の寄生虫館だった。二人は寄生虫館へ。そこで奏太は毒島から薬が体に効く根本的な理由を教えてもらう。その後食事をした二人は渋谷で開催されているアニメの原画展へ。そこで奏太は同僚のくるみがマイケル藤森と一緒にいるのを目撃する。ホテル代踏み倒しの件があったこと、その部屋に残っていた薬の受け取りのことを毒島に話す。するとその薬の危険性に気づいた毒島がくるみとマイケルを監視することに。ホテルのバーに行った二人をつけその行動を見守っていた毒島だったが、マイケルがくるみの飲み物に薬を入れたのを見た毒島はその飲み物を飲んでしまう。

　奏太は後日影山と会い問題の答えを提示する。影山はそれを聞き毒島には手を出さないと誓うが、意外なことを話し出す。

　シリーズ2作目。1作目が非常に面白かったので早速続きを読んで見たが、本作も前作同様、非常に面白かった。

　1話目は、認知症を患う祖母の薬が紛失する理由。2話目は、ジムに通いマッチョになった同級生の手の震えの理由。3話目は、馬場が病院へ行くことを賭けた麻雀対決。4話目は、影山が提示した即効性のある毒の効果が遅れて発症する理由。

　薬がテーマのため、小難しい話はいっぱい出て来るが、説明が丁寧なので読んでいて苦にならない。それよりも、認知症の薬の意外な効果やマッチョになるためのドーピングが及ぼす影響、そして糖尿病を軽んじることの怖さなど、意外に身近なことが多く為になる。

　加えて本作はそれぞれの話の繋がりが上手い。1話目で登場した新たな後輩が、2話目で登場した外国人宿泊客とともに4話目で登場したり、ずっと記述されてきた馬場の病気の病院通いが3話目で賭けの対象となったり。薬がテーマだが、後輩の祖母、学生時代の同級生、麻雀対決、そして念願の毒島とのデートなど、エピソードは多種多様で飽きさせない。そう言えば、1作目も、ホテル宿泊客、薬局の患者、近隣の悪徳医者など対象となる登場人物がやっぱり多種多様だった。

　そしてラストの影山のセリフ。奏太が鈍いと言いつつその理由を話さなかったが、最後のエピローグで、毒島の同僚、方波見の夫からその理由が明かされる。毒島が4話目ラストで取った行動は、確かに信頼できる人間がそばにいなければできない行動だったと気づかされる。

　奏太と毒島の仲がいい感じで進んだ2作目。続きが楽しみだ。

甲の薬は乙の毒 薬剤師・毒島花織の名推理 （宝島社文庫　『このミス』大賞シリーズ） [ 塔山 郁 ]