夜のお茶漬け 食堂のおばちゃん11 山口恵以子

●夜のお茶漬け 食堂のおばちゃん11 山口恵以子

 佃にある「はじめ食堂」は、昼は定食屋、夜は居酒屋を兼ねており、姑の一子と嫁の二三が、仲良く店を切り盛りしている。店の二人と客たちの中で起きる様々な出来事を描いた短編集。以下の5編からなる。

 

夜のお茶漬け

 二三が高校の同窓会に出席する。そこで久しぶりに旧姓松木、柳井理沙と出会う。彼女は財閥系の男性と結婚、息子も高級官僚となっているエリート一家で、昔から自慢話しをする女性だった。後日その理沙が京子とともに店にやってくる。理沙は息子が引きこもりなってしまったと告白する。一子はそんな理沙に息子に関するアドバイスをする。

 

師走の目玉焼き

 常連客が上屋敷コーポレーションという不動産屋のことを話題にする。二三たちはなんのことかわからなかったが、翌日はじめ食堂にもその不動産屋がやって来て、地区の再開発をし高層マンションを建てる計画があることを告げる。はじめ食堂もその一画に該当していた。近隣の店にも挨拶をしていることが判明、二三は店の将来に不安を覚え始める。

 

闘う鴨めし

 上屋敷コーポレーションの高原が計画について具体的な説明をしにやってくる。しかし新たなマンションでのテナント料はとてもはじめ食堂が払える金額ではなかった。さらに住民説明会が開かれることとなり、二三は京子に頼んで一緒に出席させてもらうことに。住民からの苦情などを受け付けることもなく説明会は進んでいたが、突然会社の人間たちが慌て始め、説明会は中止となる。上屋敷コーポレーションで手抜き工事が発覚し、地区の再開発の話は取りやめとなる。

 

スッポンで一本

 メイが店に新人2人を連れてやってくる。その夜メイが一人で店に来て、新人2人の活躍を褒め、自身は引退を考えている、前から言っていた味噌汁の店をやりたいが飲食店で働いた経験がないのが不安だと話す。店が終わった夕飯時に一子が再開発の話などがあったので慰労会をしようと言い出す。そして訪ねる店は八雲という日本料理屋に決まる。後日皆で八雲を訪れその料理に舌鼓を打つが、万里だけはその料理に圧倒される。

 

旅立ちの水餃子

 万里は常連三原から本格的に料理の勉強をした方が良いと勧められ、八雲での修行を考えていた。メイも店を出すために働く店が決まり喜ぶが、紹介者に乱暴されその店で働くことができなくなっていた。そんなメイに万里は自分の後釜としてはじめ食堂で働くようにアドバイスする。万里は八雲に修行のお願いに行きなんとか承諾してもらう。昭和の日、万里の送別会とメイの歓迎会が店で開かれる。

 

 シリーズ11作目。とうとう店に大きな転機が訪れる、おそらく節目となる一作。

 1話目こそ、二三の同級生の家庭の問題といういつも通りのエピソードだったが、2話目以降は大きな話がテーマ。2話目3話目は、はじめ食堂がある地区の再開発話。再開発話が持ち上がるが、新たなテナントへの入居の優先権こそあれ、その額は高額ではじめ食堂で払える金額ではなかった。愕然とする二三だったが、再開発話は会社の手抜き工事が発覚しあっさりと中止に。肩透かしを食った感じだったが、本作のメインは4話目5話目に待ち構えていた。

 4話目、メイが引退をし味噌汁の店を出す方向で話が進む一方で、はじめ食堂の皆が慰労も兼ねて日本料理店へ。そこで出された料理の完成度に万里が愕然とする。そして5話目、とうとう万里が本格的に料理の修行をすることを決意、メイがその後釜に入ることが決まる。

 

 ここのところシリーズのパワーが落ちていたと感じていたが、やはり作者も同じ考えだったのだろうか。シリーズの大きな方向転換を迎えることになった。冒頭の1話目の中で、万里が店に来て6年経った、ということが明かされた時に、作中の時間がそんなに経過していたのかと驚いたが、これも5話目への伏線だったのだろう。

 

 前作にこのシリーズの魅力は常連客たちと従業員たちの会話だと書いたが、その常連客たちもここしばらく固定され、店での風景も同じような展開が繰り返されるばかりだった。さすがにマンネリ化が酷くなって来たと言わざるを得ない状況だったので、この新たな展開は仕方ないのだろう。万里が去り、メイが加わることでどのような変化が訪れるかわからないが、シリーズ第一部完といったところか。

 しばらく間を置いて続きを読んでみたいと思う。