猫探偵正太郎の冒険1 猫は密室でジャンプする 柴田よしき

●猫探偵正太郎の冒険1 猫は密室でジャンプする 柴田よしき

 推理作家の桜川ひとみとその飼い猫猫正太郎が活躍するシリーズ第3作。これまでと異なり短編集、正太郎目線で描かれる3編と人間目線で描かれる3編。

 

愛するSへの鎮魂歌

 桜川ひとみの小説を読み、彼女に惚れ込んだ男がストーカーと化す。殺人まで犯したストーカーがひとみのマンションの隣に住むことになり、彼女の部屋へ侵入しようとするが…。

 

正太郎とグルメな午後の事件

 ひとみが食べ歩きの取材を受ける。車で移動しながら取材を続けるが、同行していた正太郎は怪しい車が尾行していることに気づく。

 

光る爪

 女性が不倫をする。相手の男に特に惚れているわけではなかったが、彼の飼っている猫を見たくなった女性は彼の家へ行く。そこで猫を見つけたが、猫の爪にマニキュアが塗られていたのに気づき、それを拭き取る。翌日男の妻が死体で発見されるが、彼女の行動が男のアリバイを証明することになる。そして女性の元夫の死体が発見される。

 

正太郎と花柄死紋の冒険

 ひとみの早朝のジョギングに付き合わされた正太郎。ひとみはそこで猫の死体を発見する。猫の周りにあった足跡をひとみは猫からのダイイングメッセージだと騒ぎ出す。正太郎は猫殺しの犯人を探すために調査を始める。

 

ジングルベル

 前島葉月は25歳の時初めてクリスマスイブを一人で過ごした。それがトラウマとなり翌年からはイブを過ごす相手を探すようになる。29歳となった葉月は婚活サイトで知り合った男性と付き合うようになり、結婚まで考え始める。二人で出かけたペットショップで男性がマタタビを浴びてしまう。その後公園で猫が男性に飛びかかり彼の手帳が落ちてしまう。葉月が見たその手帳には男性が結婚詐欺師だと思われる記載があった。

 

正太郎と田舎の事件

 密室ものの小説を書くことを依頼されたひとみが正太郎とともに同業者の実家に遊びに行く。その晩実家で暮らす女性が死体となって発見されるが、場所は密室状態の蔵の中だった。一緒に遊びに来ていた浅間寺はその密室の謎をとく。

 

 

 シリーズ3作目にして初の短編集。著者があとがきで書いているように、前2作との大きな違いは、人間目線で書かれた話が3話入っていること。「愛するSへの鎮魂歌」「光る爪」「ジングルベル」の3編がそれ。ストーカー、不倫している女性、クリスマスイブを一人で過ごすのを回避するために懸命になる女性、がそれぞれの主人公。

 このシリーズは猫である正太郎目線で描かれているのが特徴で、彼?正太郎の考えや思いがストレートに伝わるのが面白いのだが、この3編では人間の考えや思いがつづられる。前述したように、一癖も二癖もある人が主人公のため、その思いも独特であり、怖さもある。著者が女性のためか、特に女性が主人公である2編の中で描かれる思いは男性である私には恐怖に感じるものもあった。

 正太郎目線の3編は、バラエティに富んだ事件ばかり。謎の尾行車、猫のダイイングメッセージ、お約束の密室。しかし事件そのものよりも、やはり正太郎の考えや言葉が非常に面白い。「正太郎とグルメな午後の事件」では、本線とは関係のない、ヨレヨレの運転をする運転手に対する正太郎の推理は奇想天外なものも含めなかなか。「正太郎と花柄死紋の冒険」での猫のダイイングメッセージだと考えるひとみもぶっ飛んでいるがそれを調査する正太郎の論理展開も面白い。ラストの「正太郎と田舎の事件」はお馴染み浅間寺の推理が冴え渡る一方で、ゲストキャラ?のレオと正太郎の会話が良い。猫にとって住むのに一番良い環境とは何か、がちょっと考えさせられる。

 

 でもやっぱり正太郎目線の話の方が面白い。猫独特の考えを知ることができるし。もちろんそれが著者の考えなのはわかるが、いかにも猫が考えそうなことだからなぁ。