弁当屋さんのおもてなし しあわせ宅配篇4 喜多みどり

弁当屋さんのおもてなし しあわせ宅配篇4 喜多みどり

 夫婦となったユウと千春はくま弁を営んでいた。会社を退職した雪緒がくま弁を訪れバイト募集の紙を見て応募、宅配を主に受け持つことになる。新たにくま弁の一員となった雪緒がくま弁で働く姿を描く短編集、シリーズ第10作、新シリーズ4作目。以下の4編からなる。

 

くま弁ポテサラ五十年史

 熊野の若い頃の思い出からスタート。くま弁の店舗の建て替え話が持ち上がる。そんな時、店に50年前自分の伯母が住んでいたという家を探している興梠木千紗が店を訪れる。千紗はくま弁の住所が記載された伯母の年賀状や家の中の写真などを持って来ていたが、くま弁の昔を知る設計事務所の蟻塚はそんな事実はなかったと話す。蟻塚はくま弁で食べたポテサラのことを話し出し、それが塩辛を乗せたじゃがバターだと判明する。千紗の伯母の年賀状の住所が間違えていたことがわかり、伯母が埋めたタイムカプセルも見つかる。そこには熊野の思い出の品であるライターのケースが入っていた。熊野は若い頃にあった出来事を話す。

 雪緒は熊野のはとこに会いに函館へ。そこでライターのケースを見せるとはとこがライターを返してくる。雪緒は店に戻り熊野にライターを渡す。

 

会えない客と揚げたて牡蠣フライ弁当

 雪緒は小笠原という客からの注文を受け配達をするが、いつも会えずじまいだった。それを気にした雪緒はメッセージを書き弁当に添える。ある日小笠原が店にやって来て初めて会うことに。小笠原は友人と店を始めたがその友人が倒れてしまい忙しいため弁当の受け取りができないのだった。話を聞いた雪緒はオンラインショップの手伝いならできると小笠原に提案する。

 

繋ぎなしハンバーガー弁当

 雪緒は安藤さん宅に配達に行く。そこで住人から隣の安藤と間違えなかったかと尋ねられる。しばらくしてもう1軒の安藤家からも注文が入る。2軒の安藤家はお互いのことを快く思っていないことがわかる。その後店に安藤家の二人の若いカップルが訪れる。それぞれの家の子供である翔子と静司だった。二人は付き合っているが、不仲であるお互いの両親を仲直りさせたいと思っていた。そこで両家で会食をする方法を思いつき、弁当を注文に来たのだった。雪緒は弁当を両家の裏にある河東さん宅に届けるが、その時翔子が飛び出して来る。雪緒は翔子を店に連れて来て事情を聞く。

 雪緒は弁当の容器を取りに河東家へ戻るが、家が火事で大騒ぎになっていた。翌日雪緒は話を聞きに行く。火事が起こり協力して火事対応をしたことで両家の仲は少し改善していたように思えたが、河東が若い二人が結婚を考えていることを話すと、再び両家が言い争いをしてしまう。しかし河東は翔子が家を飛び出したままであることから、二人のためのもう一度弁当を届けて欲しいと話しその場を収める。雪緒は河東から二人が幼い頃自分たちでハンバーガーを作ったことを聞き、それを弁当にすることを思いつく。

 

名無しの弁当と私のお品書き

 千春が体調を崩し入院することになる。バタバタとする店内、病院へ行くユウを送り出した雪緒は店に弁当がとり置かれていることに気づく。配達のための弁当だが、注文者がわからなかった。熊野、黒川、竜ヶ崎、茜まで巻き込んで注文先の客を探し出そうとしたがわからなかった。パティスリーで働く桂がやって来て、弁当の特徴から花粉症のお客ではないかと推測し、やっと注文した客が判明する。ほっとする雪緒だったが、注文システムのことなどで自分の力不足を認識していたところへ茜たちから優しい言葉をかけられ涙してしまう。しかしそのことで自分がやりたいこと、自分に足りないものが何かをはっきりを自覚する。

 雪緒はくま弁を辞めて新しい仕事をつく決意をする。そして気持ちがすれ違っていた粕井にもしっかりと自分の気持ちを伝える。千春の入院が妊娠にまつわるものだと発覚する。

 数年後、改築されたくま弁に雪緒は粕井とともにいた。そこにはユウと千春の子供も黒川もいた。

 

 新シリーズ4作目であり。新シリーズ雪緒篇の最終巻のようだ。

 前作まででも書いてきたことだが、新シリーズはずっとそれぞれの巻でテーマを持って書かれたように思う。1作目が仕事への思い、2作目が過去が現在に与えている影響、3作目は結婚。そして本作は、『想いを伝える』ではないだろうか。

 1話目は、くま弁の住所に昔住んでいた伯母を探す女性の話がメインに思えるが、実はそこから判明するくま弁の店主、熊野が昔経験した苦い思い出、が本当のメイン。数十年前にケンカ別れしたままのはとこと熊野との想い。それを見事に雪緒が取り持つことに成功している。

 2話目は、仕事の相棒への気遣いから忙しくなってしまい弁当配達の雪緒を会うことがなかった小笠原のことと、恋人だと思っていた粕井とのすれ違いに悩む雪緒の話がリンクする。

 3話目は、両親が不仲の隣家同士の子供たちの悩み。そこから発展して恋人であるその子供たちの思いのすれ違いがメイン。両家の裏に住む河東の計らいで無事解決するが、これこそまさに『想いを伝える』ことがテーマとなっている。

 4話目は、新シリーズの最終話であろう話。配達先が不明な弁当を巡りドタバタが起こるが、そこで雪緒が感じた自分がやりたいこと。それこそが『想いを伝える』ことだったという結末。

 

 旧シリーズでもそうだったが、ユウと千春の恋物語がメインだったように見せて、二人の結婚については、旧シリーズと新シリーズの間にあったものとされて詳細は描かれなかった。本作でも、雪緒が転職を決意し、粕井とよりを戻したが、そこの詳細は一切省かれ、数年後の世界がいきなり描かれる。ちょっと肩透かしにも思えるが、このシリーズではこれが定番なのだろう。

 

 新旧のシリーズ、通算10作のシリーズもこれで完結なのだろうなぁ。二人の主役だった千春と雪緒が見事に成長した姿を見せてくれた。くま弁の新しいバイト?が主役になる新新シリーズもなくはないが、ここで終わらせるのが良いだろうなぁ。

 と思ったらシリーズ11作目が刊行されているらしい。でもユウと千春の若い頃の話である番外編らしい。ちょっとだけ読んでみたい気がする(笑