准教授・高槻彰良の推察 呪いと祝いの語りごと 澤村御影

●准教授・高槻彰良の推察 呪いと祝いの語りごと 澤村御影

 青和大学文学部の深町尚哉は少年の頃不思議な体験をし、それが基で他人の嘘を聞き分ける能力を持ってしまう。大学で民俗学Ⅱを受講した彼は、准教授高槻彰良からレポートの件で呼び出され、高槻の調査に同行するようになり、一緒に事件を解決して行くことに。シリーズ第3作。

 以下の2編+αからなる短編集。

 

不幸の手紙と呪いの暗号

 尚哉の友人難波が不幸の手紙を受け取る。その後手紙が原因としか思えない不幸が続いたと難波は尚哉に相談する。尚哉は難波を高槻の研究室に連れていくと、高槻はあっさりと難波の悩みを解決する。尚哉は高槻から女子中学生から届いた依頼、「図書館のマリエさんの呪い」について説明、二人は依頼をしてきた赤城柚香に話を聞きにいく。

 図書館の本に暗号めいた数字が書かれていてそれを見たら暗号を解かないとマリエが現れるという話だった。高槻は図書館の職員雪村からマリエにまつわる話を聞くことに。それは8年前、幸村の高校の同級生、茉莉江が後輩の男子生徒から告白されたことから始まるある話だった。


鬼を祀る家

 高槻、尚哉、佐々倉の3人は、高槻の研究室の学生である瑠衣子の両親がやっているペンションへ旅行に行くことに。途中ジャーナリストを名乗る飯沼に出会うが3人は無視することに。ペンションについた3人は、そばにあるという鬼の洞窟の探検に出かける。すると洞窟で遊んでいた子供たちが鬼の骨があったと大騒ぎする。3人が調べて観るとそれは人の骨だったため、警察に連絡することに。この一件が元となり、洞窟の鬼を祀ってきたという鬼頭家の老人と息子の嫁美和子と出会う。彼らに話を聞いた3人は洞窟周辺を探索していたが、高槻が鳥の影響で崖から滝壺に落ちる事件が発生する。鬼頭家で休ませてもらった3人だったが、回復した高槻は鬼頭家にまつわるある真実を言い当てる。

 

【extra】 それはかつての日の話

 小学生時代の高槻と佐々倉が出会う話。県道を通じて仲良くなった二人だったが、ある時高槻の別荘に遊びに行き、蝶を探していた二人は森の中で迷子になってしまう。その時佐々倉が見たものとは。

 

 シリーズ第3作。これまでの3話構成とは異なり、2話+αという形。そのため1話目こそこれまでと同じ短編だが、2話目は短編というより中編といった長さであり、なかなかエピソード満載の話だった。

 

 「不幸の手紙と呪いの暗号」は、図書館の本に記載された謎の暗号にまつわる怪談。しかし実際に幽霊等が目撃されたわけではなく、怪談自体がまだ出来たばかりで未完成なもの、という高槻の推測が興味深い。ここでは、怪談が完成されて行く過程が述べられ、なるほどと思わざるを得ない。対象となった「図書館の本に記載された暗号」は、子供の頃図書館や図書室に通った経験がある人なら誰しもが一度は考えたことだろう。子供は冒険や暗号などの言葉に弱いので。ただ本作で示された暗号は、高校生が考えたものにしては出来が悪い(笑 小学生レベルといって良いだろう。1冊の本を選ばせるための手段はいろいろあるだろうが、高校生ならばもう少し気の利いた暗号で良かったのでは?そういえば最近別の本の似たような話で図書貸出カードを使ったものがあったが、今はそんなカード自体がなくなっているので、この方法も仕方ないのか。

 この話では、不幸の手紙にまつわる話も出てくるが、そこで語られる「呪い」と「祝い」の類似点と相違点についての話も面白かった。サブタイトルにもなっているこの二つの言葉は、確かに字面もよく似ている。

 

 「鬼を祀る家」は、調査ではない旅行で出かけた主人公?3人が遭遇する物語。本シリーズでは珍しい本格的な怪異物語となると思いきや、意外な方向に話は展開する。ただこの話も最後に語られる真実がちょっと現実では考えられないものだったかなぁ。鬼頭老人とその息子の嫁の気持ちもわからないではないのだけど。

 メインの話とは別に語られた、よそ者を殺し金品を奪う、という話は「八つ墓村」そのもの。こんな伝説にも思える話は実際にあちらこちらにあるのかもなぁ。

 この話での注目点は、高槻の隠された謎に迫る尚哉か。旅先の夜中に尚哉が目撃した高槻の様子。その後のトラブルで高槻の背中を見てしまう尚哉。高槻の謎が解明されるわけではなかったが、一つ真実に迫った感じか。

 

 ラストのextraでは、高槻と佐々倉の出会いと少年時代の不思議な体験が語られる。2話目で少しだけ暴かれた?佐々倉の幽霊嫌いの謎が明らかに(笑

 

 3作目にして少しパワーの衰えを感じないでもなかったが、話の展開やとサブエピソードとして語られる話はやはり面白い。まだまだ楽しませてもらいたい。