キャクストン私設図書館 ジョン・コナリー

●キャクストン私設図書館 ジョン・コナリー

 表題作をはじめとする本にまつわる話をまとめた4編の短編集。

 

キャクストン私設図書館

 バージャーはある時女性が列車飛び込みをするのを目撃する。しかしそんな事実はなく、彼はそれが愛読書アンナカレーニナの主人公アンナだと考える。再度彼女の飛び込みを目にしたバージャーは、彼女の後をつけ、キャクストン私設図書館にたどり着く。そこは有名な本の登場人物たちが実在する不思議な図書館だった…。

 

虚ろな王

 ある王国が北から来る霧に飲み込まれそうになる。国王が軍隊を率いて霧に立ち向かうが帰って来たのは国王一人だった。その後毎年国王は霧の中へ行き戻って来ることになる。ある時不思議に思った王妃が国王の後を部下に追わせるが…。

 

裂かれた地図書 -五つの断片

 ある本にまつわる5つの物語。4つ目の話でそれまでバラバラと思われていた話が全てつながっていたことが示され、行方不明になったモールディングを探すことを命じられたソーターがその奇書「裂かれた地図書」が関係していることを突き止めるが…。

 

ホームズの活躍:キャクストン私設図書館での出来事

 キャクストン私設図書館の管理人は、ある時シャーロックホームズとワトソンと出会う。それまでのルールと異なるタイミングで現れた二人に管理人は戸惑うことになる。後日、小説の中で死んだはずのホームズが、作者コナンドイルの執筆により、生き返り復活することになったが、それは管理人の目の前にいるホームズとは別人だと思われた。それを知った彼らは作者コナンドイルに会いに行くことにするが…。

 

 今話題の例の映画の原作と言われているジョンコナリーの「失われたものたちの本」。それを読むつもりで図書館で借りた一冊だったが、本作はその本ではなく、「失われたものたちの本」からのスピンオフ作品が収められている別の作品だった(笑

 

 そのスピンオフ作品「虚ろな王」は10ページほどの超短編だが、著者の作品や世界観がよくわかる話。ここに登場する『ねじくれ男』が「失われたものたちの本」でも重要な役割を果たす人物だそうで、たった10ページの作品ながら、その『ねじくれ男』の人物像がよくわかる話になっている。そもそも国を飲み込んで行く「霧」が、ナウシカ腐海を連想させるし。

 

 キャクストン私設図書館の2つの話はその設定だけで引き込まれる作品。有名な本の登場人物が実在する、というだけでもう十分だが、1話目の「キャクストン私設図書館」ではバージャーがとる行動は本好きにはたまらないものではないだろうか。そして2話目の「ホームズの活躍:キャクストン私設図書館での出来事」。ホームズがこの世界に現れ、どうなるのかと思いきや、ライヘンバッハの滝以降の話に難癖をつける、というとんでもない展開。傑作も多いと思うが、確かにライヘンバッハ以降の話には空振りに終わったと思える作品が多いのはこんな理由だったとは(笑 一つ前の「裂かれた地図書 -五つの断片」が不気味な話だっただけに、笑って読み終えることができるこの作品で本作が終わるのは見事。

 

 その「裂かれた地図書 -五つの断片」は読むのに力がいる作品かも。5つの短編(4話目は中編とも言える長さだが)を読み始めると、不気味な本に囚われた登場人物たちの悲劇が描かれるパターンか、と思えるが4話目で全てが繋がって来る。4話目の主役ソターが巻き込まれて行く様子はまさにホラー。ある意味めちゃくちゃな展開が待っているが、最終5話目で明かされる結末で幕を閉じる。もちろん、あぁそうだったのかと納得できる結末ではないが(笑

 

 久しぶりに翻訳された本を読んだ。あの映画の原作ではないのが残念だが、それでも久しぶりに「本」を読んだ、という感触はたまらない。