准教授・高槻彰良の推察 そして異界の扉がひらく 澤村御影

●准教授・高槻彰良の推察 そして異界の扉がひらく 澤村御影

 青和大学文学部の深町尚哉は少年の頃不思議な体験をし、それが基で他人の嘘を聞き分ける能力を持ってしまう。大学で民俗学Ⅱを受講した彼は、准教授高槻彰良からレポートの件で呼び出され、高槻の調査に同行するようになり、一緒に事件を解決して行くことに。シリーズ第4作。

 以下の2編+αからなる短編集。

 

 

四時四十四分の怪

 尚哉は2年生になり、高槻の講義もバイトも引き続き受けることに。例によって高槻のサイトからの依頼で建築事務所に勤務する沢木ゆかりと会う。彼女は事務所で4月4日の午後4時44分に「四時四十四分の呪い」の遊びをしてから、その場にいた4人に不吉なことが起こり続けていると話す。差出人不明のメールが来たり、階段から落ちたり、書庫の本棚が倒れたり、と。

 高槻と尚哉は翌日土曜日事務所を訪ね、事務所所長である遠山や同期の村田と会い話を聞く。尚哉は彼らの証言の中に嘘があることに気づく。3日後、高槻はある罠を仕掛け、一連の呪いの真相を見破る。その3日後、高槻は尚哉とともに最初にゆかりと会った喫茶店で遠山と会い、残された謎を解く。さらに遠山自身が持つ秘密にも言及する。

 

人魚のいる海

 江ノ島で人魚が見たという話題がニュースとなる。それに興味を持った高槻が講義で話題にする。講義を聞き終えた尚哉は帰りに男性に声をかけられ高槻の研究室へと連れていくことに。その男性は高槻の叔父、渉だった。3人で帰ろうとした際、高槻が鳩に襲われ気絶してしまう。尚哉の友人難波とともに高槻をマンションに送った尚哉は、渉から高槻と渉が暮らしたイギリスでの話を聞く。

 高槻のマンションに泊まることになった尚哉は翌朝、高槻の父の秘書である黒木と初めて出会う。翌日3人に佐々倉を加え、皆で江ノ島に人魚の取材に行く。地元の女性から、人魚目撃談は女性が一人沖で泳いでいたのを見たのが人魚だと言われ始めたというのが真相らしかった。高槻は1年前に海で自殺した女性がいたことを調べており、それが人魚騒動の発端なのだろうと話す。その時、少年がお母さんは死んでないと叫ぶ。高槻たちはその少年、原田陸を彼の家であるレストランへ連れて行く。そこで店を手伝う海野沙絵や陸の父と出会う。そして陸の母親夕子が1年前入水自殺したこと、陸には母親は人魚になって海に帰ったのだと伝えていることを聞く。しかし陸は母が先日会いに来てくれたと話す。翌週にも陸から連絡があり、母親が会いに来てくれた証拠があると言われ、店に行ってみるとそこには人魚の鱗らしきものがあった。高槻はそれが沙絵の仕業だと考え彼女にもう辞めるように説く。

 しかし尚哉は沙絵の言葉に嘘がなかったのが気がかりだった。帰ろうと海沿いを歩いていた二人は海の中に人魚がいるのを目撃、高槻はそれが夕子だと断言し、店にとって返す。そして店にあった古い写真に写り込んでいるのが沙絵だと気づく。

 1週間が経ち、渉がイギリスへ帰ることに。彼を見送った高槻と尚哉は沙絵に手相見で言われた言葉を思い出していた。


【extra】それはかつての日の話2

 高槻が渉が住んでいたイギリスへ行った頃の話。15歳の高槻は渉の持つアパートメントで渉をはじめとする同居人たちと暮らし始め、地元の学校にも通い始める。そこでジョンという友人ができるが、ジョンが「取り替え子」と呼ばれている理由を渉に尋ねる。それはアイルランドの昔話で、妖精にさらわれた子供の話だった。ジョンはいじめを受けていたが、高槻が戦ったことでいじめはなくなった。ある日渉は鳥を見て気絶した高槻が、意識を取り戻したのち人間が変わったかのようになるのを目撃する。

 ある時ジョンが、明日妖精が迎えに来ると話したと高槻が話す。翌日家に帰らない高槻を心配した渉は愛犬に高槻を探させ、ジョンの家にたどり着く。そこでは男がジョンを連れ去ろうとしていた。渉たちの姿を見た男性は一人逃げて行く。高槻はジョンの身に起きたことをジョンの母親に伝え、「取り替え子」の真相を語る。家に帰った高槻に同居人であるエマが怒り出す。泣きたい時は泣けば良いと話し、マシュマロ入りのココアを飲ませる。それを飲んだ高槻は泣きながら本音を語り出す。

 3年が経ち高槻は日本に帰ることに。渉は日本まで高槻を送るが、待っていたのは黒木だった。金とマンションを与えられた高槻に渉は語りかける。

 

 シリーズ第4作。前作と同様、2話+αの形式が採用されており、1話が100ページ強となり、なかなかの読み応えだった。

 「四時四十四分の怪」は珍しく社会人からの依頼で高槻たちが動く。会社事務所で行った呪いの遊びが現実になってしまった、という話。これまでのこのシリーズの特徴から、真実は簡単に予想できたが、途中女性従業員が交通事故にまで遭ってしまったというあたりで話が大きくなりすぎた感じがしないでもない。事件は予想通りの展開だったが、その後に意外な事実が待ち受けていた。事件に意外な形で関与した人が予想外であり、ここで驚かされる。しかし本当の驚きはその後に。シリーズ主人公尚哉と同じ能力を持つ男性遠山の存在が明らかにされる。しかも同じ故郷を持つ者同士らしい。シリーズ全体の謎である、主人公二人の持つ不思議な過去の解明にまた一歩前進か。

 

 「人魚のいる海」ではさらなる新しい展開が待っていた。本シリーズでは高槻の元に持ち込まれた依頼を調査する、という形で話が進行することが多いが、この話はそうではなく、人魚のニュースに魅せられた高槻が独自に調査に向かうというもの。そこで出会った少年と若い女性、そして人魚騒動の真実。ここまでこのシリーズは、怪異と思わせておいて、実際には人間の仕業だったというオチが定番だったが、初めてそうではないパターンの話となった。

 この話でもう一つ忘れてはいけないのが、高槻の叔父、渉が登場したこと。少年時代から高槻を知るこの叔父が尚哉と出会い、様々な話を伝える。人魚騒動と相まって、この話は、これまでのシリーズのものとは異なる印象を与えたことは間違いない。

 

 そしてextra。前作に引き続き、高槻の少年時代のことが語られる。ラスト、同居人エマの言葉が胸に刺さる。まさか、このシリーズで泣かされるとは思わなかった(笑

 少年高槻がある事件を解決する過程が描かれ、彼の推理能力の高さが昔からだったことが明かされるが、本当に注目すべきは、鳥を見て気絶した高槻が意識を取り戻した後の渉との会話。これまでこの状態での高槻はあまり喋ることがなかったが、ここでははっきりと渉と会話をしている。その中身は非常に古い時代を生きた人間の言葉であり、まるで天狗そのもののよう。

 

 4作目、尚哉も2年生となり、シリーズも新展開となる模様。裏表紙にも「新章開講」とあるし(笑 シリーズ当初からファンタジーどっぷりの世界感だったなら、読む気はあまり起こらなかった気もするが、4作目にしてのこの展開はどうしてもこの先が気になる。どのように話を展開して行くつもりなのか、楽しみである。