三屋清左衛門残日録 新たなしあわせ

●三屋清左衛門残日録 新たなしあわせ 2020

 BSフジで放送された時代劇。北大路欣也主演。原作は藤沢周平の同名の短編集。シリーズ化されており、2023年までに6本が放送されている。

 

 

藤沢周平の原作

 

 

あらすじ(カッコ内は原作内のタイトル、「静かな木」も含む、赤字は原作にない部分)

(「静かな木」)

 清左衛門は釣りをした帰り道、欅の大木の下で遊ぶ子供たちを見かける。

 

(第5話「梅雨ぐもり」)

 家に帰ると娘の奈津が孫娘千鶴と一緒に清左衛門を出迎える。嫁である里江が実家の父の看病のため留守にしているためだった。清左衛門は奈津の夫である杉村に悪いと話すが奈津は杉村は最近帰りが遅いので気にしていないと答える。清左衛門は奈津が少し痩せたのではと心配するが奈津は否定する。そこへ息子又四郎が帰って来て奈津たちを送る。清左衛門は残日録に昼間見た欅のことを記す。

 

OP

 

(第1話「醜女」)

 家に熊太がやって来て相談をする。先代藩主の側室でありながらすぐ実家に帰されたおうめという若い女性が身ごもったがまだおうめは扶持を受けておりそれを知った昔奥を仕切っていた滝野が激怒している、ということだった。しかし清左衛門は先代の殿が亡くなった時、おうめには以後勝手たるべしとの書状が出ているはずだと答える。それを聞いた熊太は書状を探してみるので、事情を滝野に伝えて欲しいと頼む。

 清左衛門は滝野に会いに行き事情を説明するが、扶持をもらっていた上、相手の男も誰だかわからないのでは許すわけにはいかない、と朝田家老から聞いていると、子おろしするしかないと答える。

 清左衛門はおうめに会いに行き、事情を説明し相手の男の名前を聞こうとするがおうめは答えなかった。帰りに清左衛門はおうめの家を見張る武士の姿を目撃する。

 清左衛門は涌井で熊太と会い、見張りの武士のこと、滝野が朝田から話を聞いたことを伝える。涌井を出た清左衛門はおうめの家へ。そこで若い男がおうめと密会しようとしているのを目撃するが、見張りの武士がそれを咎めようとしていた。清左衛門は武士が朝田家老の配下の者であると気づき斬り合いとなるが、騒ぎとなり武士たちは逃げて行く。清左衛門はおうめの相手、近江屋竹之助と話をする。竹之助とおうめは駆け落ちをしようとしていた。清左衛門は後のことは任せて欲しいと二人をなだめる。清左衛門は滝野に相談、そこへ熊太がおうめへの書状を見つけたと言ってくる。清左衛門と滝野は書状を持って朝田家老に会いに行き、おうめを許して欲しいと話す。朝田家老は帰ろうとする清左衛門に、息子の勤めが勘定方であることを確認する。屋敷を出た滝野はおうめに会いに行き事情を説明する。

 

(第5話「梅雨ぐもり」)

 道場での稽古をした清左衛門が家へ帰るとちょうど奈津が帰るところだった。清左衛門は奈津の顔色が悪いことが気になる。家にいた又四郎から奈津の心配事を聞く。奈津は義姉から夫杉村に料理茶屋に女がいると聞かされ、毎晩の帰りも遅く白粉や酒の匂いがするとのことだった。清左衛門はその程度でやつれた奈津を非難するが、又四郎は奈津は父に話を聞いて欲しかったのではと答える。清左衛門はその料理茶屋へ行き、杉村の相手の女性おひでと話をする。茶屋は朝田家老たちが使う店だとわかる。店を出た清左衛門は熊太と出会うが、熊太は逃げるように帰ってしまう。清左衛門は涌井に寄り、みさ相手に奈津の子供時代のことを話す。奈津は子供時代から、言いたいことを言えずにそれが原因で病になってしまうような子供だった。

 料理茶屋に行ったことを知った杉村が清左衛門に会いに来て、詮索はしてくれるなと頼まれる。清左衛門は奈津に説明をと求めるが断られる。その後、杉村は料理茶屋に向かう際、朝田家老の配下の者に襲われ怪我をするが、熊太が中に入り仲裁する。杉村の家に清左衛門は行き、杉村と話す。帰り道、清左衛門は杉村は藩の仕事で茶屋出入りをしていたこと、その役目も終わったことを伝える。子供時代も誤解が解ければ病が治ってしまったことを思い出す。家に訪ねて来た熊太に清左衛門は全て知っていただろうと非難する。

 

(「静かな木」?)

 朝田家老は一件を受け茶屋への出入りを控えると配下の者に話す。しかし朝田の息子鳥飼勝弥は清左衛門親子にほえ面をかかせると話す。又四郎が里江の実家に行った様子を話す。里江の親は回復したが里江が倒れたためもうしばらく実家にいるように言ってきたとのこと。清左衛門は又四郎との二人だけの夕飯にも慣れたと答えるが、又四郎は調べ物があるので帰りがしばらく遅くなると話す。

 

 又四郎は城で昔の帳簿を調べていたがそれを鳥飼が見ていた。城からの帰り、鳥飼は又四郎に清左衛門のことで難癖をつけ刀を抜かせようとする。そこでは堪えた又四郎だったが、3日後に果し合いをすることに。剣の実力では圧倒的に鳥飼が有利だった。又四郎は家に帰り清左衛門に事情を話す。

 清左衛門は熊太に相談に行く。朝田は息子勝弥を代々勘定奉行の家である鳥飼家に養子にやり行く末は金の流れを自在に操るつもりなのだと熊太は話すが、今回の件では力になれないと謝る。清左衛門は欅の大木を見に行き、その強さを想う。

 家に帰った清左衛門は又四郎と話す。又四郎は古い帳簿を調べていて、帳簿におかしな点があることに気づく。5年前勘定方寺井権吉が帳簿の記載間違いで家禄を減らされたが、本来ならば正しい帳簿と誤った帳簿があるはずが、誤った帳簿がなくなっていた。事情を聞こうと寺井の家を訪ねようとした日に鳥飼との一件があった、とのことだった。清左衛門は寺井の家を訪ねる。寺井は病気の娘の面倒を見ながら野良仕事をしていた。清左衛門は5年前の一件、本当は何かあったのではないかと尋ねるが寺井はその件は得心していると答える。

 果たし合いが翌日に迫った日、杉村が清左衛門を訪ねてくる。杉村は例の茶屋で朝田家老と鳥飼が5年前の冥加金の不正について話していたのを聞いたと話す。清左衛門は寺井の家に行き、5年前の件、帳簿記載の間違いで浮いた金を朝田派のものとし、その罪を被ったのではないかと寺井に問い質すが、その時病気の娘が出て来て寺井は家に入ってしまう。清左衛門は帰るが、寺井は家に隠してあった帳簿を眺めていた。

 道場で清左衛門は又四郎に稽古をつけていた。朝田家では朝田が息子鳥飼のことを心配していたが、鳥飼は父に認められたい一心だった。夜、清左衛門は又四郎と酒を飲む。又四郎は今回の一件を謝るが、清左衛門は喜和の位牌に向かって親というものに隠居はないのだなと語りかける。

 果たし合い当日。二人は斬り合いを始めるが、そこへやって来た寺井が止めに入る。寺井は隠し持っていた帳簿を持ち出し、鳥飼にこれまでの思いを語る。しかし鳥飼は配下の者に寺井を斬らせようとする。寺井は刀を使わず柔術で鳥飼を含めた皆を倒し、帳簿を返す。鳥飼たちは帳簿を持って去って行く。残された又四郎は寺井に帳簿を返してしまったらと詰め寄るが、寺井は良い父御を持たれたのと言い去って行く。

 朝田家。朝田は寺井から渡された帳簿を庭で燃やしていた。そこへ鳥飼勝弥御自害の知らせが入る。清左衛門は寺井が果たし合いの場に残していった脇差を返しに寺井家を訊ねるが、野良仕事をする寺井を見た清左衛門は何も言わずに帰っていく。

 涌井で清左衛門は熊太と酒を飲む。鳥飼家、朝田家、寺井家のことを話し、寺井の娘の病が早く良くなることを願う。

 春。三屋家におうめと竹之助、そして滝野と熊太がやってくる。おうめは赤子を連れ、滝野が名付け親になったことを知らせる。又四郎が里江からの手紙を持ってくる。里江は身ごもっていた。清左衛門は欅の大木の元へ行き、命について想いを馳せる。

 

:本作は「静かな木」を原作として使用、ただし「静かな木」は「三屋清左衛門残日録」とは無関係のため、そのストーリー展開を使用している。よって「静かな木」と登場人物は全く異なるため、本作後半は原作「静かな木」とは相違点が多いが、ここではそれを表記しない。

 

まとめ

 シリーズ第4作。前作で書いたように、3作までで未使用だった原作は1話5話12話(12話は涌井に泊まり込む清左衛門に寝床にみさが入って来るエピソードがあるが、これは使用済、ただし12話のメインは清左衛門の過去のある言動に対する後悔がメイン?)。12話のメインの話が未だ未使用となったが、これだけで話を展開するのはちょっと難しいと思われるため、原作「三屋清左衛門残日録」の話はこれで全て出揃ったと考えるのが妥当だろう。

 

 本作の注目点は、里江が登場しないこと。里江役の優香が産休に入った時期と撮影時期が重なったことが理由だと思われる。里江はこのシリーズにおいてレギュラーメンバーであるため、里江抜きの本作では、実家の両親が病気でその看病のため実家に帰っており、三屋家にはいないという設定となっている。これを逆手に取った展開もあった。

 冒頭三屋家に奈津がいた理由は里江の代わりに三屋家の家事を手伝っていたと思われ、この時点で清左衛門は既に奈津の異変に気づいていることになっている。また話が「静かな木」部分に移行する際に、清左衛門と又四郎の2人で夕飯を取ることが続くと話す清左衛門に、又四郎は城で調べ物があるのでしばらく帰りが遅くなると告げる。これはこの後展開される「静かな木」部分の前振りとなっている。

 里江不在に関する部分も上手く話を繋げているが、前作同様それ以外の部分でも3つの話を上手く絡ませている。「醜女」部分で登場した滝野が、ラストで三屋家を訪れおうめの赤子を抱くシーン、「梅雨ぐもり」で登場した奈津の夫杉村が「静かな木」部分で、「梅雨ぐもり」の中で通っていた茶屋で朝田家老の話を立ち聞きしその内容を清左衛門に伝えるというシーンなど。

 

 もう一つの注目点は、原作「三屋清左衛門残日録」以外の原作を使用した点。「静かな木」のアレンジである。以下に、「静かな木」と本作の主だった登場人物の比較をしてみる。

 

「静かな木」の登場人物-(本作での登場人物)-メモ

 

布施孫左衛門(清左衛門) 物語の主人公、息子が果たし合いをすることに

布施季乃 孫左衛門の妻、孫左衛門隠居5年前に死去

布施権十郎 孫左衛門の息子、布施家総領、

石沢久仁 孫左衛門の娘、権十郎の妹、石沢家に嫁ぐ、果たし合いの件を知らせる

間瀬邦之助(又四郎) 孫左衛門の息子、権十郎久仁の弟、果たし合いを受ける

 

鳥飼郡兵衛(朝田家老) かつての孫左衛門の上司、金に絡む不正を行う、現在は中老

鳥飼勝弥(鳥飼勝弥) 郡兵衛の息子、邦之助の果たし合いの相手

鳥飼平右衛門 郡兵衛の父、かつての孫左衛門の上司であり、篤実な人柄

 

寺井権吉(寺井権吉) かつての孫左衛門の同僚、郡兵衛の不正をごまかした仲間 

尾形弥太夫 かつての町奉行、郡兵衛の賄賂の取り調べをした

 

 ストーリーは、本作と基本的には同じ。言いがかりで果たし合いをすることになった息子のため、父が果たし合いをせずに済むように動く、というもの。果たし合いの相手の父(郡兵衛)がかつて金に絡む不正を行なっており、それに関する指摘をして果たし合いを止めようとする。キーとなる人物、鳥飼勝弥や寺井権吉はそのまま人物名が使われている。

 大きく異なるのは、「静かな木」では主人公孫左衛門自身がかつての不正を(泣きつかれたためではあるが)ごまかしている点か。これには訳があり、不正を行った郡兵衛の父に大変世話になったため、と説明がある。また、果たし合いをすることになった邦之助には兄と姉がおり、この兄権十郎の落ち着いていながら父を支援しようとする態度は「静かな木」の見せ場でもある。

 感心するのは、果たし合いの相手の父であり、かつて孫左衛門がその不正をなかったことにするために奮闘してやった郡兵衛が、賄賂で得た金を用いて現在は中老にまでなっており、さらに藩の派閥争いにも加担していること。まさに、「三屋清左衛門残日録」の世界の朝田家老にピッタリの役どころである(笑

 また細かい点ではあるが、ドラマの中で清左衛門が寺井はかつての道場仲間であったが、途中「手詰め」という柔術の道場に移ったというくだりがあった。ラストの果たし合いの場で寺井が勝弥たち相手に見せた技がまさにそれなのだろうが、これは原作と同じである。

 

 ただやはり、この「静かな木」を使った、果たし合いがテーマとなるドラマ後半の展開は「三屋清左衛門残日録」の世界とは少し雰囲気が異なると感じる。確かに「三屋清左衛門残日録」の原作にも「立会人」(本シリーズ「三十年ぶりの再会」で使用された話)という果たし合いがテーマとなっているものがあったが、あちらは剣豪同士が長年の決着をつけるためのものであって、本作のようにつまらないことを理由にする果たし合いではなかった。

 「静かな木」を読んでみた。詳細は別のブログで書くつもりだが、原作では決着をつけるのはあくまで主人公孫右衛門であり、不正に使用された帳簿は出てこないまま。ただそこには郡兵衛の派閥争いの弱点をついた孫右衛門の知恵があり、本作後半のような荒っぽい展開にはなっていない。「三屋清左衛門残日録」の人物の相関関係に非常によく似た原作を見つけ出して来たのは見事だが、この世界に当てはめるには少し無理があったようだ。清左衛門が発する「この歳になって倅のことで…」や「生きていればよいこともある」などは原作にあるセリフ。ドラマの中ではしっくりこなかったが、原作を読むとラストの「生きていれば、よいこともある」は活きてくるセリフとなっているのがわかる。

 

 本作のラストで里江が身ごもったことが手紙で知らされるが、原作では里江が身ごもることはない。これは原作15話分を使用しきった制作側が今後の「三屋清左衛門残日録」の世界は、原作とは離れた展開となりますよ、と宣言しているのだろう。

 2023年時点で、6作まで放送されている本シリーズ。先日その6作目が放送された。これを機会に一気にあと2本分、ブログにまとめようと思う。