三屋清左衛門残日録 陽のあたる道

●三屋清左衛門残日録 陽のあたる道 2021

 BSフジで放送された時代劇。北大路欣也主演。原作は藤沢周平の同名の短編集。シリーズ化されており、2023年までに6本が放送されている。

 

 

藤沢周平の原作

 

 

あらすじ(カッコ内は原作内のタイトル、「闇討ち」も含む)

 

(第9話 「ならず者」)

又四郎と里江の間にできた小太郎を皆で可愛がる三屋家。そこへ江戸から近習頭取相葉が清左衛門を訪ねてくる。殿からの命で派閥争いについて尋ねられる。殿は朝田派の動きを心配していた。

 さらにもう一つ、御納戸頭半田森右衛門の件も。10年前商人からの賄賂を受け家禄を減らされた半田だったが、その件で冤罪の疑いがあるとのこと。半田の代わりに御納戸頭となった東野が帳簿を改竄している。半田の罪は東野の密告だった。半田が冤罪でその後の務めに間違いがないなら、家禄を元に戻すというのが殿の考えだった。相葉は清左衛門に半田の行状をあたってもらえないか、と頼む。半田の生活が描かれるが、誠実で真面目な男だと思われた。

 涌井で熊太と清左衛門は話をする。清左衛門は半田は真面目に勤めをしていると話す。熊田はみさが接客に来ないことを愚痴るが、みさは他の客の相手をしており、相手は中老牧野だった。熊太は牧野は出世へのこだわりはなく、やる気はない男だと評す。

 

(闇討ち)

 涌井を出たところで、二人は清成権兵衛と会う。互いに再会を喜び、清左衛門たちは涌井で飲み直そうと誘うが清成は断り去っていく。熊太は清成の昔のしくじりについて話す。清成は幼き頃の殿に付いていたが、大けがをさせるところで、家禄を減らされ降格させられていた。

 

(第9話 「ならず者」)

 清左衛門は半田が現在付き合いのある呉服問屋駿河屋に出向き、半田について尋ねる。駿河屋は賄賂とまでは言えない少額を都合していると話す。涌井で清左衛門は半田と会い話をする。半田は駿河屋からの賄賂のことを認める。清左衛門は、10年前の件が冤罪であったなら、10年耐えたのになぜ今になって賄賂などを、と聞くが半田は理由を言わなかった。

 

(闇討ち)

 半田が帰り、みさと酒を飲んでいた清左衛門に言付けがあり、清左衛門は貧乏飲み屋むじなやへ。そこには清成と植田与十郎と待っていた。3人は中根道場の仲間だった。清成は3人の中でも剣に秀でていた。今はお互い妻を亡くしており、隠居となった今の生活や昔話を語り合う。清成は手合わせをしないかと清左衛門を誘う。
 二人は道場へ行き手合わせをする。そして昔の思い出の地をめぐり、子供時代を懐かしむ。そこで清成は半田を見かけた話をし、半田が高利貸しに世話になっているらしいと話す。そして清成は、こんな生活には見切りをつけるつもりだ、うまくいかなかったら骨を拾ってくれ、と清左衛門に話す。

 

(第9話 「ならず者」?)

 清左衛門は金貸のところへ行き、半田の借金のことを尋ねる。半田の孫が重い病にかかり、借金をした。その金で薬を買い、おかげで孫は回復したとのこと。清左衛門は半田の家に行き、事情を確認する。そして半田の本音を聞くことに。半田は今の生活を守るために、10年前の冤罪はそのまま受け入れるという清左衛門の提案を飲む。

 

(闇討ち)

 夜、清成が朝田家老の籠を襲うが失敗、怪我をして小屋へ逃げ込む。そこで密かにつけていた武士に襲われ殺されるが、最期に相手の足に一太刀をあびせていた。清左衛門は家で又四郎と里江の作った食事をとっていたがそこへ熊太の使いから、清成が死んだとの知らせが入る。清左衛門は熊太から、朝田家老から黒頭巾の男に闇討ちにあったと訴えがあったこと、その男が清成だったことは間違いないだろうと話す。清成の葬儀が行われ、清左衛門と植田は立ち会う。清成の息子から死の理由を問われるが、清左衛門は何もわからぬと答える。

 清左衛門は植田とむじなやで飲む。そして清成が死んだ理由を問う。植田は清成が家禄を戻すことを条件に闇討ちを頼まれていたと話していたこと、それは罠だと忠告したが清成はだとしても、と言っていたと話す。

 朝田家老は自分が襲われた件について大目付を呼び、清成を斬ったのは朝田派の者ではないと訴える。熊太が家にやってきて、清成が殺されていた小屋にあった提灯が手かがりになりそうなこと。また清成の体にとどめが刺してあったことから、朝田派の仕業ではなく、闇討ちを依頼した人物の仕業だと話す。
 それを聞いた清左衛門は清成が殺された現場へ行き、清成が相手に傷を負わせたと考える。植田は殺害現場に残っていた提灯の出所を探っていた。又四郎は朝田派の中に裏切り者がいるようだと清左衛門に話す。植田は清成が斬られる時、相手に傷を負わせたと考え、事件当日怪我をし治療を受けていた人間を探す。そして当日薬を買った武家屋敷を見つける。

 清左衛門は又四郎の話から、商人たちから朝田派の裏切り者の噂が流れていると聞き駿河屋へ。駿河屋に裏切り者について尋ね、中老牧野の名前が浮かび上がる。牧野は朝田派であったが、遠藤派へ乗り換えるために清成を使って朝田家老を亡き者にしようと企んでいた。清左衛門は熊太に全てを話し、牧野の企みを知る。熊太からは植田が同じように調べていると聞く。植田は薬の一件から牧野の屋敷が怪しいと睨み、清成を斬ったと思われる武士を見つけ出していた。その武士は牧野の屋敷に出入りをしていた。清左衛門は植田に会い、この一件で熊太も動いていると話すが、植田は清成に対する想いを語り去っていく。

 植田は牧野や清成を斬った武士に復讐をしに向かう。それに気づいた清左衛門は加勢に入り、牧野を倒す。結果、牧野は捕らえられることに。

 清左衛門と植田は清成の墓参りをする。そこへ清成の息子夫婦が来て、2人に礼を言い、妻が身ごもっていることを告げる。

 涌井で清左衛門、上田、熊太の3人で飲み、清成に献杯をする。植田は清成のことを思い涙する。清左衛門は熊太と家族とともに、初孫小太郎について語り合う。

 

まとめ

 シリーズ第5作。前作「新たなしあわせ」で原作藤沢周平「三屋清左衛門残日録」の全ての話の使用が完了した、と書いたが間違いだった。原作9話の「ならず者」の一部が未使用で、本作で使用されている。

  「ならず者」では、涌井のみさの昔の男が涌井を訪れる件と冤罪の半田と清左衛門がやはり涌井で話をする件が並行して描かれる。みさの昔の男のエピソードは、ドラマ第2作「完結篇」でドラマ化されていたが、半田の冤罪のエピソードは使われていなかった。

 半田の冤罪を清左衛門が調べるのだが、10年前の事件以降、半田は仕事や暮らしぶりは至って真面目であり、やはり10年前の件は冤罪だったか、と考える清左衛門だったが、最後に現在半田が商人から賄賂を受け取っていることが判明する。真面目な半田がなぜ?と不思議がる清左衛門だったが、半田の孫が重い病気でその薬代に使われたとわかる。原作では、10年前の冤罪で家禄を減らされ金がなくなったため、半田が薬代を稼ぐために賄賂を受けざるを得なくなった点が強調されており、それを知った清左衛門が半田に同情する、という流れなのだが、ドラマではこの点があまり強調されていなかったように思う。

 

 もう一つのエピソードは「三屋清左衛門残日録」以外の原作「闇討ち」が使用されている。「闇討ち」では、興津三左衛門、清成権兵衛、植田与十郎の3人が昔同じ道場で稽古をしていた仲間であるという設定。興津のポジションを清左衛門が取って代わっている、ということのようだ。

 原作とドラマとはほぼ同じ展開であったが、ドラマで描かれた植田の清成に対する想いなどはドラマオリジナルである。また原作では、興津(=清左衛門)と植田が牧野と清成を斬った武士を殺害、派閥争いをしていた家老が牧野殺害の件を不問に付す、という結末だった。この辺りをドラマでは、朝田家老が清左衛門に感謝せねばな、というセリフを言わせることで寄せているのかも。

 

 前作でも書いたが、やはり「三屋清左衛門残日録」以外の原作を使用すると、少し異なった世界観のドラマになってしまう。ドラマでは清成や植田が、隠居をして肩身の狭い思いをしている、という設定になっていたが、原作ではこの点はあまり強調されていなかったし。そもそも原作は、罠に落ちて死んだ昔の仲間の敵討ちを隠居二人がする、というのがメインだったが、清左衛門の世界観にそれはちょっと馴染まないのでは?

 

 次は第6作。今度こそ完全に「三屋清左衛門残日録」の原作から離れた話となる。さてどんな物語が待っているのか。