准教授・高槻彰良の推察 生者は語り死者は踊る 澤村御影

●准教授・高槻彰良の推察 生者は語り死者は踊る 澤村御影

 青和大学文学部の深町尚哉は少年の頃不思議な体験をし、それが基で他人の嘘を聞き分ける能力を持ってしまう。大学で民俗学Ⅱを受講した彼は、准教授高槻彰良からレポートの件で呼び出され、高槻の調査に同行するようになり、一緒に事件を解決して行くことに。シリーズ第5作。

 以下の2編+αからなる短編集。

 

百物語の夜

 夏休みになり、尚哉は遠山と再会、彼があの村に行った時の話を聞く。そして遠山は住人に嘘をつかれたと話し、あの村には行かない方が良いと言われる。

 高槻は学生葉山の提案で学生を集め百物語をすることに。尚哉も誘われ会に参加するが、最後の話が終わった直後謎の言葉が聞こえ、会場はパニックになる。会を録音していたレコーダにも「おにいちゃん」と呼ぶ声が録音されていた。それは会の途中で大石という学生が話した、死んだ妹がおいたと思われる花の話を思い出させるものだった。

 会から3日後、難波経由でその大石から話を聞くことに。まだ花は家に届けらているとのことだった。学校の食堂で話を聞いていた尚哉だったが、その時沙絵が食堂にいることに気づく。沙絵は最近引っ越したのであの海岸にはもういないと高槻に伝言してくれと話し、前に手相を見たときに言った言葉を忘れないようにと尚哉に言い残し去っていく。

 高槻は百物語の主催者だった葉山を呼び出し、真相を言い当てる。その後大石のアパートを訪れた二人は花が置かれる理由を目撃するのだった。


死者の祭

 高槻、尚哉、佐々倉の3人は、尚哉が例の祭りを目撃した村へ旅行に向かう。現地の図書館などで祭りのことを調べるが何も記録は残っていなかった。尚哉のいとこ和也と居酒屋で会い祭りに関することを聞くと、祭りが行われる広場のこと、その側にある山のことなどを聞き出す。尚哉は和也から、祖母が尚哉は山神様に取られたと言っていたと聞く。

 現地に向かった3人は、少年時代の尚哉のことを知る老人中村に会う。祭りや山の話を聞くが、途中で尚哉が特殊能力を持っていることに気づかれ逃げ出す。そして山に登り、反対側に降りるとそこでは別の村の祭りが行われていた。そこでも例の祭りについて聞くが、お化けが出るという噂しか聞けなかった。夕方になり、3人は山に登り元の村へ。その途中、尚哉は例の太鼓の音を聞き、意識を失ってしまう。気が付いた尚哉は高槻と二人で異界に導かれていた。例の祭りがそこでは行われており、死者たちに追われることに。逃げる二人だったが、尚哉はその途中過去にあった出来事を再体験する。死者から逃げ切れなかった二人は、尚哉の祖父と対面することに。そしてこの場に来てしまった代償を求められるが、それは命の半分を置いていけというものだった。高槻が尚哉の分も庇おうとしたとき、沙絵が現れ自分の命の半分を差し出すと話し、2人は解放される。

 気が付いた2人は佐々倉と再会する。そして心配して様子を見に来た中村老人とも出会い、例の祭りに関する真実を聞く。それを聞いた高槻は幻のような出来事を振り返るが、その途中もう一人の高槻が話し出し突然意識を失う。尚哉と佐々倉は意識を失った高槻を車に乗せ帰京することに。車の中で意識を取り戻した高槻だったが、今回の旅行に関する全ての記憶を失っていた。


【extra】マシュマロココアの王子様

 瑠衣子は友人たちと女子会をする。その場で友人たちから高槻とのことを聞かれた瑠衣子は高槻の研究室へ入った当時のことを思い出す。高槻は本当に優しい男性だったが、ある雨の日、瑠衣子は高槻の背中の秘密を見てしまう。

 

 シリーズ第5作。本作も前作同様、2話+αの構成で1話分のボリュームが多く読み応えがある作品となっている。長さだけではなく、本作はいよいよ尚哉の秘密に迫るクライマックスと言える作品。

 

 「百物語の夜」は学生の提案で学校で百物語の会が開かれる。嘘を聞き分けられる尚哉にはツライ会だったが、中には嘘ではない、しかし不思議な体験を語る者もいた。そんな中、かいが終わると同時にありえない声が聞こえる事件が発生、その声はレコーダにも記録されていた、という話。こちらの事件はあっさりと解決をするが、この話のメインは沙絵の再登場。前作の人魚の話で登場した、謎の女性。おそらく人魚の肉を食らうことで永遠の命を手にいれた女性だと思われ、高槻と尚哉の手相を見て、ある予言もしている。再登場はするが沙絵はあっさりとまた姿を消してしまう。これは次の話への伏線だったのだが…。

 

 「死者の祭」はいよいよ尚哉が少年時代、謎の祭りに参加した長野の村へ向かうことに。尚哉のいとこや知り合いの老人、隣村の住人などから祭りに関する噂をいろいろと聞いた3人は、謎の祭りが行われているであろう時間に現地へ向かう。その途中、高槻と尚哉だけが異界へ導かれてしまい、少年時代の尚哉同様、代償を求められるが、そこへ沙絵が現れ、二人を助けてくれる。

 ここまでのシリーズでは怪異と思われたことを調べる高槻が、その真相は人間の手によるものだったことを突き止める、という結末が定番だった。本作でも1話目の「百物語の夜」はまさにそのパータン。しかし前作の人魚の事件は、そうではない結末が待っていた。この「死者の祭」も人魚パターン。さらに高槻と尚哉が異界に入り込んでしまい、大ピンチにさらされる。それはイコール、尚哉の少年時代経験した謎の解明ということにもなるのだが。前作でも書いたが、シリーズを通してのこの展開ならば、このようにファンタジーに話が傾いても嫌な感じはしない。むしろ田舎の祭りをリアルに描くことで、このような祭りが実際にもあるかもしれないと思わせてくれた。

 二人が異界で死者たちから逃げようとするシーンは緊張感があったし、途中に挿入される彼らの過去の再現場面も効果的だったように思う。大ピンチを沙絵の助けで乗り切るのだが、これも伏線が効いていてなかなか。あぁこのクライマックスを描くために、前作があったのねと納得できた。

 

 ラストのextraは、2話目が緊張感高かっただけに、ちょっとホッとする良い話。そう言えばこのシリーズ、年頃の男女が登場するのに恋愛話は全く出て来ていなかったなぁと今更気づいた(笑

 

 シリーズにある大きな2つの謎のうち、一つが解明された本作。となると残された謎はあと一つということだが、この解決はもう少し先になるのだろうなぁ。次の作品の展開が楽しみ。