玄鳥 藤沢周平

●玄鳥 藤沢周平

 藤沢周平による短編集。以下の5編からなる。

 

玄鳥

 路は門の軒下につばめが巣を作ったと夫の仲次郎に知らせると仲次郎はその巣を取り払うように命じる。父ならばそのままにしたのにと路は思う。路は叔母の茂登を訪ね、上意討の旅に出た3人の消息を聞く。その中の一人、曾根兵六は路の父の秘蔵の弟子だった。曾根は生来の粗忽者で、父は秘伝の型を授けようとしたが、それに気が付いて奥義の伝授を途中で止めてしまった。兵六たち3人は上意討ちに失敗、1人は死亡、1人は怪我をし、兵六だけが無事に戻ってくる。兵六は減石のうえ、役替で大坂へ行くことに。しかし死んだ者の家から訴えがあり、兵六に討手が送られると路は夫から聞く。路は父からの伝言で兵六に奥義の続きを教えに会いに行く。

 

三月の鮠

 窪井信次郎は去年の秋の藩主の前で行われた紅白試合で岩上勝之進にに負けて以来、自信をなくし、道場にも通わず釣りばかりしていた。信次郎が釣りの途中で寄った社で巫女と知り合う。信次郎はその巫女のことが気になり通い始める。ある日信次郎は社の別当に呼ばれ、3年前の土屋家の惨事を聞かされる。惨事とは土屋家が賄賂の疑いを持たれ調べてられている最中に土屋とその息子のどちらかが一家を皆殺しにしたというものだった。しかし土屋の賄賂に関しては彼が所属していた岩上派による陰謀だったのではないかという疑いがあり、その時生き残ったのが巫女の葉津であること、逃げた葉津を追ったのが勝之進であること、今も葉津が狙われていること、を聞く。

 信次郎はまた道場に通い始める。そして社に行くと別当たちが何者かに殺されていた。しかし葉津は行方不明になっていた。信次郎は今年の紅白試合に出ることになり、勝之進と戦うことに。信次郎は勝負に勝つが、その時知らせが入り岩上の悪事が表沙汰になる。それを知った勝之進は刀を持ち出し家老を斬ろうとするが信次郎が勝之進を切り捨てる。

 屋敷に帰った信次郎を待っていたのは葉津の居場所の知らせだった。彼は葉津に会いに行く。

 

闇討ち

 道場仲間だった興津三左衛門、清成権兵衛、植田与十郎の隠居三人がむじなやで飲む。清成が闇討ちを頼まれたと告白するが、相手や依頼人については話さなかった。何かあれば骨を拾ってくれと清成は頼む。

 迫間家老を狙った闇討ちは失敗し、清成は惨殺され見つかる。興津と植田の二人は清成に闇討ちの依頼をした者を探す。剣の腕が確かだった清成が相手に一太刀与えたはずだと考え怪我をした武士を探し、中老牧野の名が浮かぶ。二人は清成の仇を討つため牧野を倒しに行く…

 

鷦鷯

 横山新左衛門は石塚平助から借金の催促を受けるが、利子を返すだけで精一杯だった。石塚は新左衛門の娘、品を石塚の息子、孫四郎の嫁に欲しいと話すが新左衛門は断る。しかし新左衛門は孫四郎が家に来て品と話すのを目撃する。

 ある時、同じ普請組小頭の畑谷甚太夫が家人を斬り暴れていると知らせが入る。新左衛門は現場に向かった。そこへ大目付と一緒に現れたのが、孫四郎だった。新左衛門は孫四郎に畑谷の剣に関する助言をし、孫四郎はそれを聞いて細谷の家へ入って行く…

 

浦島

 御手洗孫六は18年前に起きた事件のため禄を減らされ、勘定方から普請組に役替えを命じられた。孫六は普請組の仕事にすっかりなじんでいた。ある時孫六呼び出され、18年前の事件の疑いが晴れたため、禄が戻され勘定方に戻ることに。

 しかし勘定方で働いていた同僚たちの多くは代替わりしており、孫六は若者たちから嘲笑を受けることに。飲み屋でそんな彼らに腹を立てた孫六は騒ぎを起こしてしまうが、それを奉行に見つかってしまう…

 

 BSフジのドラマ「三屋清左衛門残日録 陽のあたる道」の原作本ということで読んでみた。そのドラマの前作「〜新たなしあわせ」の原作「静かな木」を読んだ際にも書いたが、藤沢周平の著書は結構な数を所有しており、その中にあった一冊。

 

 「玄鳥」は主人公路の視点で描かれる物語。事件は起こるが直接路に関係するものではなく、関係者である兵六に路が最後に秘伝を伝えるところで話は終わる。この切り口がいかにも藤沢氏らしい。冒頭のツバメの巣の話は、路の夫の冷たさや真面目さを物語るためのエピソードと思いきや、ラストでそのエピソードも含めた路の感情が明らかにされる。見事としか言いようがない作品。

 

 「三月の鮠」は藤沢氏お得意の剣術に長けた武士の話。大事な試合で負けた主人公が、女性との出会いによってやる気を取り戻し、復活を遂げる。その再試合で勝っただけではなく、女性にまつわる陰謀も解決される爽やかなラスト。

 

 「鷦鷯」は借金返済に苦しむ主人公が、金貸しに娘を嫁にくれないかと言われる話。金貸しの態度に怒り話を断る主人公だが、ある事件をきっかけに金貸しの息子と知り合い、彼に好意を持つようになる。ラストも主人公と金貸しの息子の会話で終わり、その後の娘と息子のことを暗示して終わる。

 

 「浦島」は酒での失敗で役替をされた武士が主人公。その失敗が帳消しにされ、18年ぶりに元の職に戻るが…という話。主人公のダメっぷりが可笑しく、藤沢氏のユーモアが感じられる作品。

 

 そしてドラマの原作となった「闇討ち」。主人公の一人を清左衛門に置き換えられてはいるが、ほぼドラマと同じ展開をみせる。しかしこの原作は、3人の友情がテーマのように思える。つまり事情を明かさなかった清成が、闇討ちに失敗した時は骨を拾ってくれと頼み、残った二人が清成の仇を取るために動く話である。藤沢氏の得意とするテーマのひとつ、敵討ちであり、小説としてはもちろん成立しているが、やはり「三屋清左衛門」のエピソードとするには違和感がある。

 

 ドラマがきっかけとなり読んだ一冊だったが、やはり藤沢周平の作品は面白い。ドラマ第6作の原作も読んでみようと思う。