三屋清左衛門残日録 あの日の声

●三屋清左衛門残日録 あの日の声 2023

 BSフジで放送された時代劇。北大路欣也主演。原作は藤沢周平の同名の短編集。シリーズ化されており、2023年までに6本が放送されている。

 

 

藤沢周平の原作

 

 

あらすじ(カッコ内は原作内のタイトル)

 

(「桃の木の下で」)

 道場で少年たちと稽古する清左衛門。その道場では亥八郎も稽古をしていた。清左衛門が家に帰ると鹿間家の志穂が家に来ていた。志穂は里江と幼馴染であり、幼い頃桃の節句で、志穂の親類だった亥八郎は志穂に嫁になれと話したことがあった、という思い出話を語る。志穂は家に帰り、夫の麻之助に三屋家に行った話をする。

 清左衛門は道場帰り、茶屋で団子を食う亥八郎を見かけ声をかける。亥八郎は志穂と最近会っていないようだった。

 

(「闇の顔」)

 城の石垣の普請が長引いていた。夜、見回りの武士が二人の惨殺死体が発見する。大関泉之助と普請奉行の志田だった。その場に大関の父と志田の息子たちが駆けつける。息子たちによれば、志田はかつてより泉之助から誹謗を受けていたとのこと。二人は相討ちだと思われたが、泉之助は背中を袈裟斬りで斬られていたが、志田の刀に血はついていなかった。

 清左衛門は墓参りをしその帰りに大関の葬儀の列と出会う。そこへ農夫赤松がやって来て、棺桶をあばく。赤松は泉之助の実の父だった。赤松は泉之助の斬られ傷が背中の袈裟斬りの傷であることを皆に見せ、これは志田の仕業ではなく、誰の仕業か察しがついている、このことを町に触れてくれと話す。昔赤松が殿に直訴をしたことを清左衛門は思い出す。

 熊太が清左衛門の屋敷へやってきて、二人の斬り合いの件を話す。大目付は相討ちで済まそうとしているが、志田の刀に血の跡がないことはわかっており、つまりもう一人その場にいたということ、と熊太は話す。
 赤松は20年前、殿に直訴をし自ら家禄を返上し農夫となっていた。清左衛門は赤松が20年前に何を訴えようとしていたか知らなかった。

 清左衛門は岡本村の赤松の家へ行く。そこで赤松が武士を辞めた際、息子泉之助を大関の家に養子に出したと聞く。清左衛門は20年前の直訴の書状がなくなっていたと話し内容を尋ねる。赤松は組織が腐っているのでもみ消された、それが息子にまで及んだと答える。

 

(「桃の木の下で」)

 涌井で熊太の食いっぷりを見て、清左衛門は亥八郎のことを話題にする。

 

(「闇の顔」)

 熊太は20年前の赤松の直訴の件を話す。組頭丹羽のことを赤松は訴えようとしていた。丹羽はあえて家老にならず、組頭にとどまりその権力で人や金を裏で動かしていた。丹羽詣をすることで志田は普請奉行になった。つまり、20年前の訴えと今がつながっていると熊太は話す。

 城内にて丹羽が朝田家老に貢ぎ物、つまり金を献上すると話しかける。

 赤松の家に農民が集まる。皆は年貢の取り立てが厳しいと話し、赤松は郡代に直接訴えると話す。

 清左衛門は又四郎から、志田が城の石垣の普請において横領をしており、泉之助がそれを訴えており、それが理由で二人がよる斬り合いになったらしいと聞く。

 赤松の家。赤松は郡代へ訴える訴状を書いていたが、彼の元に何者かが現れる。
 翌日、清左衛門は赤松の家へ行くが、赤松は袈裟斬りで殺されていた。調べに来た大目付と鹿間に清左衛門は泉之助と同じ袈裟斬りの傷だと指摘するが、大目付は聞き入れなかった。さらに話そうとする清左衛門を、鹿間は後で話を聞くと諭す。
 清左衛門は農民たちから、郡代に訴えようとしていたのが原因であろうこと、息子泉之助が時々来ていたことを聞く。

 涌井で清左衛門は鹿間を待っていた。清左衛門は鹿間に泉之助と赤松は同じ人間に斬られたのだろうと話し、丹羽の名前も出すが、鹿間は否定する。

 

(「桃の木の下で」)

 家に帰った鹿間は、妻志穂に三屋の家へ行かないように忠告する。三屋家に行くことを禁じられた志穂はきな粉餅を持って伊八郎に会いに行く。二人は昔の思い出話をする。伊八郎はきな粉餅を持って、清左衛門を訪ねる。

(「闇の顔」)

 清左衛門は死んだ泉之助の墓参りに行く。そこに大関がいた。志田の息子がやってきて大関を斬ろうとしていたのを清左衛門は止める。大関は最近志田の息子たちに狙われていると話す。清左衛門は、赤松の息子泉之助を大関が引き取った経緯を聞く。

 

(「桃の木の下で」)

 鹿間は志穂に子供ができないことをもう案ずることはないと話す。それを聞いた志穂は里江に会いに行き、子供ができないことを理由に夫が離縁を考えているらしいと話す。

 

(「闇の顔」)

 熊太は赤松の件が町奉行である自分に調べが移った、これは曖昧に話を終わらせるためだろうと話す。熊太と清左衛門はしっかりと調べをするためにあることを企む。

 涌井で清左衛門は伊八郎と話す。熊太は朝田家老に赤松の一件の調べから、志田と泉之助の一件に関わりがあることが判明したことをほのめかす。丹羽の元に、伊八郎が志田と泉之助の一件を目撃していたとの情報が入る。
 伊八郎は家の者に暇を出し、家の中の守りを固める。夜、伊八郎の家に何者かが討ち入るが返り討ちにあう。清左衛門が駆けつけると、それは大関だった。大関は息子泉之助との間にあったことを告白する。
 泉之助が志田の不正を訴えようとしていたのを止めたこと、泉之助を斬ったのは自分であること、泉之助が赤松を慕っていたのを知ったこと。そして、丹羽から赤松を殺し訴状をなきことにすることを命じられたこと。
 全てを告白した大関は自害しようとするが、清左衛門は止め、全てを白日のもとに晒してもらうと話す。

 

(「桃の木の下で」)

 鹿間の家。鹿間は志穂に養子を迎え入れることを告げる。鹿間は志穂と伊八郎のことを疑っていたが、丹羽に命じられ伊八郎を討つ命を受けていた。そこへ伊八郎と清左衛門が駆けつけ、鹿間の不正を暴く。全てを悟った鹿間は志穂を人質に逃げようとするが、二人は鹿間を取り押さえる。全てが明らかになり、丹羽も捕らえられ、朝田家老の一派はことごとく失脚する。

 

 熊太と清左衛門は涌井で志穂と伊八郎のことを話す。そしてその二人の姿が描かれる。三屋家では、里江、清左衛門、熊太、又四郎たちが孫を囲んで幸せそうな時間を過ごしていた。

 

まとめ

 シリーズ第6作。前作までで原作「三屋清左衛門残日録」のエピソードは全て使い切っており、シリーズとしては初めて完全に原作「三屋清左衛門残日録」から離れたものとなっている。

 

 使用されたのは、原作「三屋清左衛門残日録」と同じ藤沢周平の短編2編。「桃の木下で」(『神隠し』所収)と「闇の顔」(『時雨のあと』所収)。このシリーズでは4作目から、「三屋清左衛門残日録」以外の原作を1本ずつ使用しているが、本作ではそれが2本に増えたことになる。

 ドラマの原作となった2編を読んでみたが、ドラマとはだいぶ趣が異なる。原作について詳しくは別のブログで書くつもりだが、2編ともざっくり言えば、女性が主人公と言える。ごく簡単にあらすじを紹介すると…

 

 「桃の木の下で」は、鹿間と結婚している志穂が久しぶりにあった幼馴染伊八郎と話が長引いてしまい、家に帰るのが遅くなる。その帰り道で人が斬られる時の叫び声を聞き、その犯人と思われる人物まで目撃してしまう。それが夫の同僚だったため、家に帰った志穂は夫にそのことを話すが、その日以降、志穂が命を狙われることに。夫に相談するも拉致があかず伊八郎に相談する。しばらくして伊八郎からの手紙で誘い出された志穂を待っていたのは、夫だった、という話。

 つまり、女性が殺人を目撃し命を狙われるが、犯人は夫だったという展開。本ドラマでは、志穂は殺人を目撃することはないが、結果的に夫の犯罪が暴かれ人質となったところを伊八郎に助けてもらう展開となっている。原作の中では、志穂が幼い頃伊八郎の妻になることを考えていたこともあった、という設定もある。

 

 「闇の顔」は城で二人の斬死体が発見され相討ちだと考えられるが、片方の刀に血が残っておらず第三者の存在が疑われる。死んでいた二人は不正を暴こうとする若者と奉行だったが、その若者の婚約者だった幾江の目線で話は進む。幾江の兄惣七郎が大目付配下の者でこの事件を調べて行く。惣七郎は友人である鱗次郎の助けも借り、調べを進めるが疑わしき人物が全く現れない。そんな時事件の目撃者が現れ、二人はその証言を囮にして犯人をあぶり出すことに。

 こちらの原作でも、幾江が鱗次郎に恋心を抱いていた時期がある、という設定。そのた事件の展開や人間関係などは原作の設定がそのまま使用されている。

 

 こうして見ると、2つの原作はよく似た話だとも言える。女性が主人公であること、藩の不正がきっかけとなり殺人が起きていること、主人公の女性がかつて恋心を抱いた武士が活躍し事件が解決すること、そして事件後にはおそらくその二人が結ばれるであろうこと、など。

 

 本ドラマは、「闇の顔」のストーリー展開を軸に、「桃の木の下で」の夫婦と妻の幼馴染を絡ませて、物語を作り上げている。ただ、ドラマでは「闇の顔」の大関と赤松と泉之助の3人の父と子の関係性に重点をおいているように思えるが、原作「闇の顔」ではそれはあまり重要視されていないように思う〜大関の父が登場するのは、原作では最後の数ページ足らずであるので。

 

 前作などでも書いたが、「三屋清左衛門残日録」以外の原作を使用するとどうしても世界観が異なるように感じてしまう。その理由を考えていたのだが、「三屋清左衛門残日録」では、人が死ぬ場面はほとんどない。「高札場」での安富の切腹と石見守の毒殺ぐらいではなかったか。つまり斬り合いにより人が死ぬ場面はないのである(「立会人」で中根と納谷の果たし合いはあるが、どちらも死んでいない)。

 4作目ではラストに果たし合いの場面があったし、5作目では清成が殺される。本作でも2人が相討ちのような状態で発見されるところから物語は進んで行く。人が殺される、という大事件があった方が話が作りやすいのはわかるが、どうしても「三屋清左衛門残日録」の世界とは違うんだよなぁ、というのが正直な感想である。

 

 更に言えば、5作目こそ、原作の3人衆の一人を清左衛門に肩代わりさせることで、清左衛門もドラマの中でいきいきと動いていたが、本ドラマでは事件を外から見守る傍観者のような立場にしかなかったと思う。原作2編が女性の幼い時の恋心を描いており、それが活かされたラストの伊八郎と志穂に持って行かれている感じもする。そう言えば駿河太郎さん、いつのまにか良い役者さんになってましたね。

 

 第7作の制作も決定したらしい。次の作品でこそ、新たな「らしい」清左衛門を見てみたい。

 

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