准教授・高槻彰良の推察 鏡がうつす影 澤村御影

●准教授・高槻彰良の推察 鏡がうつす影 澤村御影

 青和大学文学部の深町尚哉は少年の頃不思議な体験をし、それが基で他人の嘘を聞き分ける能力を持ってしまう。大学で民俗学Ⅱを受講した彼は、准教授高槻彰良からレポートの件で呼び出され、高槻の調査に同行するようになり、一緒に事件を解決して行くことに。

 以下の3編からなる短編集。

 

お化け屋敷の幽霊

 例の村での事件から1週間。尚哉は佐々倉からの電話で、高槻の様子を見てきて欲しいと頼まれ、彼のマンションへ。そこで改めて事件のことを話す。それを聞いた高槻はもう一人の高槻について語る。その後、HPに来ていた、お化け屋敷の謎についての依頼の話をし、2人で調査に行くことに。

 依頼者はお化け屋敷でバイトをしている大木梨乃と槙野愛莉だった。2人がバイトをしているお化け屋敷で、お化けが出ない最後の通路にある鏡が怖かった、という感想が多く寄せられており、実際にそこで悲鳴が上がることも多い、その鏡はいわくつきの鏡らしいということだった。

 高槻、尚哉、佐々倉、瑠衣子でそのお化け屋敷を体験する。そしてお化け屋敷のプロデューサーと話をし、高槻は噂の真相について語る。

 

肌に宿る影

 夏休みが終わり、講義が再開される。その講義で尚哉はスーツ姿の男性を目撃する。研究室に呼ばれた尚哉はその男性が高槻の従兄弟優斗であり、彼からの依頼を受けたと言われる。彼の婚約者、鷹村未華子の肩に人面瘡ができたというものだった。未華子は「天狗様」になんとかして欲しいと言っているそうで、彼女は幼い頃、子供時代の高槻に会っているらしい。

 2人は優斗の家で未華子に会って話を聞く。人面瘡を見た高槻は病院へ行くことを勧めるが、未華子は高槻に自分の母親と会うように話す。優斗の家から送ってもらった高槻のマンションの前で黒木が待っていた。黒木は高槻の母が出演するトークショーのビラを持っており、会場に近づかないように高槻に話す。

 トークショーの日、尚哉はその会場に向かう。そこで例のジャーナリスト飯沼と出会う。飯沼は高槻の母に息子のことを尋ねるが、母親は息子は行方不明だと答える。

 未華子が行方不明になったと知らせが入ったと尚哉は研究室で高槻から聞く。その時未華子が研究室を訪ねて来る。未華子は高槻に会いたかったと話すが、高槻は未華子が犯しているある犯罪について語り始める。

 

紫の鏡

 高槻は講義で紫鏡について説明する。その紫鏡が家にあるので調べて欲しいという依頼を受ける。依頼人である浅草の旅館の娘、松井志穂と会い話を聞く。志穂の実家である旅館に、家長以外入ってはいけないとされる納戸があり、その部屋に紫鏡があると母に教えられ、その母親は志穂が幼い頃にその部屋に入り行方不明になったということだった。

 2人は旅館を訪ねる。古くからいる従業員に志穂の母親のことを尋ね、母親が若い従業員と駆け落ちをしたという話を聞く。話を聞いた高槻は志穂の父親に紫鏡を見せて欲しいと頼む。嫌がる父親を説得し、例の部屋に入り鏡を見る。その時鏡に異変が起こり高槻が鏡の中に引き摺り込まれそうになるが、高槻は鏡を倒し鏡を壊してしまう。すると異変は収まる。その後志穂の父親から鏡にまつわる不思議な話を聞く。

 旅館からの帰り道、もう一人の高槻が現れ、尚哉と話をする。

 

 シリーズ第6作。ここ最近とってきた2話+αの形から、初期の3話構成に戻った。前作で、尚哉が幼少の頃経験した祭りに参加、怪異を目の当たりにする事件が起きたが、その後の展開をどうするのか、を楽しみに読んだ。

 

 「お化け屋敷の幽霊」はまさに前作の1週間後という設定。例の村で起きた大事件の記憶がまだ生々しく語られ、なかなか良いスタート。お化け屋敷での謎に挑む2人だったが、結構肩すかしの謎解き。高槻は依頼を受けた段階で既に謎を解いており、謎というよりは、現実にも存在する、お化け屋敷製作者の心意気がわかる作品となっている。大事件後最初の事件としては、緊張から緩和へ移行する良いテーマだった。

 

 「肌に宿る影」も人面瘡という子供騙しが依頼内容で、「お化け屋敷〜」と同様な展開かと思いきや、怪異とは別の意味で少し怖い作品。「天狗様」と呼ばれていた頃の高槻を知る女性が登場、しかもその女性は高槻の従兄弟の婚約者。同じように高槻を幼少の頃から知る従兄弟の登場で、また少し高槻の身辺が明らかにされる。高槻の母親が実際に登場するのも、この話が初か?子供騙しの話かと思いきや、意外な真相が明らかになり、ちょっと驚かされる。

 

 「紫の鏡」では都市伝説で有名な紫鏡が実際に存在すると依頼が持ち込まれる。紫鏡に関連し母親が行方不明になったとされる旅館の娘が依頼してくるが、旅館の従業員によりあっさりと真相が語られる。また肩すかしかと思われたが、鏡を前にした尚哉の様子がおかしく、話は意外な方向に。そして本物の怪異現象が起こり、「もう一人の高槻」も登場、尚哉と会話をする。そして尚哉は高槻との結び付きを強く感じ始める。

 本作とは関係ないが、WOWOWで本シリーズがドラマ化されたものを何話か観てみた。主役の二人はジャニーズながらなかなか原作のキャラを上手く演じていると思ったが、脚本が原作を微妙に改変しており、原作愛読者としてはなぜそこを改変する?ということの方が気になってしまい、ドラマに集中できなかった。

 

 4作目で本物の怪異(人魚騒動)が起こり、前作5作目で例の村での大事件に遭遇、そして本作の紫鏡。3作目までの、怪異に見えて実は人間が悪さをしていた、というオチのパターンから、実際に怪異現象もある、という展開に移りつつある。もちろんこれは、高槻に関する謎に迫る伏線なのだろう。

 このシリーズは小説内の時間の進みがゆっくりしており、本作も前作の1週間後からスタートしている。これはこれで読み応えがあるが、よく考えてみると時間が早く経過して尚哉が大学を卒業してしまうと、高槻と尚哉のコンビが解消されてしまうから(笑 

 とりあえず尚哉はまだ2年生ということなので、まだまだ楽しませてくれるでしょう。