神隠し 藤沢周平

神隠し 藤沢周平

 ドラマ「三屋清左衛門残日録 あの日の声」の原作「桃の木の下で」を含む藤沢周平による短編集。以下の11編からなる。

 

拐し

 娘のお高を拐かされた辰平。犯人の又次郎は何度も金をせびりに来る。辰平はお高を目撃したという勝蔵の話を聞いてその場所に行ってみるが…


昔の仲間

 あと半年の余命だと宣告された宇兵衛は昔一緒に強盗をした松蔵のことだけが気がかりだった。松蔵の行方を探し出した宇兵衛が取った行動は…


疫病神

 信蔵は妹から女と一緒に家を捨てた父を見つけたと聞き父親に会いに行く。貧しい生活をしていた父と会った信蔵は父を家に引き取ることにするが…

 

告白

 善右衛門とおたみの夫婦は娘の婚礼が終わり家に帰って来る。娘の初夜を心配するおたみの言葉に善右衛門は8年前のことを思い出す。おたみが語った8年前の真相とは…


三年目

 茶屋で働くおはるは3年待ってくれと言った清助の言葉を信じていた。3年目のその日、清助は帰って来るが彼が言った言葉はもう3年待ってくれというものだった。


 サチは醜女として有名で婿のなり手はいなかった。サチは一揆を先導した罪で追われていた侍と出会い家族にも内緒で家に匿うことに。男女の関係になった侍が出て行く日が来たとき、サチが取った行動は…


桃の木の下で

 別ブログ参照。ドラマの原作。志穂は殺人を犯した犯人を目撃、夫に告げるがその後何者かに襲われる。幼馴染の亥八郎に相談するが、意外な結末が訪れる。


小鶴

 神名吉左衛門夫婦の夫婦喧嘩は有名だった。吉左衛門は橋で見かけた娘小鶴を家に連れて帰る。小鶴は記憶を失っていた。小鶴を迎えた夫婦の生活は変わっていくが…


暗い渦

 信蔵は8年ぶりにおゆうと出会う。8年前信蔵はおゆうと一緒になるつもりだったがある事がきっかけで今の妻おまつと夫婦になっていた。おゆうに会ったことをおまつに話すと彼女は意外なことを話し出す…


夜の雷雨

 一人暮らしの老婆おつねは孫清太が真面目になって帰って来てくれることを願っていた。寺で知り合ったおきくという娘が病であることを知ったおつねは家に彼女を引き取って看病するが…


神隠

 岡っ引巳之助の元に伊沢屋の女将が行方不明になったと知らせが入り調べを始める。しかし3日後女将は無事帰って来る。主人は喜ぶが巳之助はそこに犯罪の匂いを嗅ぎつけ、手下に女将の過去を調べるように話す。そして伊沢屋の手代が殺されて…

 

 この本もドラマの原作ということで読んだ一冊。どれも30ページほどの短さだが、長編にもなし得た作品の余分なものを一切切り捨てて30ページにまとめた凄みがある。どの作品にも切なさや人の怖さが見事に描かれている。

 「拐し」のお高、「疫病神」の父親、「告白」のおたみ、「夜の雷雨」の清太では人間の持つ怖さが静かな調子で描かれている。「昔の仲間」「三年目」「鬼」「小鶴」「暗い渦」の結末はひどく切ない。

 ドラマの原作となった「桃の木の下で」も、志穂の夫の怖さが描かれている一方で、志穂と亥八郎の今後をうかがわせるラストが一服の清涼感をもたらせホッとさせてくれる。「神隠し」は初めはダメ男として描かれた巳之助が、鋭い考察力でことの真相に迫る捕物話となっているのが見事。

 

 どの話も印象深いものだったが、「告白」のラスト4行、夫である善右衛門が妻であるおたみに対して抱いた感情を表現したこの4行が、今まさに自分のカミサンに対して抱いているものとあまりに共感できて驚かされた。30代の頃に一度読んでいる本だと思うが、実生活には何の役にも立っていなかったじゃねえか、って(笑