時雨のあと 藤沢周平

●時雨のあと 藤沢周平

 ドラマ「三屋清左衛門残日録 あの日の声」の原作「闇の顔」を含む藤沢周平による短編集。以下の7編からなる。

 

雪明かり

 菊四郎は血の繋がりのない妹由乃と数年ぶりに再会する。近々嫁に行く由乃を祝う。その後嫁ぎ先で由乃が倒れたと聞いた菊四郎は嫁ぎ先に行くが由乃の扱われ方は酷いものだった。菊四郎は由乃を実家に連れ帰る。回復した由乃は茶屋で働き始め、他家の養子になっていた菊四郎には婚礼が迫っていた…

 

闇の顔

 別ブログ参照。ドラマの原作。幾江の結婚相手だった大関泉之助が志田と相討ちとなって死んでいるのが発見される。しかし志田の刀に血はついておらず、幾江の兄が事件を担当する。泉之助の父は息子が殺されたのには裏があると言う。兄の幼馴染鱗次郎も加わり、犯人探しが始める。


時雨のあと

 安蔵は鳶だったが事故が元で足を怪我してしまう。博打に明け暮れるようになった安蔵は妹みゆきに金をせびって暮らしていた。みゆきは兄が錺職人として真面目に働いていると信じていた。博奕の借金がたまり安蔵はみゆきのことを賭場の男に喋ってしまう。一方みゆきは安蔵の本当の姿を聞いて廻るうちに風邪で倒れてしまう。


意気地なし

 おてつは同じ長屋に住む伊作を軽蔑していた。女房に死に別れ幼い赤ん坊を抱えた伊作は何もせず暮らしていたためだった。おてつは赤ん坊の面倒を見るようになる。お鉄は祝言をあげることになっている作次と遊びに行くが赤ん坊のことが気になり途中で帰ってしまう。伊作が赤ん坊を連れて死のうとしているのを見つけたおてつは、伊作の妻に関する秘密を暴露する。次に作次と会った時おてつは伊作とのことを聞かれ作次と別れる決意をし、伊作の家へ向かう。

 

秘密

 おみつは義父由蔵の様子がおかしいことに気づく。由蔵はボケが始まっており昔のことを何とか思い出そうとしていたところだった。真面目に働いて来た由蔵だったが、若いころ博打にハマり5両の借金を作ってしまった。店の金を盗むことにした由蔵だったが、それを女に目撃されてしまう。しかし女はそのことを誰にも言わなかった。その女が誰だったのか、やっと由蔵は思い出す。


果し合い

 美也は家に住む大叔父佐之助の面倒を家族の中でただ一人見ていた。美也は縄手達之助との縁談のことを大叔父に相談する。美也は松崎信次郎と恋仲だった。大叔父の勧めもあり美也は縁談を断るが、達之助は美也に嫌がらせをし、信次郎に果たし合いを申し込んでくる。剣の腕はからっきしの信次郎に勝ち目はなかった。美也が大叔父にそのことを伝えると大叔父は果たし合いの現場へ急行する。家に戻った大叔父は二人に駆け落ちを勧め、二人を見送る。大叔父には若いころの同じような経験を思い出していた。


鱗雲

 小関新三郎は仕事帰りの峠道で病気の娘雪江を見つけ、家に連れて帰る。新三郎には結婚の約束をしている利穂がいるが、利穂は最近中老保坂の家によく出入りをしていた。保坂にはドラ息子年也がおり、屋敷で馬鹿騒ぎをしているとの評判だった。その年也たちに新三郎は狙われ、仕事で知り得たことを話すように言われるが断る。家に帰った新三郎は雪江が旅立つと聞く。新三郎に利穂が自害したと知らせが入る。利穂は父の命で保坂家を探索しており妊娠してしまったことを悔い自害したのだった。

 雪江が去り、利穂も亡くなり小関家は閑散としていた。そこへ仇討ちを終えた雪江が戻ってくる。

 

 「神隠し」に続き、ドラマの原作本ということで読んだ一冊。「神隠し」がどれも30ページほどなのに対し、こちらはそれよりもほんの少し長いものがある(「闇の顔」だけは倍の70ページ弱)。その分主人公の心の中が丁寧に描かれる箇所が多いような気がする。「雪あかり」の菊四郎の怒り、「時雨のあと」の安蔵の後悔、「意気地なし」のおてつの苛立ち、など。

 全般的には、男女の愛を描いたものが多いのも特徴か。「雪あかり」の菊四郎と由乃、「闇の顔」の幾江と鱗次郎、「鱗雲」の新三郎と雪江など。どの恋愛も一筋縄ではいかず一度は諦めた恋が最後に実るのが憎い演出であるのも共通点かもしれない。

 ドラマ「三屋清左衛門残日録 あの日の声」の原作2話を取り上げたブログでも書いたが、「闇の顔」は犯人探しのミステリの中に幾江と鱗次郎の恋を加えた物語であり、男女の愛が本作を通してのテーマだと考えると、やはりドラマでの展開はそこを軽んじてしまった感が否めない。

 

 ちなみに本作には藤沢周平氏によるあとがきがある。著者が時代小説を書き続けた理由が述べられいて非常に興味深かった。