鬼平犯科帳 第1シリーズ #15 泥鰌の和助始末

第1シリーズ #15 泥鰌の和助始末

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 角屋の蔵で盗み細工が見つかり鬼平たちが出張る。主人の話では蔵が建ったのは40年前、3年前に床の張り替えを浅草の大工喜兵衛が行ったことがわかる。さらに喜兵衛は間違いのない男だとのこと。その夜、伊三次が喜兵衛の店大喜に忍び込み普請控帳を盗み出して来る。帳面を酒井に写させるが人手が足りないため、鬼平と久栄もそれを手伝う。

 翌日写しから角屋の普請に関わった大工たちを伊三次、彦十、おまさが調べ始める。その結果、和助という男が角屋の仕事後、突然姿を消していたことが判明、鬼平はいつか和助が大喜に戻るとふみ、大喜の見張りを継続させる。1ヶ月後、和助が大喜に戻って来る。棟梁の喜兵衛や大工仲間だった孫吉は和助が戻ってきたことを喜び、和助に今度こそ江戸に腰を据えて欲しいと頼み、一緒に酒を飲む。

 大喜から出てきた和助を見た彦十は、それが盗み細工の名人、泥鰌の和助だと気づき鬼平に報告する。和助は地蔵の八兵衛一味だったが、八兵衛は昨年死亡しており、仲間は散り散りになっていた。

 真面目に働いている和助の元へ金谷の久七という昔の盗人仲間がやって来る。久七は八兵衛が持っていたという、和助が昔描いた間取り図を見せ、それがどこの店なのか教えろと話すが、八兵衛の死後堅気になっていた和助は断る。そんな二人が密会しているのをおまさがつけており、久七が小間物屋へ入っていくのを確かめる。

 孫吉が息子磯太郎が久しぶりに戻って来るので一緒に家で会ってやってくれないかと誘う。磯太郎は小津屋で手代になっていた。孫吉は磯太郎が19歳の若さで手代になったこと、小津屋の先代から磯太郎を頼りにしていると言われたことが自慢だったが、先代は2年前に亡くなっていた。和助も先代とは顔見知りだった。孫吉の家での宴は盛り上がる。その夜中、孫吉は磯太郎を和助に返すと言い出す。磯太郎は和助の実の息子だったが、孫吉夫婦が預かり息子として育てていた。和助は磯太郎はこれまで通り、孫吉の息子のままとしておいてくれと話す。

 おまさたちは鬼平に久七のことを話す。鬼平は久七が入っていった小間物屋が盗人宿だと確信、おまさたちに目を離すなと命じる。一方、忠吾と村松は見張りのために角屋に住み込んでいた。

 仕事をする和助の元へ磯太郎がやって来る。彼は和助に57両を貸して欲しいと話す。先代から今の主人に変わり、磯太郎は今の主人から嫌がらせを受けており、先日主人にわたいた57両を受け取っていないと言われて困っていた。和助は金はなんとかするので、店で我慢することだと諭す。店に帰った磯太郎は主人に呼ばれ、彼の行李から57両が見つかった、店から出て行けと言われてしまう。その夜、和助は隠し持っていた金を持って小津屋へ行くが、店は大騒ぎだった。小僧に聞くと磯太郎が死んだとのこと。磯太郎は主人に言われたことを苦にして自殺していた。和助は磯太郎の葬儀を小津屋でやって欲しいと頼むが、主人に断られる。和助は57両の件は主人の仕業だろうと言い寄るが、主人は聞く耳を持たなかった。

 和助は久七たちの家へ。そして盗みをやる、小津屋を狙うと話す。孫吉の家で磯太郎の葬儀が行われるが、和助が姿を見せなかった。それを伊三次が鬼平に知らせる。そこへ酒井が盗人宿での動きが慌ただしくなってきたと報告に来る。それを聞いた鬼平は和助が動き出したと考え、角屋の張り込みを強めるように指示する。

 しかし3日が経っても動きはなかった。鬼平は和助と磯太郎との関係を伊三次に調べるように酒井に命じる。それを聞いていた久栄が、先日写しをしていた際に小津屋の名前がありそこにも和助の名前があったことを鬼平に話す。それを聞いた鬼平は小津屋へ向かう。そして盗みを終えて逃げる一味を捕まえる。そんな中一人船で逃げた和助は、盗み出した証文を破り捨て、千両箱を川に投げ入れる。

 和助を役宅に呼んだ鬼平は、川から千両箱は見つからなそうだと話す。そして島送りを申しつけると同時にからくり箱を手渡し、それを島で作って送ってくれと話す。和助はそのからくり箱をあっさりと開けてしまい、それを見た鬼平は豪快に笑う。小津屋はその後4年後に潰れた。

 

 初見時の感想はこちら。あらすじを追加した修正版。

 主人公の盗人は堅気に戻っていたが、昔の仲間に盗みの仕事に誘われるが断る。しかしある事件をきっかけに再び盗みをする決意をする、という話。鬼平にはよくあるパターンであるが、本作はその中でも傑作の部類に入ると思う。その理由は、主人公和助が再び盗みを行う理由と物語の結末にある。

 このパターンでよくあるのは、足を洗っていた盗人が昔の仲間に脅されて仕方なく盗みを行うというものであるが、本作で和助が盗みを行うのは復讐のため。名乗り合うことができない実の息子が不条理に死に追いやった主人の店を叩き潰すためだけに盗みを行うのである。金が目当てではないため、盗んだ証文を破り捨て、千両箱も川に沈めてしまう。

 物語の結末はそのような和助の行動を見た鬼平が、優しく和助に語りかける。和助が盗みに入った店の現状を教え、島送りを申しつけながら島で箱を作って欲しいと頼む。その箱、からくり箱をいとも簡単に和助が開いたのを見て鬼平が笑う。非常に気持ちの良いラストシーン。

 

 もともとこの話の原作は一つの話が二つのエピソードで成り立っているのを、そのうちの一つのエピソードだけを取り上げてこの話にしているらしい。その分原作にはないであろう場面を加えることで1時間のドラマにしていると感じられる。

 そんな一部として、忠吾がコメディリリーフとして活躍するのだと思うが、第1シリーズで忠吾がその役割を果たすのは本作がおそらく初めて。角屋で張り込みをしている最中に村松泥鰌屋に連れ出そうとしたり、和助が細工した床のフタを触っている時に指を挟んだり。この後その役割を存分に果たして行く忠吾のデビュー作といっても良いかも(笑

 もう一つ見逃せないのは、久栄の活躍。序盤、伊三次が大喜から盗んできた帳面を皆で写し取るのだが、それを手伝った久栄が、終盤和助の真の狙いを見極め鬼平に助言するシーンがある。久栄が活躍、それも鬼平の仕事に助言までするのは、長いシリーズの中で本作だけではないだろうか。

 和助の財津一郎さん。第3シリーズでもう一度別キャラとして登場するが、やはり上手い。堅気に戻っていながら実の息子の復讐のため盗みを行う、その悲痛な役どころを見事に演じている。

 

 

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