百まなこ 高積見廻り同心御用控 長谷川卓

●百まなこ 高積見廻り同心御用控 長谷川卓

 裏表紙内容紹介より

 定廻りに加勢し、大捕物で手柄を立てた高積(たかづみ)見廻り同心・滝村与兵衛。見込まれて新たな探索を命じられる。五年前から〈百まなこ〉と呼ばれる面をつけ、極悪人のみを殺す義賊が横行していた。南北奉行所ともに威信をかけて捕縛を競うも、正体は杳として知れない。与兵衛は江戸一の悪党“千頭(せんず)の駒右衛門”に接近、〈百まなこ〉を炙り出そうとするが…。気鋭の著者による文庫書き下ろし、痛快時代小説!

 

 高積見廻り同心である滝村与兵衛が、定廻りに知恵を貸しその結果無事盗賊を捕まえる。その才能を見込まれ、百まなこと呼ばれる殺人犯の捜査を命じられる。高積見廻りの役目も兼ねる与兵衛は見廻りの際、加賀屋から怪しい男弥吉が出てくるのを目撃、その翌日加賀屋の主人が自害したとの知らせが入る。

 与兵衛は百まなこが起こした事件の記録を調べ、手下となる岡っ引が必要だと感じ、引退していた寛助を岡っ引として使用することに。与兵衛は寛助とその手下たちとともに、次に百まなこが狙うかもしれない、江戸の悪人たちを調べ始める。その中で最も悪いとされる千頭の駒右衛門が加賀屋の事件に関係していることが判明するが、百まなこの手がかりは見つからなかった。

 与兵衛たちは次に百まなこに殺された人間たちについて調べ始め、彼らが女たちに対し悪行をしていたという共通点を見つける。また千頭の駒右衛門の手下弥吉が美人局を行なっていたことが判明し弥吉に会いに行こうとした与兵衛だったが、そこで百まなこと遭遇する。

 

 長谷川卓氏の作品は、「戻り舟同心」シリーズ「北町奉行所捕物控」シリーズの2つを読んでおり、本シリーズは3つ目となる。

 本作が面白いのは、主人公滝村与兵衛が定廻り同心ではなく、高積見廻り同心であるという点。町中のことをよく知っていることから、猿の伊八と呼ばれる盗賊の逃走ルートを聞かれ答える。その通りに伊八が逃げたため見事に捕らえることができた、というところから話がスタートする。

 また定廻りの手助けとして「百まなこ」なる殺人犯を追うことになるのだが、全く手がかりがない。そこで与兵衛が考えたのは、百まなこが次の獲物にしそうな人物を洗い出すこと。それでも手がかりが掴めないため、殺された側の共通点を見出そうとする。先に読んだ2つのシリーズもそうだったが、長谷川卓氏の捕物ものは、捜査の過程が丁寧に示されるのが良い。一つひとつ地道に犯人を追って行く様が読んでいてリアルさを感じさせる。

 本作で面白かった点をもう一つ。百まなこの犯人像として、被害者が殺されても仕方のない悪人たちだったのだが、それを知り得たのは奉行所の関係者ではないか、という疑問が途中で浮かび上がる。さらに百まなこの殺しの手口が同僚与力である五十貝の持つ秘術花陰という技に似ていることに気づく。この辺りはシリーズ第1作であることから、誰が犯人でも不思議ではないため、なかなかスリルのある展開だった。

 

 もちろん長谷川卓氏のこれまでのシリーズの特徴である、魅力ある脇役たちも見逃せない。久しぶりに岡っ引として復帰した寛助とその手下たち、例繰方同心の椿山、上役の占部。家族関係も見逃せない。妻多岐代や母親である豪。いずれも少しクセのある人物であり、ユーモアにも溢れている。

 ゲストキャラの「はぐれ」と呼ばれる岡っ引仙蔵、定廻りになるためのライバルである中津川。この二人も印象深いキャラだった。

 

 ラスト、見事に百まなこを退治した与兵衛は定廻りへの異動を打診されるが断ってしまう。しかしこのシリーズは後2冊が待ち構えている。定廻りへの異動を断った与兵衛、次の作品ではどのような活躍を見せてくれるのか。楽しみである。