ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

●663 ものすごくうるさくて、ありえないほど近い 2011

 オスカーは父トーマスとNYにかつてあった第6区を探す調査探検という遊びをする。オスカーがアスペルガー症候群のため、トーマスは彼に人と話す機会を増やそうとしていた。

 しかし911でトーマスは亡くなってしまう。呆然とするオスカーだったが、1年後父との思い出が薄れて行くのを恐れ父の部屋に入る。そこで花瓶を壊してしまうが、中から鍵の入った封筒を見つける。封筒には「ブラック」とだけ書かれており、それが人の名前だと考えたオスカーはNYに住むブラックという名の人を訪ね、鍵にあう鍵穴を知らないかと尋ねることを始める。

 何人も訪ねるが父のことを知る人すらおらず、オスカーは落ち込む。そんな時彼は向かいの家に住む祖母と話をするが、ある日祖母がおらず代わりに祖母の家にいた同居人と話すことに。同居人は口が聞けない老人で、筆談でオスカーとやりとりをする。話を聞いた老人はオスカーの調査探検を手伝うことになる。老人のペースに合わせるオスカーは次第にそれまで苦手にしていた公共の乗り物に乗るなど変化をし始める。

 老人が手伝い始めても調査は全く進まなかった。ある時オスカーは911当日父がかけて来た留守番電話のメッセージを老人に聞かせる。それを聞いた老人は手伝いを辞め祖母の家から去ってしまう。

 一人になったオスカーにとって、父が残した新聞の切り抜きの言葉だけが心の支えだった。その切り抜きを見ていた時、裏にも印があることに気づく。それは電話番号だった。電話番号は遺品セールの知らせるもので、オスカーがそこに電話をすると最初に訪ねたアビーのものだった。アビーに再会したオスカーは彼女の夫が遺品セールをしたことを教えてもらい、彼女の夫に会いに行く。事情を説明すると彼はオスカーの持つ鍵を探し続けていたと話す。彼の父が亡くなり遺品をセールとして欲しがる人に渡していたが、その一人がオスカーの父で花瓶をもらっていたのだった。彼の父の遺言に花瓶の中に貸し金庫の鍵を入れたというメッセージがあり、彼は花瓶の行方を探していたのだった。オスカーは鍵をアビーの夫に渡す。

 家に帰ったオスカーは鍵が父のものでなかったことで落ち込む。そんなオスカーに母親が声を掛ける。母親はオスカーがしていたことを全て理解しており、オスカーが訪ねる前にNYに住むブラックに会いに行き息子が訪ねてくることを話していた。それを聞いたオスカーはこれまで訪ねた多くのブラックに対し感謝の手紙を書く。祖母の家から去った老人、オスカーの祖父にも手紙を書き戻ってきて欲しいと頼む。

 元気を守り戻したオスカーは父と教えてもらったがその時には乗れなかったブランコに行き遊ぶ。そのブランコに父からのメッセージが残されていた。

 

 タイトルがユニークで公開時に気になった作品。当時会社の先輩が新聞にこの映画のタイトルが使われた笑い話を読んで、何が面白いのかわからないと言っていたので、映画のタイトルですよと答えたのを思い出す(笑

 まさか911を扱った作品だとは思わなかった。日本の311と同様、アメリカの911は扱うのが難しいテーマだと思うが、本作の脚本は実によくできていると思う。

 

 911で亡くなった父との思い出のため、父の残した鍵について調べ始める少年。しかしアルペルガーである少年の調べ方は独創的であり普通では考えられない方法だった。案の定、調査からは何の結果も得られず困り果てる少年が、老人と出会い少しずつ変化をして行く。それでもその老人も少年の元を去ってしまい、いよいよ手詰まりとなるが意外なところに真相に近づくためのヒントがあった。真相は少年の求めていたものと全く異なるものであり、少年を落胆させる。しかしその少年に母親がある真実を述べることで、壊れかけていた母と子の愛が戻ってくる、というもの。

 911で大切な人を亡くした人々を描くものだが、主人公に少年を据え、その少年がアスペルガーというハンディを背負っているという設定。ただでさえ傷ついている人々に輪をかけてヒドいセリフを浴びせてしまう少年の態度に違和感を覚える感想がネットでも散見されるが、キレイごとだけで済ませなかったところによりリアルさを感じる。

 前半少年が人々を訪ねその少年を人々が受け入れるシーンを見ていて、これは出来過ぎだと感じていたが、それもラスト、母親のセリフで覆される。母親が多くのブラックさんたちに語った言葉はあまり示されないが、傷ついた人同士もしくは傷ついた人に対する人間の暖かさが画面から見てとれ、本作で訴えたかったものがよくわかった。

 

 トムハンクス、サンドラブロックの豪華な夫婦もスゴいが、やはり本作の主演は少年トーマスホーンだろう。しかし彼は俳優ではなく、しかも映画出演はこの1本のみらしい。残念な気もするが、この一本だけでも名前を残すことになるだろうなぁ。