雨乞の左右吉捕物話 狐森 長谷川卓

●雨乞の左右吉捕物話 狐森 長谷川卓

 裏表紙内容紹介より

 向柳原の御用聞き・富五郎の手下である左右吉は、十年以上も前に、浅草の金竜寺門前町辺りを根城に悪さをしていた。そのときの仲間・豊吉が行方不明になったことを知り、掏摸のお千、腕の立つ浪人・日根孝司郎らとともに探索を始める。すると大店のお内儀から、香具師の親分へと繋がり、なにやら焦臭い事件の影も見え隠れして……。駆け出しの岡っ引・左右吉シリーズ、待望の最新刊!

 

 前作から約1ヶ月後の物語。前作で昔の悪仲間豊吉が行方不明になっているのを知った左右吉は彼を探し始める。悪仲間だった弥太郎やその他の知り合いをあたっていたが、途中行きつけの飲み屋汁平の飯炊き銀蔵によく似た男を見かける。

 弥太郎から豊吉が多嶋屋の内儀、倫と会っていたことを聞き出し、倫を見張ると彼女は貞という女性と会う。この二人が昔女郎だったことを突き止め、さらに貞が牢屋見廻り同桜井の妾であることが判明する。その桜井が入谷の元締七郎兵衛と密会している店に左右吉は密かに乗り込むが見つかってしまう。

 その場は七郎兵衛に見逃してもらったが、直後に店の品を盗んだ罪で追われることに。住んでいる長屋にも捜査の手が入り、左右吉と日根は火盗改や大親久兵衛の助けを借りることになる。

 身動きが取れなくなる中、左右吉は深川の闇の奥へ。そこで豊吉が入れあげていた女郎淡路と会い、豊吉が強請りで金を稼ごうとしていたことを知る。その相手が素女郎だった貞であると確信した左右吉は彼らに罠を張ることを思いつく。

 

 前作に続く2作目。それでいて本シリーズの最終作。

 前作の途中で昔の悪仲間豊吉が、堅気になって持った店の品を持ち逃げし行方不明となったことを左右吉は調べ始める。例によってなんの手がかりもない中、少しずつ豊吉の行方不明に関係がありそうな人間がわかってきて、それを辿るとなんと同心が一枚噛んでいることが判明、その同心の裏には元締の姿も。

 同心を敵に回した左右吉は捜査の手を逃れるために、火盗改に助けてもらう。そして左右吉と同業でありながら、彼を冤罪に陥れようとした岡っ引を捕まえようとするが、彼が殺されてしまいその手下を捕まえることで、事件の真相が見えてくる。

 

 前作同様、一つの事件を追っていく過程がもどかしい感じもするが、そこを丁寧に描くことで逆に江戸時代の捜査のリアルさが現れてくる。前作と異なり、途中左右吉本人が町方に追われることとなり、絶体絶命かと思われるが、そこに火盗改が登場、ピンチをあっさりと切り抜け、真相に近づいていく。

 

 本作でもサブキャラたちが良い。掏摸の千の家に身を寄せた左右吉はあっさりと千とデキてしまうし(笑 親分富五郎は相変わらず及び腰だし。日根も前作ラストで左右吉の通う道場に通うことになっているし。本作のゲストキャラである深川あたりの人間たちも妙に人間臭くて良い。日根に対する仇討ちも相変わらず。そして何より前作から左右吉たちの心の居場所とも言える汁平の二人の正体も明かされる。

 

 ラスト、日根がまたも仇討ちの相手を倒したところで話は終わるのだが、日根が田舎で離れて暮らす妻子を呼び寄せようと考えているのを左右吉に話す。これだけ見ても著者がまだまだこのシリーズは続きを考えていたように思うが、シリーズがここで終わってしまうのは本当に惜しい。

 長谷川卓氏の著作も未読のものが少なくなってきた。少し時間をおいて未読のシリーズを読ませてもらおうと思う。