遺跡発掘師は笑わない 悪路王の左手 桑原水菜

●遺跡発掘師は笑わない 悪路王の左手 桑原水菜

(ネット紹介記事より抜粋)

岩手の祖波神社跡で「三本指の右手」に続き「金の薬指」を掘り当てた天才発掘師・西原無量。鬼の墓との言い伝えもあるこの場所には、一体何が秘められているのか。一方「悪路王の首」を祀る鬼頭家では、二代にわたり当主が変死していた。真相を探る忍だが、そこには鬼頭家の息子・陽司と、謎の韓国人・ペクが深く関わっていて……!?
震災後の東北・岩手の地に隠された、壮大な歴史の秘密とは。全てが明かされるシリーズ第5弾、文庫書き下ろし!

 

 前作に続くシリーズ5作目にして、シリーズ初の連続もの。前作が前編であり本作が後編といった作りになっている。

 発掘センター調査員の鬼頭礼子の行方不明の兄陽司、元同僚であり元恋人である浅利、浅利の息子で無量とともに発掘現場で作業する雅人、謎の韓国人ペク、といった人物たちが無量が掘り当てた遺物に絡んできて、事件は意外な方向に進んでいく。

 

 初の前後編となった本作、とにかく登場人物が多く話も複雑すぎる。前編で登場した桓武天皇阿弖流為坂上田村麻呂だけではなく、明治維新東武皇帝百済王氏も登場、さらには台湾の政治まで関係してきて、話がどうなっているのかよくわからなかった(笑

 誰が敵かもよくわからない状態で、相変わらず主人公3人は拉致されたり、命を狙われたり。にも関わらず、途中拉致した相手と長いこと話し込んだり(笑 状況が複雑になり過ぎたため、それを説明するくだりとなっているのだが、なんだかなぁって感じ。

 

 このシリーズでは、無量が発掘した遺物を巡って争いが起きるが、文化的価値を別にすれば誰がそんなものを欲しがるのよ、最悪殺人まで犯して、という展開が多い。これまで読んだものでは、それが秘密結社だったり宗教団体だったりして、あぁなるほどねと思わせてくれていたが、本作では遺物そのものではなく、その中に隠された文書が狙われていた、というオチ。それも日本ではなく外国の政治に絡んだものであり、なんだかなぁという感想を持ってしまった。

 

 前にもこのシリーズのブログで書いたと思うが、ここまで歴史に関する大胆な発想を持てるのであれば、このシリーズのようなミステリー調で話を作るのではなく、鯨統一郎さんのようなその大胆な歴史解釈に焦点を当てた読み物にする方が面白いと思うのだが、ダメなのだろうか。

 

 本作があまりに長く複雑だったことやテーマがあまり馴染みがない阿弖流為蝦夷だったこともあり、ちょっとこのシリーズの続きは読まなくても良いかなと思ってしまった。

 震災と発掘という重いテーマを描いた前編に比べ、あまりに大胆な発想を基に複雑な展開を見せた後編が惜しかったなぁ。