病は気から、死は薬から 薬剤師・毒島花織の名推理 塔山郁

●病は気から、死は薬から 薬剤師・毒島花織の名推理 塔山郁

 ホテルマン水尾爽太は、薬をもらいに行ったどうめき薬局で薬剤師毒島と出会う。彼女の知識で医師の判断が間違っていたことを知った水尾は毒島に興味を持つ。彼女を食事に誘おうと毒島の元を訪れる水尾だったが、いくつかのトラブルに巻き込まれ、毒島の薬剤師としての知識を借りることになる。

 以下の3編からなる短編集。


私は誰、ここはどこ?

 ホテルの303号室に宿泊した美山小夜子はどうしてホテルなどにいるのか、どこに変えれば良いのかと奏太に尋ねる。彼女が認知症であると考えた奏太は持ち物などを調べる。持ち物はボストンバッグだけで中には帯封のついた500万円があった。支払いは済ませているため追い出す訳にもいかず奏太は彼女の身元を調べる。

 彼女の部屋のゴミ箱からマギレットというC型肝炎の薬が見つかる。奏太は毒島に相談する一方でホテル名と似たマンションなどを訪ね小夜子の身元を探し出す。それがきっかけとなり薬、ボストンバッグのお金などの謎が判明する。


サプリメント漢方薬

 小夜子の事件で協力をしてくれた男性宇月啓介が、毒島の紹介で奏太のホテルに長期宿泊することに。その宇月に奏太の同僚落合が母親のことを相談する。更年期障害を患っていた母親が病院に通わなくなり、その代わりに怪しいマルチ商法の商品を購入しているらしいとのことだった。

 宇月と毒島は、奏太と落合を偽装カップルにして、落合の母に商品を買わせている川内という女性と面会させる。その場に現れた宇月は川内の説明や商品の内容の嘘をことごとく見抜き、川内を追い払うことに成功する。


秘密の花園

 奏太の同僚、馬場が婚約することに。相手は桜井麻由美といい、親の遺産を引き継ぎ豪邸に住む資産家の女性だった。二人の婚約パーティにホテルの仲間や毒島、宇月とともに奏太は招かれる。麻由美の家の秘密を探った毒島の話を聞いた奏太は、麻由美が糖尿病持ちである馬場が麻由美に命を狙われているのではと考える。

 麻由美の家の庭にある植物や温室の中の植物に目をつけた宇月はパーティ後麻由美と話をする。宇月は麻由美に家にある植物のことを尋ね、彼女が考えていることを見抜く。それは父や前夫を糖尿病で亡くした麻由美が感じていたことだった。

 

 シリーズ4作目。前作はコロナ禍に突入した日本のリアルを描いた傑作だったが、本作はそれから少し経った状況なのか、コロナのことにはあまり触れないで話は進む。

 前作がコロナの影響で奏太と毒島の仲の進展が見られずちょっと残念だったため、本作はそちらを楽しみに読んでだが、いよいよ奏太の恋のライバル出現か、といった展開に。ただこの宇月という男性があまりに凄すぎた。薬剤師であるため、毒島と同様の知識を持つのは当たり前として、それ以外にも漢方の知識や植物に対する知識まで豊富。そのため2話目、3話目ではいつもの毒島の立場を奪うような活躍を見せる。

 こんなスーパーマンのような男性が相手では奏太に勝ち目はないのかと思うが、話が進むとその宇月の過去の秘密が少しずつ明らかにされていく。自身に関わるある事件のもとでそれらの知識を身につけざるを得なくなったという経緯が明かされ、それが身体に及ばした影響も最後には明らかになる。

 さらに宇月は3話目のゲストキャラであり、馬場の婚約者「だった」女性と何処かへ行ってしまうというオチ。全てが終わりいろいろな意味でホッとした奏太は毒島と話をする。その中で今回あまり活躍する場面がなかった毒島の隠れたファインプレーが明かされ少しだけ面目躍如となる。そして二人はどこかへ出かける約束をして話は終わる。うーん、今回はライバルもどきの出現でバタバタしたが、最後の最後で少しだけ二人の仲が進展したと思って良しとしよう(笑

 

 次の作品では二人が何処かへ出かけて事件が起きる、という展開を期待。