准教授・高槻彰良の推察 語りの底に眠るもの 澤村御影

●准教授・高槻彰良の推察 語りの底に眠るもの 澤村御影

 青和大学文学部の深町尚哉は少年の頃不思議な体験をし、それが基で他人の嘘を聞き分ける能力を持ってしまう。大学で民俗学Ⅱを受講した彼は、准教授高槻彰良からレポートの件で呼び出され、高槻の調査に同行するようになり、一緒に事件を解決して行くことに。

 以下の3編からなる短編集。

 

違う世界へ行く方法

 高槻のもとへ学生倉本絵里奈から依頼がくる。高槻が以前講義で話した「異世界へ行く方法」を試した湊智也が行方不明になってしまった、という内容だった。その方法とはエレベータに乗り、階数をある順番通りに押すというもの。話を聞いた二人は智也がそれを試したビルに行きエレベータに乗ってみるが何も起こらなかった。

 高槻は絵里奈から智也の話を聞く。彼はエレベータに乗って行方不明になったのではなく、その後連絡が取れなくなったということだった。二人は同じ高校出身で絵里奈は彼のことを心配していた。高槻は尚哉がエレベータで体験したある事柄から、智也が行方不明になった原因を推理する。


沼のヌシ

 尚哉と同じ体験をしたことがある遠山から高槻に相談したいことがあると連絡が入る。不動産屋である遠山が別荘地の開発をしているが、その土地に住む老婆が沼を潰したらヌシ様の祟りがあると騒いでいるということだった。二人は遠山とともに現地へ。

 現地で老婆、安原弘子と接触した高槻たちは、弘子からヌシの嫁が彼女の行方不明になった娘聡子であると告げられる。さらに認知症の疑いのある弘子の面倒を見ている大森から、弘子や聡子の身の上に起こった過去の事件を教えてもらう。

 高槻は沼に隠された秘密を見抜くことに。


人魚の肉

 ネットで人魚の肉を食べさせるレストランのことが話題となる。それを知った高槻がレストランを予約し尚哉と一緒に出かけるが、人魚の肉を食べるには合言葉が必要だった。二人はレストランで働いている海野沙絵と再会する。彼女に話を聞こうとして、二人は同じ客として店に来ていた林原夏樹と出会う。沙絵も高槻たちと同様、人魚の肉を店が本当に出しているのかを調べるために店に潜入していた。店のことを調べるために夏樹も協力することに。

 高槻は合言葉を探り出し、再度店を訪れる。そして合言葉のおかげで秘密の小部屋に通される。店の主人篠田と話した高槻は、人魚の肉の正体を見抜き店の奥へ。そこには夏樹や沙絵がおり、人魚の肉の正体を掴むために店員と格闘していた。夏樹は佐々倉と同じ刑事であり、怪しい肉を提供している店のことを調べていたのだった。

 事件が解決し、二人は沙絵と話をし、彼女が八百比丘尼となった経緯を聞くことに。その時もう一人の高槻が現れる。

 

 シリーズ第7作。第5作で尚哉の少年時代の怪異体験の謎が明かされ、前作から少し展開が変わってきている。第4作までは、怪異現象に見せかけて実は人間が…という話が多かった。前作もそこは同じであるが、本当の怪異現象や高槻に関する謎に近づく話が少しずつ織り込まれ始めている。

 

 「違う世界へ行く方法」はエレベータを使った都市伝説の一つを取り扱う。この伝説は全く知らなかったが、若者の間では有名なのだろうか。話はこの都市伝説を経験した男子が行方不明になる、というものだったが、実際にはこの伝説は直接関係ないことが明らかにされ、事件は意外な展開を見せる。この話では尚哉が前作で「もう一人の高槻」に言われた言葉を心配し続けていたということが明かされる。

 

 「沼のヌシ」では尚哉と同じ体験を持つ遠山が依頼主。彼が携わる別荘開発が舞台となり、そこでの祟り話がメイン。こちらも真相は人間の手による犯罪。こちらでも現地に行った高槻が鳥を見て気を失った際に、「もう一人の高槻」が現れる展開となる。

 

 「人魚の肉」では久しぶりに沙絵が登場。人魚の肉と食べさせるというレストランが舞台。こちらの真相はちょっとギョッとさせるものだったが、それでも怪異ではない真相。でこちらでは、沙絵が高槻と絡む場面で一瞬だけ「もう一人の高槻」が現れる。

 

 「もう一人の高槻」が登場することが多くなってきており、シリーズも終盤に向かっていることが感じられる。ただ前作でも書いたが、小説内の時間進行は非常にゆっくりであり、尚哉もまだ2年生のまま。まだまだシリーズは続きそうで、楽しみでもある。