戦百景 本能寺の変 矢野隆

●戦百景 本能寺の変 矢野隆

 本能寺の変に至るまでのエピソードのいくつかに焦点を当て、信長と光秀それぞれの視点から二人の想いを描く。8章からなる。

 

 1章 信長

 信長の視点。信長と光秀の出会い。細川藤孝の家臣であった光秀は、主の命により義昭上洛の協力を求めるために信長に会いに来るが、信長は光秀の不思議な態度に興味を惹かれることになる。

 

 2章 光秀

 光秀の視点。上洛した義昭、信長が京から去ったのを狙って三好三人衆が義昭を襲う(本圀寺の変)。逃げようとする義昭を思いとどまらせる光秀。

 

 3章 信長

 信長が比叡山焼き討ちを命じる。他の家臣が仏罰を恐れるなか、光秀は信長の命に従うことを表明する。その理由は。

 

 4章 光秀

 義昭が信長から離反したことを受け、藤孝は光秀に今後について話をする。光秀は信長の家臣となることを決意、義昭軍に対抗する。

 

 5章 信長

 信長らに丹波平定を命じられた光秀だったが、波多野の裏切りなどがあり敗戦。光秀を慰める信長。次に荒木村重の謀反が起こる。これらを平定した信長は光秀を呼んで酒を飲む。本願寺との戦いの終焉の宴の場で、信長は佐久間信盛を叱責する。

 

 6章 光秀

 京での馬揃えの後、武田を攻め落とした信長。光秀は信長から、もし光秀が武田の立場だったらどうしたかと問われる。光秀は初めて信長を敵として考える。

 光秀は信長の長宗我部に対する考えを非難するが聞き入れられず。その後の秀吉の言動に対しての信長の言葉に光秀は落胆する。そして家臣たちに信長を討つことを宣言する。

 

 7章 信長 8章 光秀

 本能寺の変が二人それぞれの視点で語られる。

 

 

 ネットで話題になっていたシリーズ。北野武監督の最新作が本能寺の変を取り扱っていると知り、久しぶりに復習の意味も込めて本能寺の変について読んでみようと思い探していたところ、本作のことを知り読むことに。

 冒頭で書いたように、普通の歴史物とは異なり、いくつかのエピソードを取り上げ、その時の信長と光秀の会話や考えを中心に物語は進む。二人の人となりはもちろんだが、その時二人が何を考えて感じていたかが克明にされるのが、本作の特徴と言える。もちろん著者の創作であるのだが。

 

 ざっくりとまとめれば、信長は初対面で光秀の不思議な態度に惹かれ自分の家臣にしたいと考える。その狙いは成功し、光秀を家臣とし他の家臣の誰よりも一目置くことになる。

 一方、光秀は特殊な立場でありながらも、主である藤孝のために信長に尽くすことになるが、ある時から信長を主とすると決断。しかし全国統一を目前に控えた信長が「普通の」天下人となってしまったことに失望してしまい、信長を討つことを決意する。

 

 本能寺の変については多くの本が出されており、光秀がなぜ信長を討ったのかは永遠の謎であるが、著者は「信長に対する失望」が原因だとするようだ。実は本作6章で、光秀がそう考える前に、武田を滅ぼした信長からお前ならどうするか、と問われた際に初めて信長を敵として考えるに至る、という下りがある。それまでも本書の中では、光秀は主のためが一番と考える理の人、として描かれている。その「理の人」として部分が信長を敵と考えてしまうというのが前段にあり、しかも尽くすべき主かどうかについては4章で義昭についてで語られている。

 これらが一つずつ重なってきたことで、信長を裏切り信長を討つことになる、という展開なのだろう。わからなくはないし、なかなか面白い説だと思うが、やはり少し説得力に欠ける気がする。

 

 それでもエピソードをピックアップしてそこに焦点を当て人を語るというこのスタイルはなかなか面白い。本能寺の変のことを詳しく知りたいと思って読むのにはあまりふさわしくないだろうが(笑 このシリーズの他の作品もちょっと読んでみようと思う。