多摩湖山荘殺人事件 藤原宰太郎

多摩湖山荘殺人事件 藤原宰太郎

 トリック研究家の久我京介は腸捻転で入院する。そこへ亡くなった妻の妹美知子が事故で亡くなったと美知子の娘平田妙子から知らせが入る。乗っていた車が事故にあい死亡したもので、運転手は助かったが、それは夫の連れ子である織江の婿であり、舟木の会社で専務をしている修だった。また夫舟木信正はそのとき家で庭いじりをしていたが、妻死亡の知らせを聞いて乗っていた脚立から落下し死亡していた。

 久我は研究の助手をしている西川明夫に代理で告別式へ出ることを依頼する。明夫は友人である山下洋子とともに告別式に参加、洋子の父は警察で警部をしていた。

 久我は姪である妙子から母の遺骨を分骨したいと聞き、その意思を伝えに舟木家を訪れる。帰りに妙子とともに事故現場に訪れた際に、夫信正が脚立から落下するところを目撃した、舟木家の隣に住む画家の岡本英一郎と出会う。英一郎は、明夫の大学の友人英治の兄だった。また妙子も洋子の大学の先輩だった。明夫は岡本の家へ遊びに行き、英一郎が所持しているライフルを見せてもらう。

 後日、警察が明夫の元へ来る。岡本の家にあったライフルが盗まれたとのことだった。法要が行われることになり、久我はまた舟木家の別荘へ行くことに。明夫や洋子も便乗して岡本の家へ。そこで英一郎の友人たちと出会う。皆で宴会をしていると舟木家からも修やその妻織江が岡本家を訪れる。その夜、岡本家の書斎で電話で会話中の英一郎が射殺されてしまう。電話は家に戻った修からのものだった。犯人は外から射撃したようだったが、カーテンが閉められ外から英一郎の姿は見えない状況での犯行だった。また現場には殺された英一郎が書いたと思われる「OFf」というダイイングメッセージが残されていた。

 明夫や洋子、洋子の父の山下警部から英一郎殺害時の状況を詳しく聞いた久我は犯人の目星をつける。そして山下警部に依頼して関係者を集め事件当夜を再現し、犯人を明かす。

 美知子の事故には夫信正が同乗していた。しかし信正が即時死亡したのに対し、美知子はまだ生きていた。遺産相続の関係から、義父である信正が義母美知子よりも先に死亡した場合、遺産は美知子へ行くことになる(その後すぐに死亡したとしても)。これを知っていた婿である修は義父の死亡時刻を誤魔化すためにその死体を別荘に運び(運んだのは事故の原因となった岡本英一郎)英一郎に嘘の証言をさせた。

 またこの犯罪に協力した英一郎が妙子に惚れているのがわかり、修は事実を告白されるのを恐れ英一郎を殺害した、というのが事件の真相。

 

 30年前の藤原宰太郎の作品。おそらく話題になったこともない本作を読んだ理由。

 子供の頃、「推理クイズ」や「探偵クイズ」などの名称で子供向けの雑誌に読み物があったり、付録としてそんな本があった。またそれらの名前で本も出ており、今も私の本棚には2、3冊残っている。子供向けということもあり、問題編が2、3ページあり次のページでその答えが記されていた。著者は藤原宰太郎氏。

 話は変わるが先日BS松竹東急で小津監督生誕120周年を記念して何本かの映画を放送していた。そのためレコーダの番組表をチェックしていたのだが、その中で気になるタイトルの2時間ドラマ「瀬戸内ミステリー海流 無人島の首なし死体」があり、番組詳細を確認したところ、原作が藤原宰太郎氏だった。早速録画をし見てみた。

 これがトンデモミステリー(笑 タイトル通り無人島で首なし死体が発見されるのだが、通常ミステリーで首なし死体は被害者のすり替わりがその理由であることが多い。しかしこのドラマでは、射殺された被害者の頭部に銃弾が残ってしまい、そのライフルマークから拳銃を特定されるのを恐れた犯人が頭部を切断する、という小説が海外にあったとされ、ドラマでの首なし死体の理由もそれにあたるのだ、と探偵が話す。しかしこの拳銃は道で病で倒れた警察官から盗まれたものであり、その犯人は特定されていない。つまりライフルマークから拳銃が特定されたところで犯人は少しも困らないのだ。ただ単に首なし死体をドラマ上出したいだけの理由としか考えられなかった。ドラマではその後、密室殺人+ダイイングメッセージという事件も起きるのだが、こちらも甘いに幼稚な犯罪。密室とされたのは家の鍵が死体のそばにあったからだが、そのトリックはラジコントラックの荷台に玄関の郵便口から鍵を落とし、ラジコン操作して運んだというもの。ダイイングメッセージの「IC」もなぜかローマ数字であり、意味する数字99がそのものズバリ犯人の名前だったというものだった(笑

 

 で、もう1本ドラマを録画したのだが、それが「湖畔の別荘、殺しのパズル」というドラマであり、その原作が本作だった。「無人島の首なし死体」があまりにひどかったので、もう1本のドラマを見る前に念のため原作を読んでみようと思ったのだ。

 

 で本作は上記の通りのあらすじ。冒頭で探偵の亡くなった妻の妹夫婦が同日に亡くなったとわかるのだが、事故として扱われる。でもう一つのライフル射殺事件が起きるが、これが話が半分以上進んだ後、270ページの小説の中で150ページあたりで事件が発生する。つまりここまで半分以上ダラダラと話が進むのだ。そのライフル射殺事件も分厚いカーテンが引かれた部屋にいた被害者をどうやって正確に射殺することができたのか、という謎。子供の頃に読んだ「推理クイズ」そのもののような謎でさすがに笑ってしまった。この事件での被害者が、冒頭の妻の車事故を聞いて脚立から落下して死亡した夫の事件の目撃者、となればもう犯罪全体の作りもわかろうというもの。

 これはこの作品を基にしたドラマも大したことないな、と思い読み終えたところ、著者のあとがきがあった。そこには本作がドラマ化されることが記されていたのだが、当時アメリカで起きた射殺事件を理由に後半の事件がドラマから省かれることになったと書かれていてビックリ。要は冒頭の車事故しかドラマとしては使われないということで、どんな風にドラマにするのだろう、と別の興味を持ってしまった(笑

 

 そしてドラマ「湖畔の別荘、殺しのパズル」。2時間ドラマなのだが、最初の30分で探偵が車事故の真相を言い当ててしまう。原作での犯人である修がドラマでも車事故の犯人なのだが、探偵に言い当てられてもシラを切る。しかしその後服毒自殺してしまう。ここからは原作の登場人物だけを使った全く違う話が展開していく。

 しかしドラマを見て感じたのは、原作の話よりもドラマの話の展開の方が、まだ見れる話になっていた、ということ(笑 それでもツッコミどころは満載だったけれど。

 

 子供の頃に楽しんだ藤原宰太郎氏の作品だったが、やはり大人向けではなく子供向けだったのね、というのが再確認できた、というお話でした。