准教授・高槻彰良の推察 呪いの向こう側 澤村御影

●准教授・高槻彰良の推察 呪いの向こう側 澤村御影

 青和大学文学部の深町尚哉は少年の頃不思議な体験をし、それが基で他人の嘘を聞き分ける能力を持ってしまう。大学で民俗学Ⅱを受講した彼は、准教授高槻彰良からレポートの件で呼び出され、高槻の調査に同行するようになり、一緒に事件を解決して行くことに。

 以下の3編からなる短編集。

 

押し入れに棲むモノ

 正月、実家に帰省した尚哉は父親とぎこちないながらも久しぶりに会話をし、犬を飼い始めた両親の気持ちを理解する。散歩に出た尚哉は小学生時代の同級生田崎涼と出会う。それがきっかけとなり、田崎の兄で教師である晋から依頼を受けることに。

 田崎のクラスの広川という少年がモンモンというお化けを見たことがあると発言したことがきっかけとなり広川が不登校となる。その後芦谷という少女がクラスでモンモンを見たと騒ぎになっているという。高槻は真相を見抜き、芦谷という少女を呼び出す。その後高槻と尚哉は広川の家へ向かう。広川少年が幼少時代飼っていた犬をモンモンだと勘違いしていたと気づいた二人だったが、そんな二人に広川の弟が声をかけ、モンモンがいるという押入れに連れて行く。そこで一瞬だけもう一人の高槻が現れ、見るなと話す。

 

四人のミサキ

 2月。高槻の従兄弟優斗から連絡があり、未華子と結婚したことが知らされる。その未華子の友人の光莉の小学生時代の同級生の周りで不思議な事件が起きていると聞く。光莉の友人美沙紀が亡くなり葬式で友人たちが久しぶりに集まったが、その後そのうちの一人可乃子が交通事故で亡くなってしまう。しばらくしてもう一人の友人芽衣の家のポストにある絵が入れられていた。その絵は可乃子が美沙紀からもらった絵と同じものだった。美沙紀は昔から予言をする子供でそれが当たることも多かった。その美沙紀が死ぬ前に渡した絵が届けられたことで光莉が恐れて参っているという話だった。

 高槻と尚哉は光莉に会いに行き、高槻は全ては偶然の出来事だと話し彼女の「呪い」を解く。光莉は美沙紀の家へ行くことにし、高槻にも同行を求める。一緒に美沙紀の家へ行った高槻は美沙紀の父が人気作家だと知る。しかし彼の著書に違和感を感じた高槻は美沙紀が最後に残した言葉の本当の意味を突き止める。

 

雪の女

 春休み、尚哉は高槻に誘われ新潟にスキー旅行に行く。宿に幸福の猫がいることで有名な場所だった。そこで同じ旅館に泊まっていた若者たちと仲良くなるが、翌日その中の一人野中が行方不明になってしまう。前日彼は幼い頃この旅館で雪女に助けられたことがあると話していた。高槻と尚哉は野中を探し当てるが、そこに現れたのは雪女だった。

 

 シリーズ第8作。第6作あたりから本当の怪異現象が登場することが多くなってきているが、本作でも3話中、2話に「本物」が登場する。

 

 「押し入れに棲むモノ」は小学生のカゴメカゴメ遊びから端を発したお化けモンモン騒動。モンモンがいると言った男の子が不登校となるが、同じクラスの女の子がモンモンを見たと言ったことから大騒動に発展。この時点で「偽物」パターンが濃厚だと思っていたら、その通りに展開。そっちの話かと思っていたら、最後にちょっとしたどんでん返し。一瞬だけ「もう一人の高槻」が現れて話は終わる。

 

 「四人のミサキ」は本作の中では一番よくできた話だった。高槻の従兄弟の結婚相手の友人(なかなか遠いところを引っ張ってきている 笑)の女性が依頼主。小学生時代の友人が早死にするが、その彼女が予言者だったというところから話がスタート。これまたちょっと怪しい話だと思ったが、高槻がその予言や彼女の残した言葉を恐れる友人をその「呪い」から解いてあげる。しかしこの話はここからが本番。死んだ女性の家に遊びに行った高槻たちが、作家であるその父親がやったこと、それを死んだ女性が嫌がっていたことを言い当てる。ここ何年かブームとなっている主人公の若い女性が早死にしてしまう、という小説に対する皮肉にも思える話だった。

 

 「雪の女」は新潟のスキー場の宿に泊まりに行った高槻たちが遭遇する事件。同じ泊まり客である若者が昔この宿で雪女に出会ったという話を聞く。ハイ怪しさ100% 笑

 で高槻と尚哉はその雪女と遭遇するのだが、ここまでの登場人物でそれっぽいのは一人しかおらず、そりゃそうだよねと思ってしまった。第4作で人魚が登場しその後登場し続けているが、8作目にして雪女まで登場。ただこのシリーズを読んできた人ならばこの登場も素直に受け入れられるのではないか。雪女を前にしてまたも「もう一人の高槻」も登場する。

 「もう一人の高槻」の登場頻度がどんどん上がってきている。これはシリーズ終焉に向けての準備なのだろう。少しずつその正体らしきものも見え始めてきているし。

 

 そういえば上記あらすじの中では触れなかったが、2話目にかつて高槻の実家で家政婦をしていた里村悦子が登場している。尚哉はその里村から、子供時代の高槻、正確に言えば「もう一人の高槻」が母親を階段から突き落とした話を聞くという場面がある。「もう一人の高槻」の謎とともに、子供時代の高槻の謎も少しずつ明らかになってきている。

 

 シリーズの大きな謎がどうなっていくのか、には当然興味があるが、尚哉がやっと2年生を終える時期となった。次の作品では3年生になっているはずで、専攻や研究室の話も出てくると思われる。しかし大学2年間で8作かかったことに。卒業までにあと何作かかるのだろう(笑 まぁ楽しいからいいけど。