アントニオ猪木をさがして

●700 アントニオ猪木をさがして 2023

 2022年に亡くなったプロレスラー、アントニオ猪木に関するドキュメンタリー。猪木に影響を受けた有名人、猪木のブラジル時代の知り合い、新日のプロレスラーなどの証言やインタビュー、猪木のファンのエピソードを3つの時代にわけて描いたドラマ、専属の写真家による猪木の膨大な写真の数々、などで構成される。

 

 昨年公開された映画だが、Amazonプライムで公開されたので早速鑑賞。

 

 子供の頃ファンだったので楽しみに観たが、まるっきり期待はずれ。これならば猪木が亡くなった後、アメトークで放送された猪木の追悼番組?の方が100倍良かった。

 

 ダメな部分をあげる。

 1つ目はインタビュー部分。本作ではインタビュー形式が3つあった。有名人などの独白。2人による対談形式。インタビュアーを交えた形式。独白や対談形式の部分は、まだ見ることができたが、インタビュアーを交えた形式の現役プロレスラーオカダカズチカの部分はヒドかった。オカダが悪いというわけではなく、インタビュアーが投げかける質問がほとんど聞き取れないのだ。インタビュアーの声が余計だと思ったのかどうかわからないが、それならば質問を字幕で表示するという丁寧さはあってしかるべき。

 

 2つ目はドラマ部分。80年代の少年ファン。90年代の高校生ファン。00年代の中年ファン。三つのドラマがあったのだが、これ必要だったのだろうか?自分としては同じ世代となる80年代の少年ファンによるドラマは少し心が動いたが、その際猪木の試合の映像を一切流さなかったのは何故なのだろう。権利上の問題かと思ったが、00年代のドラマでは映像を使用していたので、それが理由ではなさそう。その時代時代のファン心理を描く、というのはわからないではないが、映画として何がしたかったのか、伝えたかったのかがブレる要素となってしまっている。

 

 3つ目は猪木の映像の使用頻度の低さ。上でも書いたが、権利の問題なのか、猪木を偲ぶ映画としてはあまりに映像が少な過ぎ。ファンとすれば、猪木現役時代の名勝負のいくつかを観たいがためにこの映画を観たと思うが、名勝負という観点からの映像は皆無。唯一ベイダーとの試合が後半取り上げられていたくらいだった。

 

 結論として、この映画は誰に何を伝えたかったのだろう、という疑問が残った。何人かの有名人を使って、猪木に対する思いを言葉にしたのはファンとしてその思いが共有できるため理解できる。ではドラマは誰のため?その時間があるのならば、元気だった猪木の勇姿をもう一度観たいと思うのは自分だけではないはず。

 新日のプロレスラーの話を登場させるのも少しは理解できる。オカダが「猪木さんは探しても見つからない」と語ったのも良かったと思うし、ひょっとするとこの言葉が映画のタイトルになったのかもとも思った。ただオカダや棚橋の話よりも、藤原組長の話がこの映画の中で秀でていたのは、ファンならば誰しもが感じるところではないだろうか。

 

 せめてラストの「猪木ボンバイエ」を流した4分間、猪木の全盛期の試合映像を流すことはできなかったのか。それならばここまでの1時間半近くあまり面白くない映画を観せられたとしても、最後に少し溜飲が下がったと思うのだが。

 関係のない話だが、こんな不出来なドキュメンタリーを見せられると、NHKが作るドキュメンタリーはやはりスゴいのだと思わざるを得ない。