あきない世傳 金と銀9 淵泉篇 高田郁

●あきない世傳 金と銀9 淵泉篇 高田郁

 行方不明だった結は型紙とともに音羽屋へ。そして忠兵衛と結婚をすることに。梅松が型紙を作り直し、五鈴屋と音羽屋は同時に十二支の小紋染めを売り出すことになり売り上げを伸ばす。しかし武家に反物を売ったことで呉服仲間から外されることになり、五鈴屋は呉服をうることができなくなり、太物扱いの店になる。売り上げが落ちる中、幸は綿での新たな染物を作ることを始める。

 

 以下の11章からなる。

 

1章 ままならぬ心 1754年〜1755年

 大晦日 行方不明になった結を店の皆で探すが見つからず

 音羽屋の使いが結が音羽屋にいることを知らせにくる

 元日 幸は音羽屋に結に会いに行くが、会いたくないと言われてしまう

 梅松 結が持ち出した型紙にしてある細工について話す

2章 ふたつ道

 小西屋が結が音羽屋忠兵衛と如月2日初午に結婚することを伝えにくる

 梅松 型紙を作り直すことに 

 幸 結の結婚の日、結に会い話をし、型紙のことを伝える

3章 春疾風

 幸 蔵前屋に呼ばれる 両替商の寄合で音羽屋の小紋染めに五鈴の柄が見つかるが、結が嫁資として五鈴屋からもらったものだと説明したとのこと 

 小紋染めに五鈴の柄があることを指摘したのは井筒屋こと惣次だった

4章 伯仲

 卯月朔日 音羽屋と五鈴屋で十二支小紋染めの反物が売り出される

 音羽屋は引札で宣伝、五鈴屋は端切れで見本を作る

 千代友屋店主の妻が店へ 音羽屋の十二支柄の小紋染め

 五鈴屋大坂本店が仕入れの巴屋を買い取ることに

 日光街道小金井宿の古手売りが反物を買いにくる

5章 罠

 武家縮緬百反を買い求めにくる

 呉服仲間の寄合で加賀藩に百反売ったことを咎められ、仲間から外される危機に

 幸 富久の祥月命日で寺参りで惣次に会い、仲間から外れる件について話を聞く、さらにその件と上納金について、裏で糸を引く人間がいると言われる

6章 菜根譚 1756年

 師走 五鈴屋江戸店は開店4周年を迎えたが、仲間から外されることが正式に決まる

 五鈴屋江戸店 新年二日より太物商いにかわる

 歌舞伎の市村座中村座が火事に 再建に音羽屋が尽力

 3年前連れの侍が倒れた儒学学者弥右衛門が店へ 今津の出身だとわかるとともに、掛け軸の言葉には続きがあることを教えてくれる

7章 帰郷

 八月 幸は大坂へ一度帰ることを決意、挨拶回りをする

 幸、梅松、茂作で大坂へ向かう

 梅松 白子に残した誠二という弟子を心配する

 大坂本店に到着、久しぶりに皆と再会、江戸での出来事を話す

 幸 柳内医師紹介の丁稚大吉と初めて会う

8章 のちの月

 幸 治兵衛の家へ 賢輔のことなど話す

 幸 綿買いの文次郎と再会 木綿作りについての現状を聞く

 幸 孫六を訪ねる 柳内が周助に縁談を持ってきたことを聞く

9章 大坂の夢 江戸の夢

 幸を訪ねて菊江がやってくる 新たな簪を見せ、いつか江戸へ出たいと話す

 幸 菊江が江戸に来る際には、鉄助とお梅を供にと考え伝える

 幸と梅松 豆七、大吉とともに江戸へ

10章 出藍

 菊次郎 吉次が2代目吉之丞を継ぐことを伝え、幸に浴衣を注文する

 幸 力造に藍染めをさせた綿で浴衣を作る

11章 天赦日 1757年

 吉之丞の襲名披露が話題となる

 五鈴屋江戸店開店5周年に音羽屋から酒樽が届く

 幸 新たな湯帷子を考え始める

 力造 木綿での小紋染めに着手、両面に糊を置く方法を考える それを元に幸、賢輔などで新たな柄を考えることに

 如月天赦日 皆の立会いのもと新たな染物を試作

 

 シリーズ9作目。ざっくりとしたあらすじは冒頭に書いた通り。順調だった江戸店に災難が降りかかり続ける展開となる。

 結による型紙持ち出し、結の音羽屋との結婚、そして呉服仲間から外され呉服が扱えなくなってしまう。前半はこれでもかいうぐらい不幸が五鈴屋を襲う。後半になり、掛け軸の言葉の続きを教えてもらった幸は希望を見出す。そして大坂へ帰り、懐かしい面々との再会を果たす。その中には菊江もおり、店で不遇な立場に置かれていた菊江は江戸へ出るつもりであることを幸に話し、それを受けて幸は鉄助を菊江の江戸への道中のお供とするだけでなく、お梅も江戸へ呼ぶことを決意。

 吉次の襲名披露で作った浴衣をきっかけに、気軽に着ることができ外にもきて行くことができる木綿の単衣を作ることに。

 

 前作にも書いたが、結の行動はこのシリーズを読んできた中で最も残酷なものであり、読んでいても腹が立ってしまった(笑 しかしその怒りも次に五鈴屋を襲った仲間外れの処置で吹き飛んでしまう。相変わらずよくもまぁ、著者はこれだけのヒドい仕打ちを考えつくものだ(笑

 それでも著者が上手いのはラストに希望を見せるところ。木綿での小紋染めを作るためずっと続けてきた力造の努力が、幸たちの助言により新しい身を結ぶことに。

 

 シリーズの中でも最も読んでいて辛かった第9作だが、次の作品では見事な逆襲を見せてくれることを期待して次を読むことにしよう。