サンドの女 三人屋 原田ひ香

●サンドの女 三人屋 原田ひ香

 ラプンツェル商店街にあるルジュール。三姉妹が営むこの店は朝昼夜で形態が変わる。朝は三女朝日が喫茶店を、昼は次女まひるうどん屋を、夜は長女夜月がスナックを営んでいる。この店の常連と三姉妹が織りなすドラマが描かれる。

 6編からなる短編集。

 

1 近藤理人(26)の場合

 理人は豆腐屋の主人、古屋彦一の家に居候しているゲイ。古屋に惚れているが、最近古屋が理人に飽きてきているのに気づいている。豆腐屋に買い物に来た夜月にスナックを手伝って欲しいと言われ店を訪れる。その後、理人は義父に電話をかける。


2 中里一也(29)の場合

 一也は3年前に新人賞を取った作家。しかしその後一つも作品を書くことができないまま今に至っていた。担当編集者の江原くるみに小説を書くように言われているが、そのくるみからも見放されつつあった。一也は夜月のヒモ状態であったが、くるみに何度も小説を書くように言われ、夜月とのことを書こうと決意する。しかしそれを知った夜月は悲しい顔をするのだった。


3 望月亘(30)の場合

 携帯ショップの店長亘は、まひると付き合っていた。ある時理人や一也からまひるとの結婚を考えているのか、まひるはきっと考えているはずだと言われてしまう。2人に連れられ三人屋の夜月の店に行った亘は二人から言われるまま、まひるのことを夜月に尋ねる。翌日まひるは激怒して亘に連絡してくる。


4 加納透(35)の場合

 朝日と付き合っている透は二人で暮らす家を探して不動産屋を回っていた。しかし代々不動産屋を営む家に育った透は、実は働くなくても良いほどの資産家の息子だった。そのことを朝日に打ち明けられないまま話が進む。ある時祖父が夜月の店にやって来て三姉妹の事情を聞くと共に透の家のことを全て話してしまう。透は正直に全てを朝日に説明、朝日がどうしたいのかを尋ねる。


5 飯島大輔(39)の場合

 大輔は夜月が一也と婚約したと聞いて焦っていた。一也の書く小説が大きな賞を受賞できそうだという噂も聞こえて来ていた。大輔は夜月に会いに行く。夜月の結婚に対する考え、朝日の結婚の予定とその身内にまひるも世話してもらうという話、などを聞く。一也の小説が発表され、後日B賞の候補作に選ばれたことがニュースとなる。そして選考会の日、待ち会が三人屋で行われることを知った大輔はその前日に夜月に会いに行き、プロポーズをするが断られる。そして一也の小説はB賞を受賞する。


6 森野俊生(29)の場合

 一也はB賞受賞後、時の人となりTVにも出演するほどになった。それと同時に小説に書かれた夜月も話題となったため取材などを避けるために夜月は商店街から姿を消す。朝日も結婚のために、まひるも朝日の加納家の会社に勤めることとなり、三人屋は店を閉じてしまった。俊生は自分の居場所がなくなったことを嘆く。一也の授賞式への招待状が俊生にも届き、それをきっかけに理人や大輔と久しぶりに会うことに。俊生は授賞式でまひると再会、パーティ会場から二人で抜け出す。俊生はその後もまひるとデートを重ねるようになる。理人も豆腐屋から出て三人屋で暮らすことに。大輔と三人で飲んでいた時に夜月を探すために、新聞広告を出すことを思いつく。そして夜月が店に戻ってくる。俊生はまひるに付き合ってくれと話す。

 

 シリーズ2作目。前作同様、各章はタイトルになっている男性目線で語られる。しかし内容的には本のタイトルである「三人屋」の3姉妹が主人公。前作では3姉妹が探している父のレコードの謎が1冊を通してのテーマだったが、本作は3姉妹の恋愛事情がテーマ、といったところか。

 1章を除き、2章から4章でそれぞれ長女夜月、次女まひる、3女朝日の恋愛が語られるが、次女まひるの恋愛だけが失敗に終わる。5章では勝手に?3姉妹の後見人を自認していた大輔が夜月の婚約に焦ることに。そしてラストの6章で、まひるにも新たな恋が始まる。その相手が前作(シリーズ第1作)で最初に登場した俊生というのが、ちょっと面白い。前作第1章で朝日に惚れた客として登場していた俊生だったが、いつのまにか物語の回し役となっており、シリーズ最後にオチをつけたといったところ。

 

 著者の作品はランチ酒に続いて読んだが、どの作品も妙にリアルさを感じられるところが良い。本作では、恋人が文学賞を受賞したり、恋愛相手が一生働かなくても良いほどの資産家の孫だったり、と現実離れしている部分はあるが、「リアルさ」はそこではなく、3姉妹や商店街の仲間たちが感じるその心の部分。恋愛が多く語られるが、それに対する各人の気持ちといえば良いだろうか。

 

 シリーズがこれで完結したのかどうかはよくわからないが、前作第1作が2015年、本作第2作が2021年に発行されているため、何年か後に第3作が出ないとも限らない。前作は父のレコードの謎と3姉妹がメインだったが、本作では商店街の仲間たちが実に生き生きとして感じられる。彼らのその後も知りたいと思ってしまっている自分がいるので、気長に続編を待ちたいと思う。