あきない世傳 金と銀12 出帆篇 高田郁

●あきない世傳 金と銀12 出帆篇 高田郁

 五鈴屋江戸本店10周年を迎え、寄合では呉服太物仲間としての届け出を出すことも決まる。幸は呉服店として復活するために家内安全の柄や呉服切手を使うことに決め、全てが良い方向に運び始めたが、組合の認可のために高額の冥加金を求められることに。それを幸の妙案で覆し、見事に呉服仲間として復活を遂げる。武家との取引も始まる中、日食が江戸の町を襲うが、それすらも幸はチャンスへと変える。そして吉原での衣装競べに幸は考えていた案をぶつけることに。

 

 以下の11章からなる。

 

1章 託す者、託される者 1761年

 五鈴屋江戸本店開店10周年

 大阪から文 茂作と孫の健作が江戸へ 柳井医師亡くなる の知らせ

 開店記念日前日、茂作が江戸本店に到着 宴が開かれ、3日後茂作たちは帰って行く

2章 家内安全 1762年

 寄合で、浅草呉服太物仲間としておかみに届け出ることが承認される

 幸 呉服売り出し時のために、新たな図柄 家内安全を使うことに

 幸と菊栄 菊次郎に呼ばれる 吉次が市村座で卯月から新たな歌舞伎演目をすることになり、それに音羽屋が関わっていることを吉次が心配しているとのこと

3章 穀雨

 弥生に勧進相撲が開かれ、2回目の力士の浴衣作りを行う

 相撲が雨で中止となる中、市村座の演目が話題に

 近江屋が、佐助に縁談、賢輔に縁組話を持ってくる 佐助は飯田屋、賢輔は近江屋の跡取りとして 幸は両方とも断る

 菊栄 新たに店を構える決意を固める

 長雨が止み、相撲が再開され、浴衣が売れ始める

4章 知恵比べ

 佐助 縁談を断る

 梅松 家内安全の図柄を彫りあげる

 呉服太物仲間の件、お上から冥加金1600両を求められる

 幸 寺で惣次と会い、冥加金のことで蔵前屋と会うよう助言をもらう

5章 掌の中の信

 幸 以前支払った上納金の放棄と冥加金を引き換えにする申請を蔵前屋に頼む

 三味線の師匠お勢が店に 弟子の遊女が芸で身を立てたいと言ってる話を聞く

 幸 家内安全の反物を売り出すために、切手を使うことを思いつき寄合で提案

 千代友屋に呉服切手の紙の相談をし、仙貨紙を教えてもらう

6章 帆を上げよ 1763年

 呉服太物仲間が承認され、冥加金も年100両、翌年から50両と決まる

 その報告に行った近江屋で翌年の暦をもらい、弥右衛門にも送る

 五鈴屋江戸本店11周年記念日 家内安全の反物、呉服切手を公表

 年明けから家内安全の反物、呉服切手が売れ始める

 吉原 花鳥楼から衣装競べの誘いがあるが、幸は断る

7章 今津からの伝言

 菊栄 和三郎に新たな笄作りを手伝ってもらうことに

 店に本田家用人、今井籐七郎が来て、輿入れ衣装を100両で揃えて欲しいと頼む

 今津村弥右衛門から掛け軸が送られる 文は長月朔日の日食予想も

8章 有為

 菊栄の新たな店の名前を「菊栄」とすることに

 三味線の師匠お勢 弟子の名前歌扇と明かす

 音羽屋が呉服切手を扱うとの情報が入るが、使い勝手が悪いものだった

 菊次郎 吉次のために新たな色を考案して欲しいと幸へ頼む

 今井籐七郎が輿入れの話をなかったことにと申し出て来て、それに音羽屋が絡んでいることを知る。さらに婚礼が長月朔日だと知り、日食の可能性を伝えるが激怒される

9章 不注年歴

 長月朔日 日食が起きる 五鈴屋は菊栄の機転で客を安心させる

 今井籐七郎が謝罪にくる 幸の言葉を受けて婚礼を1日ずらしたため 音羽屋が評判を落とした話も聞く

10章 のちの桜花

 穂積家奥方が店に日食のことなどを幸に聞く

 大阪から豪奢な呉服が届くが幸は不安を覚える

 五鈴屋江戸本店開店12周年

 武家の客も増え、店は大繁盛するが、これまでの客が五鈴屋の変貌を恐れる

 年末、店にお勢が歌扇を連れてやって来て、歌扇に合う綿入れを求める

11章 遥かなる波路 1764年

 大阪からの文 手代、丁稚5名を江戸へ送ること、鉄助の祝言が知らされる

 佐助にまた蔵前屋から縁談があったが断るが蔵前屋の本命は幸の話、それも断る

 蔵前屋は音羽屋が吉原に販路を求めたことを話す

 砥川が吉原の大文字屋市兵衛を連れて店へ 長月朔日衣装競べに五鈴屋を誘う

 幸 歌扇に衣装競べで五鈴屋の衣装を纏ってもらいたいと頼む

 

 シリーズ12作目。ざっくりとしたあらすじは冒頭に書いた通り。

 いよいよ五鈴屋が呉服店として復活するための道筋がつく。冥加金を幸の機転で乗り切り、家内安全の柄を仲間と共有、さらには呉服切手を考案し、呉服店としての基盤を整える。音羽屋の横槍が入るが、偶然知り得た日食の知識でそれもチャンスへと変えてしまう幸。そして吉原での衣装競べの話が持ち込まれ、呉服を扱い始めて、商売そのもののやり方に疑問を持っていた幸が秘めていた案をぶつけることに。

 

 いよいよラス前。呉服店としても順調なスタートを切り、幸の願いは全て叶ったかのように思えた本作だったが、庶民のための太物と武家のための呉服を両方取り扱うことで、幸の中に疑問が生まれる。これがおそらくシリーズ最後の幸にとっての試練なのだろう。三味線の師匠お勢の紹介で知り合った歌扇が、最後の鍵を握る人物になりそう。

 

 本作でも音羽屋のチャチャが入るが、既に五鈴屋はちょっとのことでは動じない状態。むしろ日食騒ぎで音羽屋が没落していくことが予想されるが…。あぁそれで最後は吉原での衣装競べ勝負となるのか。なるほど、今やっとわかった(笑

 

 「みをつくし」シリーズ(10作+1作)よりもちょっと長かった本シリーズも次の13作目でラストとなる。「みをつくし」はとても面白いシリーズだったが、ラストはちょっとバタバタした終わり方だったように思う。本シリーズのラストはどうなるのか。楽しみに読ませてもらおう。