男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花

●714 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 1980

 何度も見ている寅さんシリーズ、しかもリリー4部作の一つなので、いつものスタイルではなく、ざっくりとしたあらすじと見せ場を一緒に。

 

 冒頭の夢

 時代劇。鼠小僧寅吉が豪商の蔵から千両箱を盗むが追われ、貧しい家へ匿ってもらう。匿ったのは例によっておさくとその夫。家から去る時に寅吉はおさくに声をかける。その後、屋根の上での格闘、寅吉は見得を切るが、なぜかいつもの寅さんの口上。目が覚めた寅さん。笛を吹きながらチャンバラ遊びをしている子供たちが夢に影響を与えたと思われる。

 11作の夢と同じ時代劇パターン。11作と同じで、寅吉はおさくたちの生活が貧しいのは自分たちのせいではないと語るが、これも後のとら屋のシーンへリンクしている。

 

 OP後、とら屋

 おばちゃんが行商人からヨモギを買っているところへさくらがやってくる。季節の話→今年は花見をしなかった→温泉にでも行きたい、という会話。これも後の公園へ出かける伏線。タコ社長が脱税が発覚したことを嘆く。博がキャバレーにチラシを届けるため出かける。キャバレーについた博、街を歩くリリーを見かけ声をかける。とら屋へ来るように話すが、今晩から大阪だとリリーは答え、寅さんに会いたがっていると伝えてと話す。

 タコ社長やおいちゃんたちは不景気を嘆く。1980年の作品ということもあり、そんな時代だったか。これが夢シーンとリンクしていると思われる。

 夜、家でリリーと会ったことを話す博。皆でリリーのことを心配しているところへ上州にいる寅さんから電話。さくらは寅さんにリリーのことを話す。その頃リリーは店で歌っていた。

 

 寅さんとら屋へ

 一月後、寅さんがとら屋へ帰ってくるが、皆は店を休みにして水元公園へ行く予定だった。出かけようとしていたことを隠すとら屋の皆と寅さんの定番のケンカ。そこへ速達が届く。リリーからで、今病気で入院しているとの知らせ。場所が沖縄だと知り、陸路や海路で行くには時間がかかり過ぎると困っていると、タコ社長が飛行機でと提案。しかし寅さんは壮絶に飛行機に乗ることを拒む。

 11作でも書いたが、寅さんシリーズには定番と言えるシーンがいくつも存在するが、とら屋でのケンカが原因で寅さんが旅に出る、というのもその一つであり、ここもその定番シーン。しかし本作ではそこへリリー入院の知らせが入り、事態は一変する。飛行機を拒む寅さんが可笑しいのも忘れずに(笑

 

 夜。さくらは博に明日寅さんを飛行機に乗せることになったと知らせる。御前様まで説得にきてくれたことも。翌日会社の車で博とさくらが寅さんを羽田へ。前夜眠れなかった寅さんは車の中で居眠り。御前様がとら屋へ。そこへさくらから電話。最後の最後で寅さんが飛行機に乗ろうとしないと愚痴り、家に連れて帰ると話すが…空港へ入ろうとしない寅さんのそばをスチュワーデスが通りかかり、寅さんはあっさりと彼女たちについて行く。とら屋に戻ったさくらたちは、寅さんが無事飛行機に乗ったことを伝える。

 羽田で標識に捕まり動こうとしない寅さんが可笑しい。さらにスチュワーデスに簡単について行く寅さんも。

 

 沖縄 リリーの病院

 那覇に着いた寅さんはフラフラ。しかし空港職員たちの手によってバスへ乗ることに。バスの中でも眠る寅さん。米軍基地の風景などが描かれ、寅さんはリリーのいる病院へ。皆からの見舞いの品をリリーに渡し、リリーは喜ぶ。

 リリーが大部屋にいたため、婆さんとリリーを見間違える寅さん。見舞いの品の最後に自分のふんどしまで出す始末。その後、大部屋の他の患者に挨拶をする寅さん。この一連の病室のシーンは見事な喜劇となっている。

 夕方、寅さんは面会時間を終え帰って行く。寅さんとリリーの中を向かいのベットにいる婆さんがヤキモチを焼くのが可笑しい。安宿に泊まった寅さん、翌日市場でバイをして稼ぎつつ、リリーを見舞う。リリーは徐々に回復、寅さんも大部屋の人気者になる。寅さんはさくらに手紙を書き、リリーの病状や自分の生活を知らせる。映画の中では寅さんの語りでその内容が話される。

 見舞いに来た寅さんの前で化粧をするリリー。色男が訪ねてくるんだよと言い、それが寅さんであることを明かす。照れる寅さん、笑う大部屋の他の人たち。このシーンでは珍しく寅さん至福の時が続く。

 

 リリー退院へ リリーと寅さんの同居

 いつものように病院を訪れた寅さん。リリーは外におり、退院許可が出たことを知らせる。とら屋。リリーからお礼の手紙が届き、退院したことが知らされる。喜ぶ皆だったが、手紙の最後に寅さんがリリーと一緒に暮らしていることが書いてあり、心配になる。

 寅さんとリリーはある家の離れを間借りしていた。リリーはその家の息子高志と遊び、寅さんの仕事の帰りを待つ。夕食を共にした二人。リリーは家の娘富子から二人は夫婦かと聞かれ、まだ式は挙げてないよと答えたと話す。そして寅さんがこれまで所帯を持ったことがあるかと尋ねる。照れた寅さんは母屋へ行ってしまう。

 

 寅さんは退院したリリーと同居を始める。シリーズの中でマドンナとの二人だけの同居というのは本作のみ。しかし病院での至福のときとは異なり、リリーが積極的な動きを見せる。そりゃそうだよなぁ、寅さんは自分のために沖縄まで来て退院まで面倒を見てくれたのだから。このリリーの態度が引き金となり、二人の仲は怪しくなっていく。

 

 翌日寅さんはリリーを置いて出かけてしまう。暑さに参った寅さんは高志に海洋博記念公園の水族館へ連れて行ってもらう。そこでイルカのトレーナーの若い女性と知り合い1日を過ごす。帰って来た寅さんは先に寝ていたリリーに声をかけ母屋へ。

 その翌日。今度はリリーが高志とともに出かけてしまう。リリーはキャバレーを周り、仕事を探すが足元を見られ安い給料を提示され怒る。二人はレストランで食事をする。高志はリリーに寅さんと結婚するのかと尋ね、あの人はリリーさんにふさわしくないと言う。寅さんはトレーナーの女性と公園で踊るなどして1日を過ごし家のそばまで一緒に帰ってくる。

 

 寅さんが水族館の女性と仲良くなる一方で、リリーは仕事を探し始める。このすれ違いが残酷だが、これが次のシーンへの布石となる。

 

 ケンカ別れ

 夕飯の支度をしていたリリーは寅さんに明日から働くと話す。寅さんはまだ働かなくてもと言うが、リリーはお金がなくなったと答える。寅さんは金のことは俺に任せておけと言うが、男に食わせてもらうなんてまっぴらとリリーは言う。俺とお前の中じゃないかと寅さんは反論するが、リリーは夫婦じゃないだろと答える。寅さんがお互いに書体なんて持つ柄かよと言うと、リリーはアンタ女の気持ちなんてわからないのねと答え涙を流す。そこへ高志がやって来て寅さんにリリーを大事にするようにと忠告するが、寅さんはリリーと高志ができていると勘違いして激怒、家を出て行ってしまう。片付けをするリリーの元へ家の母さんや娘富子がやって来てリリーを慰める。

 翌朝、母屋で寝ていた寅さんは離れに行きリリーに謝罪するが、すでにリリーは去った後だった。慌てる寅さんに富子が話しかけるが、寅さんは船に乗って船長に東京まで連れて行ってくれと頼む。

 

 仕事を始めるというリリーとそれを止めようとする寅さん。(映画の中での)最初の晩の会話で逃げられてしまったリリーは金の問題を持ち出し、最後の手段に訴える。それでも寅さんは冗談口調で返してしまう。11作のラストとら屋でのリリーの流した涙とも、15作小樽でひどいことを寅さんに言われたリリーが流す涙とも違う、3部作の中で最も悲しいリリーの涙がここで流される。

 高志と寅さんが始めたケンカを止めるためにリリーが取った手段は、ちゃぶ台返し。アニメ巨人の星以外でこれを見たのは初めてかも(笑

 

 再びとら屋 

 さくらが帝釈天で御前様に挨拶をし、とら屋へ。参道では行き倒れがあったと騒ぎになっていた。その行き倒れは寅さんで、とら屋へ担ぎ込まれる。医者に診てもらい栄養失調だと診断され皆は一安心。寅さんはおばちゃんが買って来た出前のうな重を夢中で食べる。

 夜、元気になった寅さんに皆は沖縄でリリーと何があったのか尋ねる。例の晩の話をする寅さん。それはリリーさんの愛の告白だとさくらが言い、博は笑い事ではないと諭す。寅さんはどうすればいいかと聞くが、リリーがどこにいるかわからないと話す。その時電話がなる。しかし間違い電話だった。

 

 沖縄での寅さんとリリーのシリアスなシーンが続いた後のとら屋。行き倒れの寅さんが戸板で運ばれて来てからの一連は、喜劇にもどすためのシーンだろう。そしてこのシーンの最後、寅さんがリリーがどこにいるかわからないと言ったところで鳴る電話。映画冒頭で絶妙のタイミングで寅さんからかかって来た電話が思い出され、この電話はリリーかもと観客もが思ったところでの間違い電話。見事である。

 

 リリーがとら屋に

 翌日リリーがとら屋へきて二人は再会。茶の間で二人は皆に沖縄での生活ぶりを話す。楽しかった生活をリリーが語り、沖縄民謡を歌う。それを思い出し夢見心地になった寅さんはリリーに俺と所帯を持つかと言ってしまう。呆然とする皆だったが、寅さんが正気に戻ったことに気づいたリリーは変な冗談を言って、みんな間に受けるわよと答える。そしてリリーは語る。「私たち夢を見ていたのよ、きっと。ほらあんまり暑いからさ」

 寅さんとさくらは柴又駅にリリーを送って行く。さくらはさっきのお兄ちゃんの言葉は少しは本気だったのよとリリーに伝える。「わかってる、でもあぁしか答えようがなくて」とリリーは答え、去って行く。

 夏、お盆。御前様がとら屋へ。寅さんとリリーのことを聞いた御前様が一言。「生きてる間は夢だというのはセキスピアの言葉でしたな」

 御前様のお経が始まり、茶の間の下座にいたタコ社長が机の上の高志からの手紙を見る。高志の声での朗読。

 

 第15作のブログで15作がファンの間で一番に選ばれている理由として、終盤の名シーンラッシュと書いたが、この25作の終盤は名セリフのラッシュと言える。とら屋での二人の会話。寅さんのプロポーズを冗談だとリリーは返すが、これは15作の見事な裏返し。そして柴又駅でのリリーのセリフ。ここではさくらももう何も言わない。寅さんの相手はリリーが一番だということも確信しつつ、二人が結婚するということはないことも確信したさくらなのだろう。

 

 あまりに爽やかなラスト

 田舎道のとあるバス停。バスが来ず困っている寅さん。通りかかったバスがいたが、路線バスではなくがっかりする。しかしそのバスが止まり、中から女性が出て来てバス停へ行き、うなだれている寅さんの前に立つ。

 見上げた寅さん、それがリリーとわかり

 「どこかでお目にかかったお顔ですが、姉さん、どこのどなたです」

 「以前お兄さんにお世話になった女ですよ」

 「はて、こんないい女をお世話した覚えはございませんが」

 「ございませんか、この薄情者」

 この後リリーが乗って来たバスに寅さんを誘い、二人は一緒に旅立っていく。

 

 名セリフラッシュの最後を飾るのにふさわしい二人のやりとり。既にとら屋でのことを謝罪することもなく、芝居掛かったセリフで会話をする。この時の寅さんの表情がたまらない。ちなみにこれらのセリフの後、リリーに何をしていたのかと問われた寅さんが、「俺はオメェ、リリーの夢を見てたのよ」というとどめの一撃がある。

 男はつらいよのラストはどの作品も旅の空の寅さんを描きつつ、爽やかに終えるが、本作はその中でもベストと言えるだろう。

 

 

 正月にTVでリリー3部作を連続放送していたので録画、第11/15作に引き続きそれを観ることに。

 シリーズ第25作であり、リリー4部作の3作目。15作から5年後に制作されている。

 

 3回目の登場となるリリー。今回は全2作と異なり、沖縄が舞台となる。マドンナ役が再登場となると、通常のマドンナとは違い既に知り合った仲なので二人の出会いなどを描く必要がないのがメリットなのかとも考えたが、そんなわけはないよなぁ。再会場面をどうするか、に工夫がいる。前15作では函館のラーメン屋台での偶然の出会いとしたが、同じ手は使えない。で、今回はリリーが入院し寅さんが見舞いに訪れるという設定。ここに至る過程も見事な展開である。

 不景気を話題にしたとら屋→キャバレーのチラシの仕事も引き受けている→博がキャバレーにチラシを届けに→そこでリリーと遭遇→リリーが必ずしも健康的な生活を送っていないことが示される→寅さんに電話でそれを伝える→1月後寅さんとら屋へ→そこへリリーからの手紙で入院を知るが場所は沖縄。で大騒動(笑 の末に、寅さん沖縄へ。この流れ、実に見事。

 

 そして3回目ということもあり、シリーズ最初で最後?の寅さんとマドンナとの同居。あぁ第48作で満男がたどり着いた奄美にいた二人も既に同居生活をしていたか。上記したように病院での至福のときを経て、二人の同居。ファンの期待を一身に背負ったこの場面だったが、リリーの一言で雲行きが怪しくなる。

 その後は一気に終盤へ。定番となるとら屋でのマドンナとの再会。しかし映画の時間はほとんど残されておらず、これまた上記した通りの名セリフラッシュで幕を閉じる。

 

 今回久しぶりに男はつらいよを、そしておそらく初めてリリー3部作を続けて鑑賞したが、やはりこの3部作はシリーズ屈指の傑作だと感じた。これらがあったからこそ第48作へ、奇跡とも言える第50作へつながるのだ。