男はつらいよ 寅次郎相合い傘

●713 男はつらいよ 寅次郎相合い傘 1975

 何度も見ている寅さんシリーズ、しかもリリー4部作の一つなので、いつものスタイルではなく、ざっくりとしたあらすじと見せ場を一緒に。

 

 冒頭の夢

 海賊モノ。もちろん西洋の。寅さんは海賊タイガーであり、20年前に別れた妹を探している。奴隷船を見つけタイガーたちはその船を襲い、囚われている奴隷たちを助けるがその中に妹チェリーがいた。奴隷船の船長は吉田義男さん。第11作でも書いたが、夢シーンにだけ登場するパターンらしい。

 

 OP

 土手を行くのは寅さんではなくさくら。これは珍しい。

 

 とら屋

 おばちゃんとタコ社長がTVでエリザベス女王の来日風景を見ている。さくらが帰ってきて、博が女王の旦那に似ているという話に。そこへリリーが寅さんを訪ねて来るが、寅さんは当然旅の空。リリーは旅の途中ということであっさりと帰って行く。

 

 OPに寅さんが登場しないパターンがあったのは驚き。さらにマドンナが寅さんよりも先に登場したのも珍しい(夢シーンを除く)。このためにOPに寅さんを出さなかったのだろうか。本作第15作の前に、同一マドンナとしては吉永小百合の歌子がいるが、それとの違いを出したかったのだろうか。

 

 北海道、サラリーマン兵頭の失踪

 その頃寅さんは北海道函館で易学の本をバイをしていた。宿に戻った寅さんは同宿人のことを心配する。部屋に入ると首を吊ろうといる同宿人を見た寅さんは慌てて止めるが、彼は蛍光灯の紐を結んでいるだけだった。彼は結婚している普通のサラリーマンだったが、ある日突然旅に出て寅さんと出会っていた。寅さんは家に電話するように言うが彼は聞かず。寅さんは仕方なくとら屋に電話。さくらに彼、兵藤の名前と家の電話番号を教え、無事だと連絡するように伝える。さくらは言われた通り兵頭家に連絡。翌日兵頭の妻はとら屋へ。

 

 寅さんが困っている人を助けるのも定番。可笑しかったのは、寅さんが北海道から長距離電話をかけたため、10円玉がないと呟いたのを受けて、おばちゃんが10円玉を差し出そうとするシーン。博に止められていたが、いかにもおばちゃんらしいエピソード。

 

 リリーとの再会

 寅さんと兵頭は北海道を旅して回るが二人の金は底をついていた。函館の屋台でラーメンを食べていた寅さんと兵頭。そこへリリーが客としてやってくる。再会を喜ぶ二人。3人は同じ宿に泊まることに。リリーは足が冷たいと寅さんの布団に入ろうとするが冷たくあしらわれ、兵頭の布団へ。翌日汽車で旅する3人。札幌に行き、兵頭を売り子に、寅とリリーがサクラとなって万年筆の泣きバイをし金を稼ぐ。

 

 寅さんのバイはシリーズで何度も描かれるが、源ちゃん以外のサクラを使っての商売は本作のみかも。万年筆の泣きバイ、これも定番中の定番。

 

 小樽へ

 3人は小樽へ。兵頭の初恋の相手が小樽出身の女性であり、兵頭はここへ来るために旅をしていたのかもと話す。そしてその女性に会いに行くことに。家を訪ねるが夫と死別して引っ越したと聞き、兵頭は一人、女性のやっている喫茶店へ。寅さんとリリーとは波止場で合流することに。喫茶店に行った兵頭は女性が自分を覚えていてくれたことを喜ぶが、それだけを確かめ去ってしまう。それを聞いた寅さんは同情するが、リリーは女は男に幸せにしてもらうつもりはないと断言、それに怒った寅さんはリリーに旦那に捨てられたんだろうと悪態をつく。それを聞いたリリーは涙を流し去って行く。

 

 売り言葉に買い言葉、でリリーに悪態をついた寅さん。冗談のつもりで言ったのだろうが、リリーをひどく傷つけることに。リリーが旦那と別れた理由は映画の中で明かされない。寅さんの言葉が真実をついたかどうかは不明だが、リリーのその前のセリフから考えれば、男に捨てられた、というセリフが許せなかったのだろう。

 

 再び、とら屋 リリーとの再会

 さくらは自宅に戻った兵頭からの電話をとら屋で受ける。しかし寅さんの行方はわからず、心配している皆の前に突然寅さんが帰って来る。寅さんはリリーとのケンカ別れのことを告げ後悔しているとを話すが、そこにリリーがやって来る。再会する寅さんとリリー。とら屋ではリリーを迎え入れ夜宴会が始まる。皆が歌を歌い、博が下手な歌を披露するが、それを助けるためにリリーが歌い出したのを見て皆は歌をやめリリーの声に聞き入る。お開きとなり2Fへ上がるリリーに足が寒くはないかと寅さんが言うのを聞いて、とら屋の皆は驚く。

 

 とら屋での再会シーンは名シーン。寅さんが珍しく自分の言動を反省しているところへリリーがやって来て、お互い相手に許しを請う。リリーがマドンナでなければありえないシーンと言える。宴会後の寅さんとリリーの会話が良い。第11作でリリーの言葉に慌てた寅さんとは別人のよう。

 

 寅さんのアリア

 翌朝寅さんはとら屋に泊まったリリーのために朝風呂を沸かす。そしてリリーが夕飯に餃子を作るために一緒に買い物へ。腕を組んで商店街を歩く二人を見た御前様がとら屋に忠告に来る。街でも仲の良い二人は噂になっていた。

 夜。博が一人夕飯を食べていた。おいちゃんおばちゃんは街で寅さんとリリーのことが噂になっていることを嘆く。そこにタコ社長がきて追い打ちをかける。

 そこへ寅さんが帰って来るが、様子がおかしい。尋ねるとリリーをキャバレーに送ったが、その店がとても小さく貧相な店だったのでリリーが可哀想だと話す。そして金があればリリーに大きな会場で歌わせてやりたいと語り出す。男はつらいよのテーマ曲のBGM。リリーはきっと泣くよと話しながら寅さんの涙。

 翌日。兵頭がメロンを土産にとら屋を訪ねて来る。寅さんと北海道での思い出話を語る。帰り際、送ってくれたさくらに兵頭は寅さんとリリーの結婚式はいつなのかと尋ね、式にはぜひ呼んでほしいと頼む。

 

 リリーが友人宅を追い出され、そして有名なメロン騒動

 昼間。リリーは買い物をしてアパートへ帰る。しかしそこは友人の家で、友人の彼氏が訪ねてきていた。居場所を失ったリリーはさくらに電話をし、泊まるところがないので泊めてほしいと頼む。バス停まで迎えに行ったさくらだったが、バスの中でリリーに絡んだ男たちがつけてきたのをリリーが一蹴する。

 翌日(と思われる)、さくらとともにリリーはとら屋へ。リリーは博の工場へ見学に行っており、父親が印刷工だったことを明かす。そして「メロン騒動」。寅さんに啖呵を切ったリリーをとら屋の皆が絶賛、寅さんは一人飛び出して行ったが、帝釈天と思われる場所で源ちゃんに出前を頼んでいた。

 

 寅さんとリリーの相合い傘

 夜のとら屋。店じまいをするさくらとおばちゃん。さくらが雨が降り始めたことに気づく。そこへ寅さんがやってきてリリーのことを聞く。さくらは寅さんが傘を持たずに仕事に出かけたリリーのことを心配していることに気づき、傘を渡し迎えに行くように伝える。

 柴又駅。仕事を終え帰ってきたリリー。駅前に寅さんがいるのを発見し駆け寄る。寅さんはリリーとともに相合傘でとら屋へ戻る。

 

 メロン騒動も有名で第50作に使用されたが、このリリーとの相合傘のシーンも名シーンであり、第50作で使用されていたことを思い出す。本作の終盤前にこの名シーン2つが連続しているのだ。

 

 そして終盤へ

 さくらは博や満男とともに河川敷へ。さくらは兄がリリーと結婚すれば上手く行くと思うと博に話し博もそれを認める。

 とら屋に戻ったさくらはリリーにその話をする。冗談よと散々逃げを打った上で、リリーさんがお兄ちゃんの奥さんになってくれたら、と話す。リリーはそれを承諾。喜ぶさくら。そこへ寅さんが帰ってきたため、さくらは喜んでそれを伝えるが、寅さんは冗談だろとリリーへ話す。リリーは冗談だよと言い、突然見つけて来たというアパートへ帰って行く。

 博やさくらは追いかけるように寅さんに言うが、寅さんは2Fへ。さくらは2Fへ上がり話をするが、寅さんはあいつは頭が良く、自分とでは幸せになれないと話す。

 季節が変わり夏。兵頭がとら屋へ訪ねてきて寅さんとリリーの話を聞く。寅さんは海岸にいた。そこには函館で一緒だったキャバレーの女性たちがおり、寅さんは彼女たちと一緒の車に乗って旅に出るのだった。

 

 正月にTVでリリー3部作を連続放送していたので録画、第11作に引き続きそれを観ることに。

 シリーズ第15作であり、リリー4部作の2作目。11作から2年後に制作されている。

 冒頭から北海道にいる寅さんが描かれる。しかも珍しく旅の友がおり、それが船越英二扮する兵頭。エリートサラリーマンだった彼が突然失踪、偶然出会った寅さんと北海道を旅している。寅さんは兵頭の身の上を心配するが、本人は御構いなしで寅さんとの旅を楽しんでいる状況。ここにリリーが加わり、3人のロードムービーのような展開を見せる前半。本作は1975年製作だが、その前年1974年、我らが健さん勝新と組んだ「無宿」が公開されており、これは男2人女1人のロードムービーだった。元を正せばその数年前の1967年にアランドロンが出演した「冒険者たち」というやはり男2人女1人のロードムービーがヒットしており、本作の前半はこれら2本のオマージュに見える。

 

 中盤、小樽で初恋の女性と会った兵頭の行動が元となり、寅さんとリリーはケンカ。上記したように、女が男に幸せにしてもらうという考えがないリリーにとって、「男に捨てられた」という寅さんのセリフ(考え)は、寅さんを同じ仲間だと思っていたリリーにとってはショックだったのだろう。

 

 後半はとら屋に戻って来た寅さんとリリーの物語。メロン騒動、相合傘、そしてさくらによる代理プロポーズに答えるリリー。名シーンのラッシュ。多くの寅さんファンが本作をシリーズベストにあげる理由がこの後半にあるのだろう。

 今回連続して2本を鑑賞して、第11作も本作15作に負けない傑作であると思った。11作のラスト、別れのシーンでリリーは「寅さんなんて嫌いだよ」と言い残しとら屋を去って行くが、シリーズの中でリリー以外に寅さんのことを「嫌い」だと言ったマドンナはいなかったと思う。この言葉にこそ、リリーの本音が隠されている。

 

 それでもやはり本作の後半の名シーンラッシュはスゴいと言わざるを得ない。一度ケンカ別れした二人がとら屋で仲直りをし、町の噂になるような仲良しぶりを見せつける。とら屋の皆の心配をよそに、寅さんがリリーに広い会場で歌を歌わせたいと語るアリアもあった。そうか、ここから既に名シーンラッシュは始まっていたのか。

 

 3部作の最後は第25作。本作の5年後に公開される。正月に録画した最後の一本、酒でも飲みながら見ることにしよう。