●あきない世傳 金と銀13 大海篇 高田郁
五鈴屋として吉原での衣装競べに出るが優勝はできず。それでも幸は菊栄と新店舗を開き、力造が吉次のための新色を生み出すなど、商売は順調に伸びる。そんな中、新店舗が二重に売られていたことが発覚、店を閉めることに。以前の木綿の買い占めや店の二重売りなどが音羽屋の仕業だと判明、音羽屋は捕まってしまう。様々な試練を乗り越え、五鈴屋江戸本店は16周年を迎える。
以下の13章からなる。
1章 北国春景 1764年
幸と菊栄 大文字市兵衛に誘われ吉原へ行き、吉原の変化を聞く
吉原では太夫がいなくなり、客層も変化
幸 五鈴屋も同じだと思う
2章 新たな時代へ
元号が変わる
大阪から鉄助、手代3名、丁稚2名が江戸へやってくる
今津文次郎から 以前あった綿の買い占めは偽名、伊勢屋吉兵衛によるものと判明
大吉 手代に
幸 新店舗を検討、菊栄も新店舗を探し見つかるが大きすぎ 笄が完成
新たな貨幣である銀貨が発行される
3章 秋立つ
歌扇の衣装 黒地に5つの白紋染
お才から田原屋が音羽屋へ恨みを持っていること、音羽屋は若い時に小紋染を考えついていたことを聞く
幸 砥川と吉原へ 扇屋宗右衛門と花扇と会う。その後歌扇と会うが、彼女は衣装競べへの参加を勘弁して欲しいと話す 幸 歌扇の立場を話す
幸 結と4年ぶりに再会、今後のことで忠告される
4章 華いくさ
幸 新店舗を探すが良い物件がなく、菊次から白粉商末広屋を勧められる
衣装競べを誰かが煽っていると聞く
長月一日 衣装競べが行われる その場に音羽屋と惣次が同席しているのを見かける
5章 時運
衣装競べの結果、音羽屋の花扇が1位、歌扇は2位となる
幸は菊栄と新店舗を分けて使うことに
菊栄の笄 相撲開幕日に売り出し 銀3匁で
6章 幕開き 1765年
新店舗の暖簾を力造に頼む
江戸本店13周年 砥川から音羽屋が吉原で法外な儲けを出していると聞く
冬 浅草で火事が発生 暖かくするための手段で孫六織子と紋羽織を思い出す
幸 新店舗に移る前夜 菊栄からお守りとして笄をもらう
町会で贔屓屋と会う
新店舗で早速賢輔が穂積家から嫁荷の注文があるかもしれないと話す
初午 菊栄の店開店 歌扇が菊栄のために歌を歌う
7章 次なる一手
幸 新店舗呉服町店を井筒屋が探っていると聞く
力造 吉次のための新しい色に取り組み1年半、まだ気に入ってもらえず
寄合で相撲双六のおかげで売り上げが伸びたことが報告される、恵比寿屋は下野国のい木綿栽培の現状を話す 幸は紋羽織のことを皆に話し教えてもらう
幸 砥川の妻が吉原の出だと知る
8章 恋江戸染 1766年
近江屋が鮒寿司を持ってくる その際佐助が以前小間物屋の娘さよと恋をしていたことを聞く、それが縁談を断る理由らしいと
穂積家の嫁荷の注文が正式に決まる
力造が吉次のために作っていた新しい色、王子色が完成する
如月29日、芝居町で火事
町会 贔屓屋盆踊りを提案 幸 王子色で揃いの小物を作り売ることを提案
文月15日 吉次の新たな演目初演 王子色が人気となる
9章 奈落
寄合で下野国で木綿を白くする技法が見つかったと報告される
呉服町店が二重売りされていたことが判明 売った末広屋が不正を働いた模様
名主に買ったもう一方の相手の名前を聞くと、井筒屋保晴だと判明、井筒屋は店を五鈴屋に売るつもりがないとのこと
10章 激浪
呉服町店を閉めることに
江戸2カ所で時間をおいて火事発生 幸 逃げる途中に気を失う
11章 一意攻苦
火事で町がまた元気をなくす、富五郎が五鈴屋へ 以前の支払いだと20両を差し出す
幸 組合の会所の再建に積み立てておいた100両を出す
幸 田原町の店全体で一緒にできることを思いつく 菊栄は新店舗を田原町に
寄合 田原町の店を双六にすることを提案
12章 分袂歌
幸 和三郎に町全体で統一した看板を作ってもらうことに
音羽屋が謀書謀判で捕まる 幸 惣次に音羽屋が捕まった理由を聞く
幸 捕まった結の身元引き受け人として迎えに行くが、結は一人去って行く
13章 金と銀
幸 和泉屋から紋羽織の手法を教えてもらう
幸 賢輔に助けてもらった礼を言い、賢輔の気持ちを知ることに
田原町の店を双六に見立てたことが評判となる
江戸本店16周年 16年前の開店日に店を訪れた母親が娘を連れて店へ
シリーズ13作目にしてシリーズ最終作。ざっくりとしたあらすじは冒頭に書いた通り。
吉原での衣装競べと新店舗の話で終わるかと思ったが、そんな簡単な幸せで終わらせてくれる著者ではなかった(笑 新店舗を菊栄と一緒に始めてそれが上手く行き始めた時には、あぁこれで終わりかと思ったが、その新店舗が二重売りされていることが発覚、しかも家の権利は相手側にあるとされ、五鈴屋と菊栄はともに店を閉めることに。そこから音羽屋が捕まり、結局二重売りも音羽屋が絡んでいたことが判明、そこに惣次も一枚噛んでおり…。
最終巻となる本作でも、幸は試練を与えられるのであった(笑 幸は江戸本店に力を入れることとし、町会の皆と力を合わせて町全体を盛り上げる工夫をして話は終わる。
何冊か前の感想でも書いたが、著者の「みをつくし」シリーズも終盤バタバタした感じがあったが、本シリーズも同じような結末となってしまった。新店舗の二重売りによるトラブルは本当に必要だったのかしら。このトラブルでシリーズ最終巻であるにもかかわらず、バタバタとして終わってしまった感じが強い。いろいろと汚いことを仕掛けてきた音羽屋が最後に因果応報の報いを受けるのは当然だが、そのための新店舗閉店だとしたら、ちょっとなぁ。
それ以外にも、賢輔の幸への思いや佐助が縁談を断る理由などこの話をもう少し読みたかったのに、と思う伏線めいたものが多すぎる。紋羽織の件も中途半端だし。力造が編み出した吉次のための王子色を、町会全体の盛り上げと一緒にラストに持ってきてもよかったのではないかと思うんだけどなぁ。
それでもラスト、江戸本店16周年の店先を描いた場面は良かった。6巻の最終章で描かれたあの若い母親がここで再登場してくるとは。あのシーン、金のない若い母親の気持ちがわかるだけに幸たちが何もできず、お待ちしています、と声掛けで終わったのが妙に印象に残っていたが、シリーズ最後にそれを持ってくるとはなぁ。ここは涙せずにはいられなかった。と考えると、新店舗である呉服町店は閉店していないとこのシーンは説得力がないので、やっぱり二重売りのトラブルは必要だったのか(笑
13作あったシリーズも本作で終了。「みをつくし」は食べ物がテーマであったためとっつきやすい話だったが、本シリーズは着物や反物がテーマで男である自分にはちょっと身近とは言えないものだったが、まぁ楽しく読むことができたシリーズだったかな。
特別編ということで、後日談を語るものが2冊発行されているらしいが、これはまたしばらく時間を開けて読んだほうが良さそうだ。
そう言えば、NHKでドラマ化されたものも全て観たが、あちらも原作にまして話の進み方が早かったように思う。なかなか良いドラマだったと思うが、原作を知らない人は話にちゃんとついていけたのだろうか。ドラマは智蔵と幸が一緒になるところで終わったが、原作からすれば半分も進んでいない状態。シーズン2が製作されるのだろうか。幸役の小芝風花さん、ドラマに引っ張りだこの状態だから、作られるとしてもちょっと先の話になりそう。