遥かなる山の呼び声

●718 遥かなる山の呼び声 1980

 男が一人大自然の中を歩いている。その男が嵐にあい、牧場を営む母と息子の家へ一晩止めて欲しいと頼みに来る。母民子は物置に男を泊める。その夜、牛の出産が始まり、男はそれを手伝う。翌朝男は出て行くが、民子はお礼にと息子武志に持たせてお金を渡す。その際、男は武志の父親が亡くなっていることを知る。

 夏。男はしばらくぶりに民子の家を訪れ、食わせてらもうだけで良いのでこの牧場で働かせて欲しいと頼む。民子は男の態度を怪しみながらも雇うことに。男は以前牧場で働いたことがあるといい、民子の仕事を手伝う。近所の主婦は男が家に来たことを注意するように民子に話す。主婦の娘は武志とともに男に馬に乗せてもらうなど、武志は少しずつ男に懐いていく。ある晩民子は男の名前を武志に聞くように言う。男は田島耕作と名乗る。民子は田島に事情を聞こうとするが、田島は詳しいことは聞かないで欲しいと話す。

 ある日、民子の家に虻田がやってくる。彼は民子に惚れており結婚したいと考えていて様々な差し入れを持って来ていた。虻田は改めて民子に結婚の意思がないかを尋ねるが彼女は断る。虻田は民子に乱暴をしようとするが、民子に拒まれ帰っていく。田島がその場に訪れるが、民子はどうして助けてくれなかったのかと怒る。

 民子の夫の3回忌が行われる。集まった近隣の住民は民子が一人で牧場を続けていることを心配する。虻田がまた差し入れを持ってやってくる。またも結婚の話を出す虻田だったが、民子に断られる。執拗に迫る虻田に民子は悲鳴をあげる。それを聞いた田島がやって来て虻田に水を浴びせかける。虻田は逃げ帰るが、しばらくして兄弟を連れて戻ってくる。ケンカとなるが田島は虻田の弟たちを一蹴する。虻田は謝り手打ちをしようと言い出す。それを武志が見ていた。その夜物置に食事を運んで来た武志は田島の活躍を褒めるが、母に見たことを喋ってしまったことを白状し、田島に叱られる。そこへ虻田兄弟がやって来て、手打ちだと言い酒を飲みに誘うが田島は断る。すると虻田は酒や女を連れ込んで物置で宴会を始める。

 作業をしていた民子が腰を痛め入院することに。留守を預かった田島は武志をともに仕事をこなす。虻田もそれに協力する。見舞いに来た近所の人間に民子は農場を続ける理由を話す。ある夜民子がいないため武志は物置に来て田島と一緒に寝たいと話す。田島は自分の父親が自殺した話を武志にする。

 民子が退院して家に戻ってくる。民子の従兄弟勝男が妻を連れ民子の家にやってくる。夕食時、勝男は民子の民子の女学生時代の話をする。その後民子は夫と駆け落ち同然で田舎を飛び出したが、駅に見送りに来たのは勝男だけだった。翌日勝男は民子は可哀想なんだと言い残し去っていく。

 田島は乗馬が得意で武志や民子を馬に乗せる。駅に田島の兄がやってくる。兄は土産だとコーヒーサイフォンを渡す。教師をしていた兄だったが、田島が起こした事件がきっかけで教師をやめ塾を開いていることを話す。兄は田島にいつまで今の所にいるつもりだと話すと田島はできる限りいたいと思っていると答える。

 その夜コーヒーを入れている田島の元へ民子がやってくる。民子は博多にいたことを話す。田島は仕事が辛くないかと尋ねると民子は仕事を続ける理由を語る。そして田島にいつまでいてくれるのかと問い、田島は奥さん次第だと答える。

 田島は牧場の馬に乗り草競馬に出場、見事優勝する。しかし会場に刑事がきており、田島に声をかける。その後田島と民子、武志は街の祭りを見にいく。民子が田島の服を買いに行くが、その間に田島は刑事たちが自分を見張っているのに気づく。

 その夜、田島は民子にまた旅に出ると話す。理由を問われ、2年前に妻の葬式で暴言を吐いた相手を殺してしまったことを告白する。その夜、牛が病気となる。獣医を呼んで徹夜で治療をしてもらう。民子は田島に本音を伝える。治療のかいがあり牛は持ち直す。

 翌朝民子は武志に田島が出て行くことを伝える。武志は信じられずにいたが、パトカーがきて田島は刑事に連行されて行く。民子は武志にお金を渡し田島に渡させる。

 冬。田島の裁判が行われ懲役刑となる。田島は刑事に列車で護送される。ある駅で停車中、虻田が列車の窓から田島を見つけ声をかける。列車が動き出し田島の乗る車両に民子と虻田がやってくる。虻田は田島に聞こえるように民子の現状を尋ね、民子が牧場を辞め何年の先に帰ってくる夫を待つために中標津の街で働いていると話す。民子は刑事に断って田島にハンカチを渡す。

 

 

 健さんの没後10周年ということでBS松竹東急が健さんの映画を何本か放送していたうちの1本。このブログでまだ取り上げていなかったので鑑賞。

 昨年秋にNHKでリメイク版とその続編が放送されたものを見ていたので新鮮味はないかなと思っていたが、リメイク版はオリジナルとは異なる設定などがあったため、オリジナルの良さを改めて感じることに。NHK版は阿部寛が少し喋りすぎだと感じており、映画もそんなだっけと思っていたが、やはり健さんは寡黙だった(笑 ハナ肇演じる虻田が最初に民子を襲った時、何もしないで怒られた健さんがもどかしい。しかしその後再度同じことが起こった時の健さんは素早かった。虻田3兄弟との対決もあっという間に相手をのしちゃったし。

 健さんが武志に幼少時代のことを語る場面や民子の駆け落ちなど、リメイク版にもあったかしら?改めて観てみるとオリジナルは作りが丁寧だと感じる。健さん演じる田島や倍賞さん演じる民子の人となりをキチンと描いているんだなぁと今更ながら。

 

 本作の見どころは何といってもラストシーン。ハナ肇演じる虻田のわざとらしいセリフが泣かせる。あまりシーンに合っていないBGMが流れるのも今見ると不思議に調和しているように感じるのも不思議。健さん映画の中でも、山田洋次監督作品の中でも一番だと思える、記憶に残るラストシーン。「黄色いハンカチ」にも負けない名ラストシーンだと思うがどうだろうか。

 

 そういえば今回初めて知ったが、武志役の吉岡秀隆さん。本作の出演がきっかけで「男はつらいよ」の満男役に抜擢されたのね。確かに本作でも少年ながら見事な役者ぶり。もともと「シェーン」にインスパイアされて作られた作品らしいが、ラスト前、パトカーに連行されて行く田島を追いかける武志少年の叫びは切なかった。「シェーン」のラストには叶わないかもしれないが、それはこのシーンが映画のラストではなかったためだろう。

 余談だが、初めて観た時はこの別れのシーンの後が続くのが解せなかったが、ラストの列車の中のシーンを見て納得した覚えがある。

 

 もう一つ蛇足。NHK版を見て、このストーリーを4つの季節に区切っていたのが不思議だったが、オリジナルである本作もそういう設定だったのね。春に出会いがあり、夏に健さんが戻ってきて、慣れ親しんだ後に秋の祭り。そして裁判が行われる冬。あぁなるほどね。

 wikiにも4つの季節ごとのあらすじが書かれている。そのwikiにはラスト、民子が田島に渡すハンカチが黄色だと書かれていたので、確認したら確かにその通り。しかし「黄色いハンカチ」ほどの黄色ではなかったことをメモしておこう。 

 

 同じBS松竹東急でその「黄色いハンカチ」も放送された。なぜかこのブログではまだ取り上げていないので、そちらも観ることにしよう。