男はつらいよ 噂の寅次郎

●719 男はつらいよ 噂の寅次郎 1978

 何度も見ている寅さんシリーズ、いつものスタイルではなく、ざっくりとしたあらすじと見せ場を一緒に。

 

 冒頭の夢

 時代劇。冬、貧しい家の娘おさくが道端の寅次郎地蔵尊にお餅とみかんのお供えをする。寒い中佇む寅次郎地蔵におさくは自分の着物を着せてやる。おさくが家に帰ると父親が借金返済を迫られており、おさくはお代官の妾になることを承知する。そこへ寅次郎地蔵の化身が現れ、おさくの施しに礼を言い、小判や米俵などを出し、柴又村を春に変え、一家を救う。

 この夢も後の話にリンクしていると思われる(後述)。また、時代劇という設定のためか、おさくの父親役として吉田義男さんがこのシーンだけの登場。

 

 OP後、とらや

 OPは川べりを歩く寅さんが画家にちょっかいを出し騒動になる話。

 とらやのおいちゃん、おばちゃん、さくらが寅さんとさくらの父親の墓参りに。そこにいたのは寅さんだった。皆で墓参りをし、寅さんはその心がけを御前様に褒められる。しかし、本当の墓はその隣だった、というオチ。

 旅の途中でちょっと立ち寄ったつもりだった寅さんだったが、皆に見つかったためとらやへ。ここでは寅さんは平和にとらやの皆と挨拶をして終わる。夜、おいちゃんが腰を痛めさくらにマッサージをしてもらっている。配達が辛いとおいちゃんは話し、配達のために人を雇えばという話になる。寅さんは自分がしっかりとしていないため皆に迷惑をかける、と神妙な態度を取る。いつもの夕餉にタコ社長が現れないことに気づいた寅さんは博に話を聞く。タコ社長は不景気のため金策に走っていると聞いた寅さんはタコ社長が自殺を考えているのでは、と騒ぎ出す。工場の従業員に社長を探させる一方で、とらやで葬式ができるよう手配を考え始める。そこへ酔っ払った社長が帰ってきて、寅さんとケンカになる。

 翌朝、さくらはおばちゃんからの電話で、寅さんが謝罪の手紙を残し旅だったことを知る。

 

 寅さんがいつも通りとらやに現れるが、本作では墓参り先の帝釈天で皆と出会う、という珍しいパターン。墓参りがきっかけだったためか、とらやでは平和に過ごしていたが、タコ社長の件でトラブルとなり、いつも通りケンカをして旅に出ることに。

 冒頭の夢の地蔵〜墓参り〜タコ社長の自殺?と人の生死に関わる話が続いているのは見逃せない。これがこの後の話への布石となっている。

 

 

 寅さん旅へ とらやでは職安に募集を

 寅さんは橋を歩いている時に雲水と出会い、女難の相が出ていると告げられる。寅さんは物心ついてこのかたそのことで苦しみ抜いていると答える。その後寅さんはいつもの通り、縁日でバイをしていた。

 とらやでは博が職安に従業員募集の依頼を出していた。

 寅さんはダムである女性と出会う。彼女が泣いているのを見た寅さんは話を聞くよと声をかけ、町の食堂で彼女の失恋話を聞く。寅さんはバスで旅立つが、女性に柴又のとらやと自分の名前を告げる。バスに乗った寅さんは後ろの乗客に話しかけるが、それは博の父親だった。

 

 寅さんと雲水(大滝秀治)の会話が可笑しい。大滝秀治さんの登場はこの1シーン。大滝さんをワンポイントで使うとはなんと贅沢な映画だろう(笑

 その前のシーンでおいちゃんが腰を痛めた話を入れておいて、ここでは博が職安に行ったことがさらりと明かされる。これが本作のマドンナ登場の布石となっている。

 旅先の女性(泉ピン子)の登場も見逃せない。雲水に女難の相と言われた直後のため、ここで何か起こるのかと思うが、この女性とはあっさり別れてしまい、寅さんは女性に食事をご馳走したため金欠に。それが女難の相だったか、と思わせるが、この後のマドンナとの出会いが女難の相であることは言うまでもない。さらに、この女性は終盤に再登場することとなる。

 

 

 博の父との旅

 博の父と出会った寅さんは、彼の旅行に同行することに。宿で芸者をあげて大騒ぎをし、父親を残し一人芸者たちと街へ繰り出す始末。翌日父親は神社や寺巡りをするが、寅さんはタクシーの中で居眠りをするばかり。

 宿でまた芸者を呼んで騒ごうとする寅さんだったが、父親に断られる。つまらない寅さんは本ばかり読んでいるからと反論するが、父親は今昔物語の中の一つの話をする。その話に共感した寅さんは翌朝、バス代と今昔物語の本を借りるという手紙を残し、一人で去って行く。

 

 冒頭の夢から続いた人の生死に関わる話が、博の父親が語った今昔物語の話で完結する。生きることの無常に気づいた寅さん。本を借りるだけではなく、バス代もちゃっかりと借りているのがちょっと可笑しい。

 

 

 再びとらや 寅さんのアリア マドンナとの出会い

 帝釈天で御前様にとらやの場所を聞く女性。あまりの美貌に源ちゃんがあとをついて行く。その女性、早苗がとらやに来て、職安の紹介でやってきたことを告げる。皆は驚くが、早苗は明日から働くと告げ、帰って行く。タコ社長は早苗の美貌に驚き、工場にいる博に告げに行く。博もとらやへ顔を出すが早苗はすでに帰った後。皆で早苗のことを話し笑っているところへ寅さんが帰ってきて、博の父親と会ったことを話す。

 夜、寅さんは博の父に聞いた今昔物語の話を皆に聞かせ、お開きとする。2Fへ上がる時に寅さんは明日9時に旅に出ると話す。

 翌日。9時に早苗が来るため寅さんと会ってしまうことをおばちゃんが心配する。早苗が9時にやってきたところ、旅に出る準備を整えた寅さんが2Fから降りてきて早苗と出会ってしまう。行きがかり上、旅に出なければいけない寅さんはとらやを出て行く。途中さくらと会った寅さんは仮病を使い、とらやへ戻る。お腹が痛いと騒ぎになり、早苗が救急車を呼んだため、寅さんは救急車で病院へ運ばれる。

 夕方、大したことではないと判明した寅さんがとらやへ戻ってくる。寅さんは誰が救急車を呼んだのかと怒り出すが、早苗が正直に自分が呼んだことを告げると態度を一変させ、救急車に一度乗って見たかったと話す。

 

 寅さんでの定番シーンである、寅さんがとらやでマドンナと出会い、旅に出るのを取りやめるパターン。本作ではそれのみならず、仮病を使った寅さんが救急車で病院へ運ばれる騒動に。救急車を呼ばれたことを怒る寅さん、その後態度を一変させるのがたまらなく可笑しい。

 

 

 早苗の生活

 早苗は姉の家へ帰る。居候していることがうかがえる。

 翌日、おいちゃんとおばちゃんが知り合いの結婚式へ。そのため、とらやは寅さんと早苗二人で店番をすることに。早苗が一人で奮闘しているところへ寅さんが2Fから降りてくる。昼飯中だった早苗は弁当を食べる。寅さんは何かと気を使おうとするが、早苗はそんな寅さんを見て、怖い人かと思ったけど優しいのねと話す。その後早苗が別居中だと知った寅さんは喜んでしまう。博はさくらに早苗の力になってやればと話す。その時博は父親に手紙を書いていた。

 

 寅さんがマドンナが人妻だと知り一度は落ち込むが、夫とは別居中で上手く行きそうもないと知ると喜んでしまう。別居中だと知った瞬間の寅さんの微笑み、しかしその後それを喜んではいけないとしかめっ面を作るのが可笑しい。

 また博が父に手紙を書いているが、これも後のシーンの伏線である。

 

 早苗の離婚 そしてとらやでの夕食

 ある日、早苗がとらやに遅刻する旨の連絡を入れる。彼女は喫茶店で従兄弟の肇と会っていた。肇は早苗の夫から離婚届を預かってきていた。早苗は離婚届に署名捺印をする。二人は役所に離婚届を出しに。役所を出た肇は早苗を食事に誘うとするが、今は一人にしてと言われてしまう。

 とらやではなかなかやってこない早苗を寅さんが待ちわびていた。そこへ早苗がやってきて、離婚届を出してきたことを告げる。寅さんはそれは良かったと話すが、早苗は泣き出してしまい2Fへ。さくらが早苗の元へ行き話を聞く。店では寅さんが早苗のために離婚にまつわる言葉を使わないようにとおいちゃんおばちゃんに注意をしていた。早苗が店に降りてくるが、さくらやタコ社長がそんな言葉を使ってしまい寅さんは不機嫌になる。早苗を気遣う寅さんだったが、そこへ旅先で出会った女性が寅さんを訪ねてやって来る。寅さんは早苗の手前、慌てて女性を連れて外へ出て行く。

 夜、早苗を向けて皆で夕食を取っていた。タコ社長も早苗に謝りに来る。寅さんは明るい話はないかと皆に振るが誰も明るい話ができなかった。そんな中、早苗が手を挙げ、明るい話として、私の人生で寅さんに会ったということと話したため、寅さんは照れてしまう。そして早苗は帰って行くが、見送りに出た寅さんに早苗は、私寅さん好きよ、と言い残し帰って行く。

 

 早苗の離婚を知った寅さんのセリフは残酷。しかも寅さん本人に悪気は全くない。涙を見せた早苗は2Fへ駆け込むが、その後さくらのとりなしもあって店へ。ここでは寅さんが禁句を設定するという定番パターンが披露される。よくあるのは、この後寅さん自身が禁句を連発するパターンだが、本作ではそのタイミングで旅先で知り合った女性が登場、いつものパターンから脱している。

 しかし早苗は気分を害することなくとらやで仕事を始める。そしてその夜、恒例のマドンナを迎えてのとらやでの夕食シーン。離婚したばかりの早苗を気遣い、寅さんは明るい話題を探すが、早苗自身が寅さんと出会ったことだと話し、寅さんは珍しく照れに照れる。そこで語ったセリフがおかしく皆大爆笑となる。

 その後早苗は帰って行くのだが、去り際に「寅さん好きよ」のセリフを残して行く。シリーズでも珍しいマドンナから寅さんへの愛の告白である。

 

 

 博の父再登場、寅さんライバルと出会う

 博の父親がとらやへやって来る。店に誰もいなかったため、客の対応をしようとしたところへさくらが帰って来る。

 寅さんは早苗の引っ越しの手伝いをしていた。そこには肇と彼の生徒たちも手伝いに来ていた。寅さんは肇を運送会社の人間と勘違いし小遣いを渡そうとしたが、早苗に従兄弟だと紹介される。生徒たちは肇がまたフラれるのではと噂していた。

 さくらの家に博の父親がやってきていた。そこへ寅さんから電話があり、博の父に会いに来るとのことだった。博の父は喜ぶ。翌日駅に見送りに来たさくらに父親は博のために土地が買ってあると話す。寅さんから預かった五日の旅行で借りた金をさくらは返そうとするが、父親は受け取らなかった。

 

 先のシーンで博が父親に手紙を書いており、父親がとらやを訪ねてきたのはその結果と思われる。ちなみに「男はつらいよ」シリーズは、シリーズ未見の人間がどの作品から見始めても話がわかるように作られているが、博の父親と博の関係はシリーズを見ていないとわからないと思われる。博は優秀な兄たちと比較されるのが嫌で父親の反対を押し切って東京に出てきている。そのためか、博は自分と父親との関係を良くないと考えており、手紙を書くというのは博にとっては珍しいことなのだ。

 ちなみに、この博の父のシーンと早苗の引っ越しのシーンが挟まれるため、早苗の愛の告白の重みは少し和らいだ状態で終盤へ突入する。ここが山田監督の上手いところ。

 

 

 そして終盤へ

 とらやに肇がやって来る。早苗を待っていたが、配達に出ていた。そこへ寅さんが帰って来る。肇は寅さんに預金通帳を渡し、自分は小樽に行く、早苗のことを大事にしてやってくれと話し立ち去ろうとする。それを聞いた寅さんは肇が早苗に惚れていることに気づく。そこへ早苗が帰って来る。寅さんは肇から預かった通帳を渡し、肇が小樽へ行ってしまうことを伝え、肇は早苗に惚れている、不器用だから言えないんだろうけどと話す。早苗は肇の気持ちをわかっていると寅さんに伝えるが、寅さんは本人にそう言ってあげろよと話し、早く肇のところへ行くようにと伝える。早苗は店を休み肇を追いかけて行く。

 その直後、寅さんは旅に出ることに。さくらに止められ早苗さんに何と伝えればと聞かれるが、寅さんは適当なことを言い旅に行ってしまう。

 正月。小樽の早苗から近況を知らせる手紙がとらやへ届く。寅さんから早苗に宛てた手紙も届いていた。寅さんは旅先の列車で旅先で知り合った女性と同席となる。女性は夫との新婚旅行中だった。

 

 早苗の従兄弟である肇が小樽へ帰ることになり、早苗への気持ちを封じ込め寅さんに早苗のことを託す。それを聞いた寅さんは早苗に肇のことを伝えるが、早苗はその気持ちを知っていたと告白、さらに何かを話し続けようとする早苗を寅さんは遮り、肇を追いかけるように言う。この時の早苗は何を話そうとしたのかを考えるとちょっと切ない気もするが。

 

 シリーズ第22作。マドンナ大原麗子の美貌と寅さんへの愛の告白でシリーズの中でも忘れ難い一本。大原麗子はシリーズ第34作でも2回目のマドンナとして登場しているのは、やはり本作が人気があったためだろう。個人的には本作の前年に公開された「獄門島」のヒロインや、同じ頃に放送されていたサントリーレッドのCMが印象深い。

 

 NHKBSで珍しく男はつらいよシリーズを何本か放送しているが、どうやら同シリーズ公開55周年プロジェクトというものが始まっているらしい。良い機会なので寅さんをもう何本か観ておこうか。