男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け

●721 男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け 1976

 何度も見ている寅さんシリーズ、いつものスタイルではなく、ざっくりとしたあらすじと見せ場を一緒に。

 

 冒頭の夢

 珍しく現代劇。車船長はさくらとともに船で巨大人食いザメと戦おうとしていた。おいちゃん、おばちゃん、満男をサメに食われていた。ついにそのサメと遭遇、しかしさくらも食われてしまう。一人人食いザメと戦う車船長だったが、サメに食われそうになる。そこで目が覚める。寅さんは海辺で少年たちと釣りをしていた、というオチ。

 寅さんが日焼けし髭も生やしているのは本当に珍しい。前年暮れに「ジョーズ」が公開されており、そのパロディと思われる。よほど「ジョーズ」がヒットしたんだろうなぁ(笑 ちなみに、ここ最近ブログで書いてきた寅さんシリーズの冒頭の夢は、本編の伏線となっていることが多かったが、本作のこの夢は特に伏線とはなっていないと思われる。

 

 OP後、とらや

 OPは河川敷でチャンバラごっこをして遊ぶ子供達に寅さんが混じり、子供をおもちゃの刀で叩いて泣かせてしまう。その子供の親が出てきてケンカとなるが、それを止めようとした大人たちも巻き込んでの騒動となる。

 とらやでは満男の小学校入学を祝う準備をしていた。そこへ寅さんが帰ってきて、満男入学のことを聞き、ご祝儀を包もうとする。それを聞いたおばちゃんおいちゃんは寅さんの行動を褒める。そこへさくらが満男を連れて帰ってくる。そしてクラスで満男が寅さんの甥だと知った皆が笑ったと話す。皆は怒るがタコ社長が余計な一言を言い寅さんとケンカになる。おいちゃんにこれまでの行き方をたしなめられ、寅さんは飛び出して行ってしまう。

 夜夕食時。博は昼間の騒動を聞き寅さんに同情、おいちゃんたちも反省していた。そこへ上野で飲んでいる寅さんから電話が入る。寅さんは源ちゃんにカバンを持ってこさせようとするが、さくらが謝罪し皆も反省しているので帰ってきてと頼む。さくらに謝られて満更でもない寅さんは家に帰ることを承知する。

 

 恒例のOP後とらやへ帰宅する寅さん。これまた恒例であるタコ社長とケンカをしてしまい、とらやを飛び出し、旅に出ようとするが、さくらに引き止められとらやへ帰ることにする。いつもなら、とらやを飛び出しそのまま旅に出てしまうが、本作では上野で飲んでいた寅さん。ストーリー上、この後老人と出会う必要があるためだが、不自然に感じさせないのが、上手いところか。

 

 寅さん、飲み屋で青観と遭遇

 寅さんは飲み屋でもう少し飲もうとしていた。その時、店で飲んでいた老人が飲み代をツケにして帰ろうとして店員に止められる。それを聞いていた寅さんは代わりに代金を支払い、店を変えて飲もうと老人を誘う。

 深夜、寅さんは老人を連れとらやへ戻ってくる。老人をとらやに一晩泊めてやってくれと言われ、おばちゃんは戸惑うが、二人とも泥酔状態のため、仕方なく泊めることに。

 翌朝、おばちゃんは老人に朝食を作ってやろうと声をかけるが、老人は風呂を沸かしてくれと言い出す。頭にきたおばちゃん、タコ社長が老人に説教しようとするが、布団を片付けるように言われてしまう始末。結局おばちゃんは風呂を沸かすことに。頼みの寅さんは仕事で出かけていたのだった。

 夜、寅さんが帰ってきて、うなぎを食べたいと言ったことを説教したおいちゃんの話など、老人の振る舞いを聞く。寅さんは老人が家で嫁にいじめられているのだろうと同情し、皆に許しを請う。そこへ老人が帰ってきて、うなぎを食べたツケを支払うことに。寅さんが払おうとするが、あまりの高額で驚く。

 

 寅さんが飲み屋で青観と出会う。シリーズではマドンナがらみで寅さんが意外な大物と出会うことはあるが、本作ではマドンナとは関係ないところで大物と出会う初めてのパターン。のちに19作では殿様と会うが、この殿様もマドンナがらみだったことを考えると、本作は寅さんが独自に大物と出会う唯一のパターンなのかもしれない。本作前半は、この青観とのエピソードが続く。

 

 青観の絵が騒ぎを起こす

 翌朝、寅さんは老人に皆の想いを伝える。宿屋じゃないんだからと言ったところで老人は驚く。彼はとらやを宿屋だと勘違いしていた。老人は謝罪のため、紙と筆を求め宝珠の絵を描く。それを神田の大雅堂に持っていって金を都合してもらってくれと寅さんに頼む。

 嫌がる寅さんだったが、頭を下げられ仕方なく大雅堂へ。そこで絵を見せると最初は笑っていた主人が次第に顔色を変え、絵を7万円で買い取ると言う。寅さんは7万円を持って帰り、さくらにもう働く必要はない、金が欲しければ上の爺さんにチョチョっと絵を描かせれば7万円になる、と話す。疑うさくらに寅さんは老人は青観という有名な画家だと話す。しかしはすでにとらやから去っていた。

 夜、青観は自宅に戻っていた。とらやでは、老人が有名な画家青観だったことを知り皆驚く。寅さんはとらやの皆が老人を見た目で判断したと非難するが、自分もみすぼらしい爺さんだと言っていたのだった。その時満男が青観に描いてもらった絵を皆に見せる。また7万円になるかも、と騒ぎになる。しかしその絵をタコ社長と寅さんが奪い合い、結果破ってしまう。寅さんはタコ社長に激怒、弁償をしろと迫りケンカとなる。皆が仲裁し、寅さんは自分の行動を悔やみ、とらやから出て行く。

 

 青観の絵が7万円で売れたことで喜ぶ寅さんだったが青観はすでにとらやから去っていた。後の祭り状態だったが、そこで満男が青観に描いてもらった絵が見つかり騒動に。本作2度目の寅さんとタコ社長のケンカとなり、寅さんは旅に出てしまうことに。

 寅さんが旅に出る前に話す言葉が切ない。「このうちで揉め事があるときにはいつでも悪いのはこのオレだよ。でもなぁさくら、オレはいつもこう思って帰ってくるんだ。今度帰ったら、今度帰ったら、きっとみんなと一緒に仲良く暮らそうって。兄ちゃんいつもそう思って…」 この「今度帰ったら」を二度繰り返すときの寅さんが涙を誘う。

 

 寅さん、旅先で青観と遭遇

 さくらは7万円を返しに青観の自宅を訪ねる。そして青観が播州龍野に旅に出ていると聞く。その龍野で青観は市の観光課長たちに連れられ車で街巡りをしていた。そこで寅さんと遭遇、課長は青観の知り合いだと考え、寅さんも同行させる。夜、青観の歓迎会が座敷で行われ、寅さんも同席する。青観は途中で退席するから後をよろしくと寅さんに話す。寅さんは芸者ぼたんや課長とともに最後まで座敷に居座り宴会を楽しむ。翌日、青観は体調不良を訴え、寅さんが課長たちに市内名所観光に連れていかれることに。しかし前日の宴会が響き寅さんや課長たちは眠り込んでしまう。昼飯で立ち寄った蕎麦屋で一行はぼたんと再会、寅さんは一緒に昼飯を食べることに。その頃青観は昔恋仲だった志乃の自宅を訪ねていた。

 夜、寅さんは課長たちとぼたんとまた宴会をしていた。青観は志乃と過ごしており、志乃に謝罪し後悔していると話すが、志乃は人生に後悔はつきものだと話す。

 翌日、青観と寅さんは龍野を後にする。ぼたんがやってきて宿を去る寅さんに土産物を渡す。寅さんはぼたんにいずれ所帯を持とうなと声をかける。

 

 以前この作品を観たとき、志乃役の岡田嘉子さんのことを調べ驚いた記憶がある。そんな岡田さんの人生を知った上で、青観とのこのシーンの台詞のやり取りを見ると考え深い。

 以下、青観に昔のことを謝罪された志乃が話すセリフ。

 「人生に後悔はつきものなんじゃないかって。あぁすりゃよかったなぁという後悔とどうしてあんなことしてしまったんだろうという後悔」

 

 再びとらや ぼたんもとらやへ

 さくらが御前様にとらやへ帰ってきた寅さんがおかしくなっていると相談していた。寅さんは龍野での楽しい日々を皆に聞かせていた。そこへぼたんがやってきて、さくらを寅さんの奥さんだと勘違いする。夜、ぼたんを迎えて皆で夕食をとる。そこへタコ社長がやってきて、工場の宴会でに出て欲しいと頼み、ぼたんは喜んで参加する。

 翌日出かけていたぼたんがとらやへ帰ってきて、東京へ出てきた理由を話す。以前鬼頭という社長に200万円を貸したが返してもらえていないこと、社長の会社が倒産したためだと言うが、鬼頭の妻などは金を持っており、会社もやっている、つまり鬼頭にだまされたのだということを話す。それを聞いた寅さんは激怒するが、金のことだからとタコ社長に間に入ってもらうことをおいちゃんに提案され仕方なく受け入れる。

 翌日タコ社長はぼたんとともに鬼頭の元を訪れるが、相手にされなかった。とらやに戻ってきた二人から話を聞いた寅さんは自分が仇を取ってやると言い残し出て行く。おばちゃんは心配するが、寅さんが行き先も知らないとさくらに言われ安堵する。しかしぼたんは寅さんの言葉に嬉しいと涙する。

 

 龍野からとらやへ戻ってきた寅さん。なんのひねりもなくとらやへ戻ってくるのはちょっと不思議だが、先日観た「噂の寅次郎」もそうだった。「噂の〜」では旅先で博の父にかけられた言葉に感動した寅さんがそれを伝えにとらやへ戻ってきた。本作も龍野での贅沢な暮らしを喜んだ寅さんがとらやへそれを自慢しに帰ってきたと見るのが妥当だろう。

 ぼたんもとらやへ。旅先での最後の寅さんのセリフがあったので、寅さんに会いにきた、と思うところだが、実際にぼたんの本当の目的は借金返済を鬼頭に迫るためだった。そして話を聞いたとらやの面々はタコ社長をぼたんの助っ人にする。結果的に役には立たなかったが。そして法律では罰することができないと知った寅さんの啖呵。犯罪者になることも厭わず、ぼたんの仇を取ることを決意した寅さんのセリフはカッコ良い。それを聞いて涙するぼたん。ここも記憶に残る名シーン。しかし寅さんは鬼頭の居場所を知らず、どうすれば良いのかと戸惑うオチが続く。

 

 寅さん青観の元へ そして終盤へ

 行き場を失った寅さんは青観の家へ。そしてぼたんにまつわる事情を説明し、絵を描いて200万を作って欲しいと頼む。しかし青観はそれを断る。理由を説明しようとするが、寅さんは受け付けず、上野で出会ったときのことを話し、二度とテメェのツラなんて見たくないやと出て行く。

 ぼたんはとらやから帰って行く。そこへ寅さんから電話が入るが間に合わなかった。上野駅へさくらと源ちゃんが向かい、寅さんにカバンを渡す。さくらはぼたんが寅さんのことを好きなのではを話すが、寅さんは冗談を言うなと言い残し旅立つ。

 夏。とらやへ青観が訪れる。寅さんのことを聞くが、寅さんが旅に出ていると聞きとらやを後にする。寅さんはその頃龍野におり、ぼたんの元を訪れていた。寅さんに気づいたぼたんは家へ寅さんを上げ、青観が送ってきたというぼたんの絵を見せる。それを知った寅さんはぼたんを家の外へ連れ出し、東京の方角を聞きそちらに向かって青観にお礼を言う。

 

 前のシーンで見事な啖呵を切って鬼頭の元へ向かおうとした寅さんだったが、その居場所を知らないことに気づいた寅さん。その寅さんが向かったのは青観の家だった。なるほどなぁと思わせる展開。そしていつかのようにチョチョっと絵を描いてもらい200万を作ってもらおうとするが、断られる。そりゃそうだよなぁ、と思うが、その後のやり取りで、青観も寅さんにキチンと理由を説明できない。説明できない青観を描くのが山田監督の上手さだと思うがどうだろうか。

 そして上野駅の別れがあり、ラストシーンへ。珍しく寅さんがマドンナであるぼたんの元を訪れる。ラストで寅さんがマドンナに会いに行くのは非常に珍しいが、本作の見どころがここで待っている。青観がぼたんのために絵を描いて送ってきていたのだ。寅さんの言葉に負けて?青観が送ってきたのだろうと思わせる。ぼたんの喜びぶりが本作の後半にあったやるせなさを吹き飛ばしてくれる見事なラスト。

 

 シリーズ第17作。見終わってちょっと思ったのは、ぼたんというマドンナはなぜ再登場しなかったのだろうか。普通のマドンナとは異なり、玄人のマドンナであり、リリーと似た雰囲気を持っていたからだろうか。それともぼたんを再度出すためには青観演じる宇野重吉さんにも再登場を願わねばならないからか。大地喜和子さんのwikiを見ていて、この翌年に「獄門島」に出ているのに気づいた。あぁピーター演じる鵜飼を使って本鬼頭を乗っ取ろうとしていた分鬼頭の女性を演じていたなぁ。

 

 蛇足ながら。池内青観の家のお手伝いさん岡本茉利さん、シリーズでは吉田義男さん率いる劇団の大空小百合役の人だよなぁ、声ですぐわかった。