映画館(こや)がはねて 山田洋次

●映画館(こや)がはねて 山田洋次

 山田洋次監督が新聞や雑誌に発表したコラムやエッセイをまとめたもので、1972年から84年に掲載されたもの。

 72年から84年というと、男はつらいよの第9作から34作までの期間。実際に「今、『男はつらいよ ◯◯作』を撮っています」みたいな文章が何度か現れる。

 内容は「美しい女」「修行時代」「寅さんと共に想う」「ズームレンズ」の4章からなる。人生で出会った美しい女性のこと、寅さんについて全般、映画のスタッフについて、などが語られる。

 この本を読んだのは、「男はつらいよ 50年をたどる。」に触発されたから。監督が自らの少年時代の思い出を幾度となく書いている。向田邦子さんのエッセイを読んでも同じことを思ったが、お二人とも本当によく子供の頃のことを覚えているなぁと感心する。「美しい女」はほとんど子供時代に出会った女性のことだし、中国での子供時代のエピソードが本当に多く、しかも細かいことまでよく覚えていらっしゃる。

 もう一つの収穫は、まさに「男はつらいよ」を作っている最中の文章なので、今でこそ「男はつらいよ」は国民的映画、と言われているが、このころはまだ「マンネリ」だという批評を多く受けていただろう時期で、それに対しての監督の決意のようなものが書かれているのが素晴らしい。

 山田洋次監督は昔から変わっていないのだ。