目黒の狂女 戸板康二

●目黒の狂女 戸板康二

 歌舞伎界の老優中村雅楽シリーズの3冊目の短編集。前作よりも多い23話の短編が収められている。

 前作から引き続き、「日常の謎」シリーズと言えるものが多い。巻末の解説によれば、冒頭の2作品が1968、69年発表の作品であるが、それ以降の21話は1976年から1983年のもの。短編集はこの後1985年に発表された1冊で終わりの模様。

 3冊目の本作の特徴は、ラストがより劇的になったところか。前作の「日本のミミ」も雅楽のセリフで痺れたが、本作は6話目の「先代の鏡台」あたりから、ラストのセリフ、もしくはラスト数行で驚くことが多い。

 特に7話目「楽屋の蟹」のラスト1ページは唸らざるを得ない。本編の謎を見事に解決した雅楽とワトソン役竹野の会話で終わるのだが、本編の謎とは別の事実が二つ続けて明かされる。見事な結末。

 しかしこの7話目の評判が良かったのか、7話目以降も同じようにラストに似た展開が多く、驚くことは驚くが少しこじつけ気味のものもある感じ。

 それでも16話目「子役の病気」のラストの雅楽のセリフや、22話目の「窓際の支配人」のラストのオチなど、切れ味に唸らざるを得なかった。

 また相変わらず歌舞伎界の人物が多く登場するが、今回は時代なのか、コロンボの吹き替えをしているという登場人物まで出てくる。実在の人物や架空の人物が入り混じり、まさに中村雅楽ワールド、といった感じ。

 次は短編集としては最後の4冊目。さみしい気もするが楽しみに読みたい。