●その日まで 吉永南央
前作「萩を揺らす雨」の続編で、シリーズ第2作。コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」の76歳の女主人、杉浦草が主人公。彼女の周りで起きる問題を彼女が解決していく短編集。以下の6編からなる。
「如月の人形」
散歩コースにあるアパートで人形を見つけた草、それをきっかけに子供タケルとその叔父田沼と知り合う。タケルは「小蔵屋」のアイドルになるが…
「卯月に飛んで」
福祉作業所たんぽぽで作ったキャンドルを店において欲しいと頼まれたが断った草、その後ライバルの和雑貨店つづらでそのキャンドルが売り出されることに。しばらくしてつづらが小蔵屋の悪い噂話を広めているという話が…
「水無月、揺れる緑の」
草は数十年ぶりに昔の知り合いナオミと出会い、彼女から数十年前の事件の謎の解明を依頼される。草はナオミの旧友たちに連絡を取るが…
「葉月の雪の下」
草はあるきっかけで妹尾という男性と知り合い、「香奈」というカレー屋へ行くことに。草は香奈がとある脅迫を受けていることを知る。事情を聞く中で、不当な不動産売買の存在、その背後に高利貸しマルフジがいることを知る。
「神無月の声」
つづらでボヤ騒ぎが起きる。つづらの元店の店主と草は知り合い、店主も不当な不動産売買の被害者だったことを知る。草は真相を確かめたいと思い始めるが、小蔵屋の駐車場に土砂が撒かれる嫌がらせが発生する。
「師走、その日まで」
不当な不動産売買の件で草はマルフジ会長の藤原に会いに行くことに。藤原は重病で自分の死を隠そうとしていた。そして草は藤原と田沼の関係を知ることになる。
前作は5編の短編集であり、それぞれが独立した事件だったのに対し、本作は6編の短編集でありながら、すべての事件が繋がっており、最終章でその謎が解き明かされる。この作りが実に上手い。途中までは、第1章や第3章は全く大きな事件との関連は分からないが、後半になり第1章で登場した田沼や第3章で登場した能理子が再登場し、大きな事件の全貌が見えてくる。まさに、短編集でありながら長編とも言える。
街で起きている大きな陰謀に年老いた草がどう立ち向かって行くのかと思ったし、ラストは安直な展開とも思えたが、そこで語られる草の思いは深い。
第3章、数十年前の思い出が語られるこの話の途中、久しぶりに会ったナオミから重い病気であることを語られた草が彼女との別れ際の一文、
『コツコツと足音が遠ざかっていく。微かな残り香は、ローズ系の香水に、死期が近い人特有のにおいが混じっていた。』
が衝撃的だった。人生経験を重ねてきた草が気づいた事実は重い。