糸切り 吉永南央

●糸切り 吉永南央

 前作「名もなき花の」の続編で、シリーズ第4作。コーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」の76歳の女主人、杉浦草が主人公。彼女の周りで起きる問題を彼女が解決していく短編集。「牡丹餅」「貫入」「印花」「見込み」「糸きり」の5編。

 

 草が買い物をするために、ヤナギショッピングストリートへ。そこで車に引かれそうになり、電気屋の店先にあったメーカーのマスコット人形を壊してしまう。謝罪のためにヤナギへ何度か通うことになり、ヤナギの再建計画を知ることになる。「帰っておいで」という手紙、新進気鋭の女性建築家、ヤナギの大家の先代女主人の再建への反対、かつてヤナギと関係のあった陶芸家、ヤナギ再建への協力を申し出る外国人、など様々なことが草の耳に入ってくる。草はそれらひとつ一つの問題に関わり合うことになって行く。

 

 短編集の形は取っているが、ヤナギ再建問題がメインとなる長編と言って良い。その影響か、これまでのシリーズの中で最も登場人物の多い話となり、1日1話ずつ読んでいたら、途中話がよくわからなくなってしまった(笑 そのため再読することに。

 

 ヤナギの大家千景と新進気鋭の女性建築家弓削、千景の義母であり再建に反対する幹子、ヤナギで電気店を営む五十川、ヤナギで古家具屋を営もうとする土屋、ヤナギの再建に出資をしようとするジェイコブソン、ジェイコブソンの部下佐々木、かつてヤナギと関係があった陶芸家古谷。

 草を危うく轢きそうになった車運転手佐々木から、ジェイコブソンがヤナギの再建問題に興味を持っていることに気づき、そのジェイコブソンが古谷の作品に並並ならぬ関心を抱いていることを知る。それでも幹子の反対もありジェイコブソンの申し出を断るが、佐々木は執拗にヤナギに関係してこようとする謎。

 

 話の途中途中でよくわからない伏線らしきものが描かれる。疑問に思いながらも読み進めて行くと次々と明かされていく真実。このシリーズはこれまでも「日常の謎系」シリーズだと思って読んでいたが、本作は特にミステリー感が強い。話が複雑に入り乱れる分、謎が明らかになった時の爽快感はたまらない。イメージは全く異なるが、久しぶりに石坂金田一の映画を観ているような気分を味わった。

 

 もちろんこれまで通り、草がその年齢ゆえに感じる独特な思いもまた魅力であることも変わらない。今回は以下の部分をピックアップする。

 

 運転手佐々木が真意がわかり、小蔵屋の久美が怒る。さらに佐々木に対して怒らない草に対しても激怒する。それを受けて

 

『自分が錆だらけに思えてくる。慣れ、あきらめ、どうせという投げやりな気持ち。そういった錆に覆い尽くされ、無反応になってゆくのを想像して、恐ろしくなった。何をされても黙っているなんて、どんな目に遭ってもかまわないと言ってようなものだ』

 

 歳を取ったが故の気持ちだろうが、致し方ないという気もする。しかし常連客の寺田がその直後にかけた言葉で救われ、草も久美に慣れないメールを打つことになる。

 

 シリーズには珍しいほどの悪キャラが登場し、後半嫌な気持ちにもさせられるが、ラストの展開がいかにもこのシリーズらしい結末で救われる。シリーズ第4作にして最高傑作ではないだろうか。