弁当屋さんのおもてなし まかないちらしと春待ちの君 喜多みどり

弁当屋さんのおもてなし まかないちらしと春待ちの君 喜多みどり

 恋人に二股をかけられた上でフラれ、その上札幌に異動となった千春。彼女は偶然見つけた弁当屋「くま弁」に立ち寄る。従業員ユウと会話をし、注文した弁当とは異なる弁当を食べた千春は元気を取り戻し、弁当屋の常連となる。弁当屋「くま弁」と千春にまつわる短編集、シリーズ第5作。以下の4編からなる。

 

「再来の君とまかないちらし」

 ユウの知り合いでファンでもある将平がユウに弟子入りを志願する。伯父の経営する民宿で厨房を手伝っていた将平だったが、接客に回れと言われたことを気にしてのことだった。2日間という短期間だったが、ユウは願いを聞き入れる。千春も料理を習いたいため一緒に手伝いを始めるが、その時熊野が病院に運ばれたと連絡が入りユウが出かけてしまう。さらに弁当の食材がトラックの事故で届かないと連絡が来る。将平と千春は二人だけで弁当の準備をどうするのかを考え、行動に移す。

 

「春風餃子弁当」

 くま弁の常連公森が定年退職をし、以前店で食べた餃子をもう一度食べたいと話す。その時に使った食材がわからずユウたちは悩むが、熊野が取っておいたレシピに挟まっていたあるものから、ギョウジャニンニクだったと判明する。定年してやることを失っていた公森は新しい生き方を探り始める。

 

「ラワンブキの希望詰め」

 千春はサポートセンターの手伝いをした時に顧客である根子田の特徴ある声を覚える。ある時くま弁の客の女性の声が似ていることに気づくが、その客の兄というタマキからなぜかラワンブキをもらうことに。ラワンブキはユウに預け調理をしてもらうことに。千春は顧客の名前が根子田真紀であると知り、タマキが顧客であることに気づき、彼と会話をするようになる。タマキは自分の仕事に自信を失っていたが、千春に教えてもらい仕事をこなすことができるようになったことを感謝する。

 

「行きて帰りしサクラマス弁当」

 千春は東京へ2週間の出張をすることに。機内ではユウが作ってくれたサクラマスの弁当を食べる。ユウと2週間別れて暮らす中、遠距離恋愛や結婚について想いを馳せる。休日、ふと入った弁当屋で老婦人鹿沼光子と知り合う。ずっと山形にいた鹿沼は娘夫婦に誘われ東京で暮らす決心をしたのだった。その話を聞いた千春は出張が終わり、札幌に戻った時にユウに自分の想いをぶつける。ユウが語ったのはサクラマスの弁当に込めた想いだった。

 

 シリーズ第5作。前作では正直ちょっと不自然な展開の話が多かったが、本作ではテーマがはっきりとしており、どの話も最終話に向けた前振りとなっている。テーマはずばり、千春の将来について。札幌転勤3年という縛りの終わりが見えてきており、遠距離恋愛を続けるのか、千春が今の仕事を辞めて札幌に残るのか、という選択に迫られていた。1話から3話までは、自信を持つこと、新しい生き方をすること、自分で選択をすること、の大切さが語られ、最終章で千春は決断をすることになる。

 最終話は想定できた話とはいえ、ここまでシリーズを読んできたファンにとってはご褒美のようなもの。サクラマスの弁当に込められた想いはさすがに唸ってしまった。

 同じ最終話に登場する鹿沼の言葉が、このシリーズの中の言葉で一番共感できた。自分の年齢と鹿沼の年齢が近いこともあるのかもしれないが、若い人たちにも伝えたい良い言葉だと思う。

 

 さて結婚が決まった二人だが、まだシリーズは続くようだ。今後の展開はどうするんだろう?