今朝の春 みをつくし料理帖 高田郁

●今朝の春 みをつくし料理帖 高田郁

 つる屋で働く澪は、料理を作り客に振る舞う。名店登龍楼の嫌がらせで店を失ったつる屋だったが、新たな店を構える。店の主人種市、かつての奉公先のご寮さんである芳、青年医師源斉、謎の浪人小松原、幼馴染で吉原のあさひ大夫である野江など周りの人々とともに、澪は様々な困難に立ち向かって行く。

 以下の4編からなる短編集。

 

花嫁御寮―ははきぎ飯

 美緒に大奥ご奉公の話が持ち上がり、澪は美緒に料理を教えることに。一方小松原が忘れていった紙の中にあったものが地膚子だと源斉から澪は教えてもらいそれが浮腫みの薬だと知る。澪は、店を訪れた武家の奥方と思われる老女からその調理方法を聞く。五日後、店を訪れた老女に澪はははきぎ飯を出す。老女は小松原の母だと名乗る。

 

友待つ雪―里の白雪

 戯作者清右衛門が坂村堂の願いであさひ太夫を題材にした戯作を書くことに。つる屋に太夫のことを知る卯吉が清右衛門に会いにやってくる。彼は女衒で野江を吉原に売り飛ばした男だった。吉原の遊女菊乃が身請けされ店から出ることとなり、澪に会いにやってくる。清右衛門が自分のことを調べていることを太夫が知り、又次が何をするかわからないから止めてくれと言っていると澪に話す。その又次が清右衛門と卯吉に店で出くわし鉄拳を食らわす。澪は清右衛門に蕪の料理で賭けをし勝利する。そして清右衛門に野江とのことを告白し戯作を辞めるようにお願いする。事情を知った清右衛門は澪に4000両で太夫を身請けすれば良いと話す。


寒紅―ひょっとこ温寿司

 おりょうの夫伊佐三が新宿の普請場に詰めることになり家を留守にする。そんなおりょうの元へ伊佐三の親方がやってきて、彼がお牧という茶屋女に入れ込んでいると知らせてくる。そのお牧がつる屋に現れおりょうと対面。親方が伊佐三を連れおりょうの家に来て、新宿の仕事は他に任せるというが伊佐三は聞かなかった。そんな中、お牧が健坊を連れ出す事件が起きる。おりょうは伊佐三と別れる決意をする。親方に連れられ伊佐三が家に戻り、真相を話す。


今朝の春―寒鰆の昆布締め

 料理番付の版元聖観堂の荘太がつる屋にやってきて、登龍楼との料理勝負をして欲しいと話す。悩む澪だったが、勝負に勝てばつる屋に芳の息子佐兵衛が訪れてくれるかもしれないと考え受けることに。食材は寒鰆となり、澪は調理方法に悩む。時間がない澪のためにおりうが店の手伝いに来てくれ、客たちも澪のために食材を持ち込んだりして応援する。そんな中、澪は町で読売が御膳奉行が切腹をしたと聞き小松原のことを心配し、料理中に指を切る怪我をしてしまう。源斉の手当で無事だった澪は小松原の母から寒鰆の差し入れで気持ちを取り戻す。三方よしの日、野江の弁当を作っていた澪は昆布締めを思いつき、それで勝負に挑むことにする。

 

 シリーズ4作目。前作があまりに出来が良かったが本作もなかなかのもの。

 特に「花嫁御寮―ははきぎ飯」ではいよいよ小松原の母が登場。この話はTVドラマ版でも観たが手を赤くしてまで調理をする澪の姿はやはり泣ける。それなのに澪と小松原の恋が進展しないのがもどかしい。

 「友待つ雪―里の白雪」は映画版後半のエピソードそのまま。映画でネタバレしてしまっていたのが残念。映画では澪が野江のために頑張るエピソードとして選んだのかと考えたが、この原作ではこの話はむしろ4000両で野江を身請けする、という途方もないながらも先々の目標が定まるというテーマなのではないのか。

 「寒紅―ひょっとこ温寿司」はおりょう夫婦の話。第2作で健坊とおりょうが病気になるエピソードがあったが、この家族はシリーズに大切なサブキャラ。この話では伊佐三の態度が腑に落ちない展開が続くが、真相が明らかになった時やはり涙してしまう。

 「今朝の春―寒鰆の昆布締め」は前段から話題になっていた今年の料理番付の話。いよいよ登龍楼との一騎打ちとなる。おりうの手助け、名もない常連客からの応援、小松原の母からの差し入れ、など澪の味方が大勢現れるのが泣かせる。澪が怪我をするアクシデントも起きるが、渾身の昆布締めで勝負に出る。つる屋の勝ちで終わるのだと予想していたが、このシリーズはそんなに甘くなかった(笑 それでも小松原が勝負の真相を澪に語りに来るラストは良い。季節も春、昔は年明けがイコール春の訪れだったのね。

 レコーダにNHK版ドラマのSPが保存されていることがわかった。しかしちょっと観てが内容は原作この先のネタバレになるっぽいため、途中で観るのを辞めた。ドラマ版を見るためにも次の作品を早く読まなくては。